「栽培データは資産」
三輪:国内外の販路の話になりましたが、桶田さんにお聞きします。先ほどご紹介頂いた「栽培ナビ」は、生産者の栽培履歴やなどもデジタルデータとして見られるものだと思うのですが、いま農業のICT化が一つのブームになっている中で、生産者はこの「栽培ナビ」をどう使うと効率化できるのか、もしくはブランド価値向上に貢献できるのでしょうか。
桶田:記録を残すということは資産を創ることです。差別化できるような作物のデータを、自分の子どもたちに残していくと、貴重な価値になります。市場に出回らないが、地域の特徴的な美味しい野菜というのは沢山あります。その栽培データは埋もれていますが、そういう付加価値の高い作物の栽培方法をデータベースで残していくというようなことが、「栽培ナビ」の最終的目的です。
生産者のおすすめレシピを消費者に届ける一方で、消費者の「美味しい」とか「もっとこういう風に使いたい」といったフィードバックが生産者に伝わることで、どんどんスパイラルアップして行き、農作物の高位平準化に繋がるのではないかと思います。最終的には「三方良し」になるような、使い方を究極として頂きたいです。
三輪: 生産者と消費者がIoT で繋がって、フィードバックを集められると、より強く、より良いものが届くのかなと思います。
人によって、どういうものかが欲しいかは違いますよね。例えば、高糖度トマトと一口にいっても、(※糖度9以上を高糖度トマトと呼ぶ)糖度9が好きな人、糖度14が好きな人と色々な人がいます。IoT化によって、より我々消費者に寄り添った農産物のバリエーションが増えるのかなと思いました。
フィードバックを恐れず、糧に変える
三輪:フィードバックという言葉が出てきたところで、宮本さんにお聞きします。先ほどシェフの方とも繋がって、新しいコラボレーションが生まれたとお話がありましたが、ダメ出しをされたことなどはあったのでしょうか。
宮本:正直、それを求めて交流を始めた部分もあります。昔ながらの流通では、自分の農産物がいいのか悪いのか、うやむやになってしまっていました。具体的な改善方法を教えて頂いて、できる範囲で取り入れると、進むべき道が段々と明確になってくる感覚はあります。
三輪:似た質問を貫井さんに伺いしたいと思います。最近は SNS などを含めて、「生産者の顔が見える野菜」が普及していますが、クレームなどのリスクや怖さを感じたことはないですか。
貫井:美味しい美味しくないというのは好みの部分ですが、GAPなど基準を満たしたものを作ったり、生産管理体制を整えたりすれば、状態の悪いものがお客様のところに届いてしまうということはありません。
万一、異物混入やカビの発生など不具合があったとしたら、私たち生産者が体勢を変えていかなければならないということですよね。今までは農業者というのは良くも悪くも、管理や安全性のチェックを、間に入ってやってもらうことによって、後回しにできたんですね。だけど消費者に直接販売をするようになると、変わってきます。そういう意味では怖いですが、ちゃんとしたものを出さなくてはならないという、いい意味のプレッシャーにもなっていくのかなと思います。
うちはGAPを とる予定はいま現在ないのですが、認証を得て対外的に評価を受けた農家が増えていくのも、消費者の安心感につながるのだろうと思います。
三輪:桶田さんにご質問です。「栽培ナビ」は、栽培のデジタルデータをしっかり残せるものなのだと思うのですが、今後バリューチェーン全体に影響するような機能を実装していく構想はあるのでしょうか。
桶田:我々は、炊飯器や電子レンジなどの調理家電から、コールドチェーン関係の商材も販売しています。今まででいう「モノ売り」では、それぞれの機能に満足できれば良かったのですが、これからはそれを繋ぐことで、さらに価値を生み出す「コト売り」をしていきたいです。
「栽培ナビ」を主軸にして、収穫日などの生産情報を把握したり、GAPに則った農園管理が普及したりできると、流通段階での品質が安定します。今までは、2~3割がロスとして出てしまっていましたが、それを極力減らしつつ、新鮮で美味しい物消費者に届けるということができたら、非常に良い循環ができるのではと思っています。これはできるだけ早い段階で、作り上げていきたいと思います。
あなたにとって農業とは?
三輪:それでは、最後の締めとして皆さんに一言ずつ、「あなたにとって農業とは何ですか?」という問いにお答えください。
桶田:ひと言でいったら「つながる」ですね。生産者から最終の消費者まで繋がってなんぼの世界が農業なのではと、最近感じており、それを座右の銘としていきたいです。
寺田:「文化」だと思います。文化というのは、継続性があり、土地に根付いていく物、発展していく物、そして残していくべき物です。そういった文化に貢献できるように、マルシェを展開できればと思います。
宮本:「笑顔」です。うちの会社の理念でもあるのですが、レンコンで各家庭の食卓の会話に花を咲かせ、笑顔にしたいです。
貫井:楽しいこと、ワクワクすることですね。美味しいものを作ってそれを美味しく食べてもらって、皆がハッピーになる笑顔になっていくそういうのがいいですよね。新しい作物にチャレンジするなど、ワクワクする挑戦を楽しんでいきたいと思います。
三輪:ありがとうございます、素晴らしい締めでした。
自分は、農業とは「ビジネス」と思っています。ここから逃げたら多分日本の農業に未来はありません。ボロ儲けをする必要はないですが、誇りを持ってお金を稼ぎ、そのお金で家族を養ったり地域を良くしたりすることが大切ではないでしょうか。
私の方で最後の締めとして皆さんにお伝えしたいのは、農業って本当に可能性があって楽しいし、本当に工夫しがいのある職業、産業であるということです。もしくはライフワークなのだと思います。パネラーの皆さま、ありがとうございました。
日本の未来を産業・社会を担う“農業”の在り方【NEXT AGRI CONFERENCEレポート:パネルディスカッション前編】