<基調講演>農業支援企業の取り組み事例②
食農×観光で目指す未来志向の農業
株式会社JTB 法人事業本部事業推進部 地域交流事業推進担当部長
西川 太郎(にしかわ・たろう)氏
2005年より日本産農産物の海外輸出支援事業に取り組む。 2014年にJTB主催の海外商談会を、2015年には農産物の 輸出と訪日客の誘引を一体的に取り組む「J’s Agri事業」を 立ち上げ、現在に至る。
輸出額・訪日観光客数はともに史上最高
まず皆さん、日本の農産品・食品が、海外にどれだけ輸出されているかはご存知でしょうか。
2017年度の日本の食品・農産品の輸出額は8,000億円と、史上最高の輸出額となりました。ここ3、4年は毎年最高額を更新しています。
一方で訪日市場の現況ですが、2017年は訪日外国人の数は2,800万人を超えました。訪日市場に何を求めてくるかというと、「日本食」。(※観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、アジアや欧米など11カ国の第一位)訪日客は日本食へ大いに期待を持っていることが分かります。地方の蔵元を訪ねる酒蔵ツーリズムや、海外に支店を持つラーメン店の本店巡りなどが人気を集めています。
そして、最近特に注目すべきデータだと思っているのが、「訪日観光客の消費傾向」です。訪日観光客の方々は、2017年にはなんと4兆4,161億円もお金が落とされています。その中で、「お買い物」が約1兆6千億円、日本の農産品や食品をお土産物として買う消費額は、3,456億円を占めます。
訪日市場は、限られたパイを取り合うのではなくて、膨張・拡大していくという、非常に有力で魅力のあるマーケットだと思います。現地消費者の嗜好はさらに多様化しています。そして、訪日経験を積んでいる方が多いので、「本物志向」を持つ方も増えています。そういう方々は、国に帰ってからも旬や産地にこだわって、日本産の物を購入するようになるため、輸出額とインバウンド需要の増大には好循環が存在します。
海外販路を創出するカギは、4つあります。「市場分析・商品評価」「マーケット・イン(訴求ポイント)」「販売計画(供給・頻出・輸送)」「良いパートナップシップの構築」。少しでもご自分の商品が、海外で求められるコンセプトに合うのであれば、海外へ販路を広げるチャンスは確実にあると思うので、ぜひご検討いただければと思います。
輸出支援事業と訪日観光客の誘引を
日本の産品は輸送コストが掛かるため、現地の物に比べて割高になります。そのため、少しでも付加価値を高めてしっかり打っていく必要があります。付加価値の一つとして、「産地」の魅力が挙げられます。産地には様々な魅力があると思いますが、海外の方々が感じるポイントとして、まずは「フォトビュー」があります。“インスタ映え”という言葉も流行りましたが、訪日客は写真を撮ることが大好きです。写真が撮れる風景があるかどうかなのですが、畑がないシンガポールや香港の人たちにとって、畑があること自体が非日常なんですね。あとは、ビューポイントを見つけるだけです。
もう一つは、「旬」。あとは「農業体験」です。海外の人は、ショッピング一つにしても、「モノ」より「コト」に価値を感じています。こだわりを持ってモノづくりを行う生産者と、訪日客の交流を促進することが、産地や食品のブランドに繋がっていくのではと思います。
世界的に日本食・産品が注目される現況を踏まえ、JTBグループは海外・訪日市場を訴求対象とした「J’s Agr」事業を通して、地域の農産物の輸出支援事業と訪日観光客の誘引を立体的に行っています。単なる輸出・販売ではなく、ここをしっかり「繋げる」ことによって、好循環を作り、地域に(人や金を)落としていくという構図です。
運営している旅を切り口にした越境ECサイトは、農産品や農業体験などの旅行商品を、旅の途中でも購入できる仕組みです。「産地直送」を売りとし、産地の顔を前面に出しています。また、客荷混載の航空貨物を活用し、イチゴ1パックのみといった小口購入でも、大量輸送と同等のコストパフォーマンスで、鮮度を保持しながら顧客の自宅まで届けています。
アプリ導入や100%交換対応での品質保証など、高い利便性で「旅前、旅中、旅後」の利用を訴求しています。同時に生産者の立場を大事にしたいので、掲載料は無料、全ての決済を国内決済で行っています。
地方創生の4ポイントと“パッション”
最後に「地方創生」の4つのポイントについてお話します。まずは、「①地域の宝を考える」です。個々ではなく地域の皆で考えつつ、域外や外国人の方に聞いても気づきが生まれると思います。
次に、「②ターゲットを考える」です。これは非常に大切で、「みんなに来て買ってもらいたいんです」では、誰にも届きません。ターゲットを「全般」とせず、例えば、30代の独身女性や家族連れなど、よりコアなターゲットを決め、その方々にとって魅力のある商品とは何かを考えれば、色々な手段も生まれます。
そして、「③利益を考える」。どうやって利益の仕組みを作っていくのか、という所まで考えていかないと、一過性のプロモーションに終わってしまいます。
最後に、「④伝え方を考える」です。現在、SNSなど様々な発信手段がありますが、苦手意識を持たずに、ターゲット層がどうやって情報収集をしているかを考え、彼らに届く手段を考えることが大切です。「ターゲット目線」に立って事業を計画しないと、これから地域にお金を落とす仕組みと言うのは作れないのではと思います。
よく成功されている生産者・地域には、ひとつ共通点があります。これを持っている方は、ほとんど100%成功されています。それは“パッション”です。意欲、情熱です。これを持ち続けることが、非常に重要だと思いますので、ぜひ国内外に販路を拡大していきたい方は、“パッション”を持って取り組んで頂ければと思います。
日本の未来を産業・社会を担う“農業”の在り方【NEXT AGRI CONFERENCEレポート:パネルディスカッション】
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