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【第9回】GAPを指導する人材

連載企画:JGAP・HACCPの基礎知識

【第9回】GAPを指導する人材

GAPとはGood Agricultural Practiceの頭文字をとったもので、日本語で「良い農業の取組み」という意味になります。昨今、GAPは産地や農家の生産工程の管理・改善を体系的に扱う優れた仕組み(標準)として、東京オリンピック・パラリンピックや海外輸出の調達基準になってきています。既に一部の農家ではこのGAP認証取得を、続いてこの農家から原材料の調達を受けた食品加工メーカーでは、まもなく法令に基づいて義務化される食品衛生管理基準HACCP(ハサップ)の資格取得を求める動きが活発化しています。
この特集は、GAP、HACCPの基礎知識から認証取得までのポイント、そして日本農業の再生までを展望した全12回のシリーズで皆さまにお届けしています。

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1.GAP実践を指導・教育する人材の育成

農業

前回は、HACCP(リスク評価)を通じて、農場の作業者が、労働安全・環境保全・農作物安全性などのリスクに気がつくことにより、GAP実践が進むことをご紹介しました。今回は、農場の作業者によりGAPが進むように、HACCPなどの指導・教育する人材を育てるGH(グリーンハーベスター)農場評価制度(以下、GH評価と略す)を中心にご紹介します。

2.GH評価とは?

GH評価は、GAP実践を指導するGH評価員が、GH農場評価基準というツールを用いて、農場が日本GAP規範の内容をどの程度達成しているかを評価し、改善指針を提供することで自己啓発に資する制度です。一般社団法人日本生産者GAP協会が運用しており、現在Ver.2.0に改定されています。この評価制度の特徴をまとめると、次のようになります。

①農業者が主体的に、GH評価にもとづいて労働安全・環境保全・農作物安全性を向上させることを目的としています。
農作物の流通業者から取引条件として要求されるので、農業者がGAP認証を取るために始めるGAP実践活動と異なり、GH評価のゴールは、必ずしも認証取得ではありません。

②GH評価は、満点が1,000点と設定され、各項目(全部で108項目あります)の評価レベル*に基づいて減点し、評価報告書を作成(以下、詳細報告書の例を参照)するとともに、農場に改善方向を示します。つまり、「どこが」、「なぜ」、「どの程度」問題なのかを明確にすることで、重要性と緊急性を明らかにし、改善の優先順位を明確にします。
*レベル0の「問題なし」【0点】からレベル4の「喫緊の問題(重大な法令違反など)」【-20点】までの5段階があります。
これに対し、認証制度であるJGAPやGGAPでは、管理点の適合基準を満たしていない場合、審査員(評価員ではありません)が「不適合」という指摘を出します。GH評価と異なり、認証審査では農場を点数で評価はしないし、改善方法を示すことはしません。

詳細報告書の例

GH評価

③評価の仕方がGH評価員によって違うことがないように、GH評価員プログラムを実施し、評価の目合わせをしています。
GAP評価員プログラムの基本コース(GAP実践セミナー【座学】と農場実地トレーニング【現場での評価実践】)を修了したものにはGH評価員補の資格を与え、農場評価を3件以上経験した後、筆記・実技試験に合格すれば、GH評価員と認めています。

3.GH評価制度利用の現状

現在、我が国で認証を取得できるGAPには、GGAP、ASIAGAP*およびJGAP以外に、農水省のGAPガイドラインに準拠した都道府県のGAPがあります。各都道府県やJAでは、認証費用を最小限に抑えることなどの理由で、前回ご紹介した埼玉県のSGAPなどの都道府県GAPの確認を農場に取ってもらうことで、GAPを実践させるケースが増えています。
*旧来のJGAP Advanceを改定したものがASIAGAPで、GGAPなど世界にある多種多様な食品安全マネジメントスキームとの等価性を得るために、GFSI(世界食品安全イニシアティブ)からの承認審査を受審しているところです。
都道府県庁の職員で、上述の基本コースと同じ内容の「GAP指導者養成講座」を受講し、GH評価員となっているのは、2017年度までで全国で合計202名です。福井県が49名、岐阜県が43名で第1位と第2位を占めています。岐阜県では、GH評価員試験に合格した者が、同県のGAP確認制度の確認者となっています。
また、JAも、同様のGAP指導員養成講座を開くなどして指導者を増やそうとしています。現在、全国のJA職員でGH評価員となっているのは合計77名です。茨城県が37名、福井県が35名で第1位と第2位となっています。

4.GH評価制度利用の実例

農業

GH評価を積極的に利用している岐阜県では、2016年3月に稲作の農業生産法人に対し、一般社団法人日本生産者GAP協会からGH評価を受け、655点(1,000点満点)と評価されました。具体的な評価及び指導内容のまとめは次のようです(同協会発行のGAP普及ニュース 第49号(2016.5)から、一部改変して引用)
・655点は★☆☆☆☆(星1つ)のレベルだが、大きな減点項目が1つあり星はゼロとする(初回の評価で特別な準備をしていない農場は500点台が多い)。
・対象の稲作農業生産法人は農場管理が比較的しっかりされていた。
・報告書を読んで改善に役立てれば700点以上に達する。

5.JGAPやGGAPにおけるGAP指導者

GAP認証制度では、審査員が農場を審査し、不適合を指摘し、所定の期日以内に是正させ、その内容を検証したのち、認証手続きに入ります。審査は、指導と異なり、具体的な改善策を示すことはしません。
そのかわり、JGAPにおいては、JGAP指導員基礎研修を修了したものにJGAP指導員の資格を与えます。その基礎研修に加え、GAPの産地リーダー養成研修を修了したものに、JGAP内部監査員の資格を与えています。この指導員や内部監査員は、JGAP認証を準備している農場や各農場を管理する事務局に、コンサルテーションという形でGAPを指導することが可能です。
また、GGAPにおいても、GGAP内部検査員トレーニング修了者にGGAP内部検査員の資格を与えます。この内部検査員は、農場に対する内部検査により、事実上、指導を行うことになります。また、GGAP内部監査員トレーニング修了者に、GGAP内部監査員の資格を与えます。この内部監査員は、事務局に対する内部監査により、事実上、指導を行うことになります。

6.GAPの取組の長期目標とGAP指導人材育成支援

農業

日本政府は、東京オリンピック・パラリンピックが開催された後の2021年から2030年までに、ほぼ全ての国内の産地で、国際水準のGAPを実施することを長期目標に掲げています。そのためには、上記のようなGAP実践を指導する人材の育成が急務です。農水省は都道府県へのGAPの支援として、2018年度中にGAP指導員を2017年6月1日現在の290人(GH評価員数)から1,000人以上に増やすために、都道府県に交付金を支給する予定です。
GAPを始めるためには、自分の農場のGAP実践の目的を明確にし、以上述べた様々なGAP指導人材から、その目的に合った人材を選びましょう。

一般社団法人中部産業連盟 主席コンサルタント
JGAP指導員、ISO14001主任審査員 梶川達也(文責)
 

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