「ゲノミクス」って一体何?
アグリゲノムの軸となる研究に「ゲノミクス」があります。
ヒトを例に見てみると、ゲノムの中には二重まぶたにしたり、背を伸ばしたりするなどのさまざまな設計情報を持つ遺伝子が無数に含まれています。ゲノミクスとは、解読済みの全ゲノム塩基配列をもとに、ゲノムと遺伝子について詳しく解析する研究です。
農業にどう役立つの?
ゲノミクスの中でも、研究対象を農業分野に絞ったものをアグリゲノムと呼びます。最近、特に注目を集めているのは効率的に遺伝子を改変できる「ゲノム編集」です。
ゲノム編集では、ある特定の遺伝子を切り取り、遺伝情報を改変します。切り取りには、いわばハサミ役の遺伝子を投入しますが、このハサミ役の遺伝子はその後の交配で取り除くことができます。
農作物の歴史をひもといてみると、私たちの食卓でおなじみのトマトの原種は実が小指の頭ほどの大きさしかなく、毒がありました。先祖がたまたまおいしく育った種を見つけ、長年にわたって交配を続け、品種改良に力を注いできたのです。その努力は素晴らしいですが、現代ではゲノム編集を活用することによって短期間で安定して生産できる品種の開発が可能となりました。人口急増による食糧危機など、世界が抱える待ったなしの課題に素早く対応できるメリットがあります。
どんな用例があるの?イネの試験栽培とは
では実際に、アグリゲノムの代表例にはどのようなものがあるのでしょうか。
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、国内で初めてゲノム編集を用いたイネを屋外で試験栽培しています。
農研機構は2017年5月より、茨城県つくば市にある研究施設の実験用田んぼで、ゲノム編集したイネの屋外栽培を始め、同年秋に収穫を行いました。2017年は6品種を対象にもみの数や実の大きさに関する遺伝子を改変し、120種類以上を育てました。今後、元の品種の収穫量の2割増を目指し、数年かけて実用化に向けた開発を進める予定です(※1)。
他にも、2017年10月には、北海道大学、農研機構などの研究グループが大豆のゲノム編集に国内で初めて成功。今回は植物の大きさに関係する遺伝子を改変しましたが、今後はアレルギー物質を減らすための改良にも期待が高まっています(※2)。
このように、作物の収穫量アップなど、さまざまな期待がされる一方で、国内のルール整備はまだ追いついていません。現行制度は遺伝子組み換え(GM)を規制対象とみなしています(※3)。しかし、ハサミ役の遺伝子が消えることで遺伝子を操作した痕跡が残らないゲノム編集で生まれた作物は、GMの定義に当てはまらず、国内でどう取り扱うかはまだ決まっていません。
技術開発の進展と共に政府がどのようなルールづくりを進めるかが、アグリゲノム発展の行方を左右しそうです。
※1 「ゲノム編集」のイネ 農研機構、初の屋外栽培で収穫:日経新聞
※2 大豆ゲノム編集 初の成功 大きさ遺伝子を改変 北大など:日本農業新聞
※3 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律:農林水産省
上記の情報は2018年4月17日現在のものです。