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お米ライターが“梅干しヘンタイ”に会いに行く!【インタビュー編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

お米ライターが“梅干しヘンタイ”に会いに行く!【インタビュー編】

おむすびと言えば、梅干し。お茶漬けと言えば、梅干し。ごはんと極めて相性が良い食べ物ではありますが、地味と言えば地味。その梅干しをこよなく愛して愛して愛しすぎて周囲から「梅干しヘンタイ」と呼ばれている竹内順平(たけうち・じゅんぺい)さんは、クリエイティブプロデューサーでもあり梅干し伝道師。実は、お米ライター・柏木は、お米が大好きであるにもかかわらず、お米と好相性であるはずの梅干しをほとんど食べる習慣がありません。そこで、竹内さんに梅干しの魅力について教えてもらうことにしました。

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日本ブームに乗れなかった梅干し

柏木「なんでそんなに梅干しが好きなんですか?」

竹内さん(以下敬称略)「店で梅茶漬けを食べた時に、梅干しって日本代表食だなあと思ったんですよね。もしその店にいた人たちに『梅干しって日本代表食ですよね』って聞いたら、誰もが『そのとおりだよ』と言うに違いない食材。でも、自分が誰にそう教わったのか分からなかったんです」

人呼んで「梅干しヘンタイ」の竹内順平さん

柏木「梅干しって確かに日本代表食なのに、毎日食べている人ってあまりいないですよね」

竹内「そうですね。僕がそう思った時は今から5年前で、当時は既に2010年くらいから海外で日本文化に注目が集まり、日本国内でも日本文化が見直され始めていました。でも、メディアでさまざまな日本の伝統や職人が紹介されている中で、日本代表食であるはずの梅干しが全く出てこなかったんです」

“日本ブーム”に乗っかることができなかった梅干し(写真提供:BambooCut)

柏木「たしかにあまり見ないですね。写真映えしないから?」

竹内「僕の見解では、当たり前すぎるからです」

柏木「あー、お米と同じですね」

竹内「そうです。梅干しは誰もが当たり前だと思っているけど、実は食べなくなってきているという、そのギャップが生まれ始めていると思っています。おばあちゃんの世代が作らなくなって、僕らのお父さんやお母さんは作れなくなって、僕らの世代は作ると『お前どれだけ珍しいやつだ』と言われる。梅干しには、1000年の歴史があるんですが、僕は以前はそのことも知りませんでした。インターネットもない時代に手から手で継承されてきたものが、今この60年くらいの3世代でころっと180度変わっているのが、さみしいなあと」

柏木「たしかに不思議な存在ですね、梅干し」

竹内「昔は1日1粒食べるものだったと思うんです」

柏木「そうですよね。梅干し1個でごはんをもりもり食べていたのでしょうね」

竹内「そう。それを象徴しているのが、うなぎと梅干しの食べ合わせは良くないという説。昔、お米が不作だったとき、うなぎも梅干しもごはんが進んでおかわりしちゃうから、一緒に食わないでくれということでできた話と言われています」

柏木「いつの時代にできたんですかね」

竹内「江戸かなあ。梅干しが普及したのは江戸の紀伊國屋文左衛門(きのくにや・ぶんざえもん)という元禄期の商人のおかげで、それまではずっと貴族の食べ物だったので」

柏木「うなぎを食べる習慣を広めたのは平賀源内(ひらが・げんない)ですよね」

竹内「そうそう。この説が広まったのは少なからずうなぎが庶民の食べ物になってからでしょうね。でも、うなぎと梅干しを一緒に食うとめちゃんこうまいですからね」

柏木「え!そうなんですか! 白焼きでなく、蒲焼きですか?」

竹内「どちらでも。僕が試したのは蒲焼きですけど。うな丼の上に乗せた梅干しを崩して食べる」

柏木「梅干しでうなぎの脂がさっぱりするのかしら」

竹内「そう、ものすごくさっぱり。梅干しは脂と合うんですよ。トンカツとかにも合う。レモンみたいなものですよね。トンカツにはレモンかけるじゃないですか」

柏木「なるほど。ものすごく面白いですね」

竹内「梅干し、意外と奥深いんですよ。まあ、鰻と梅干しは食べ合わせが悪いという言い伝えは残っているので、縁起は悪いですけどね。何があっても自分で責任とりますという誓約書にサインして、梅干しを乗せたうな重を食べるイベントをいつかやりたいんですよね」

柏木「すごくおもしろそう。何のお米がいいかな。うなぎに脂があるから……あっさりとしたお米かな……うなぎのたれに合うお米……いいなあ……」

竹内「やっぱり最初に米にいくんだ。うなぎからでなく、米から考えるんですね(笑)」

“梅干しクリエイター”として

柏木「つい興奮して脱線しましたが、梅茶漬けを食べたことをきっかけに、梅干しについて調べ始めたんですね」

竹内「はい。梅干しの知識の無さに妙な恥ずかしさがあったんです。僕、梅の実を採ったら梅干しになると思っていたので」

柏木「すごい……そこからここまで……」

竹内「それくらい知らなかったんです。そこでもう一回梅干しを見直してみようと思って紀州まで行って」

柏木「行っちゃうんですね」

竹内「梅農家、梅加工者、町の人、いろいろな人に梅干しの魅力を聞いたのですが、「健康」と「おいしい」しか言わない。おいしいのは当たり前じゃないですか。健康も分かるんですよ。でも、梅干しの魅力ってきっとそこだけじゃないだろうと思って、相方の切替瑤太(きりかえ・ようた)と一緒に立ち上げた会社『BambooCut(バンブーカット)』で梅干しをテーマに企画を作るようになったんです」

柏木「竹内と切替だから『バンブー』と『カット』ですね」

「にっぽんの梅干し展」(写真提供:BambooCut)

竹内「まずは梅干しの魅力を伝えるテーマパークみたいな展示空間を作ろうと、『にっぽんの梅干し展』を東京・渋谷で企画しました。さまざまなアーティストさんに梅干しをテーマに作品を作ってもらって、見て回る間はずっと梅干しのことだけを考えてずっとよだれが出っぱなしの展示です。その後、表参道ヒルズ(東京・表参道)でやらないかとお声がけいただいたのですが、会場が狭かった。どうしようかなあと考えて思いついたのが、2015年5月に始めた『立ち喰い梅干し屋』です」

柏木「立ち喰いですか」

竹内「梅干しの取材に行く度に感じていたのは、地方にあるおいしい梅干しが東京で買えないということ。僕、東京生まれ、東京育ちで、東京には何でもおいしいものが集まってくると思っていたんですよ。なのに、東京で見たことない。そこで、うまいと思った梅干しを東京に集めて『こんなにうまい梅干しがあるんだぜ』って知ってもらおうと。15種類前後の梅干しをそろえて、梅干し1粒とお茶で400円。僕らがやる企画はだいたい梅干しが主役です」

立ち喰い梅干し屋(写真提供:BambooCut)

柏木「梅干しだけで集客できますか」

竹内「初回は、2時間30分待ちでした」

柏木「梅干し、すごい!」

竹内「2時間以上待って梅干しだけ食べて帰ってもらうのは心が苦しくて。『すみません、うち梅干ししかないんです』って(笑)。おいしい梅干しが集まっているんだろうけど、本当においしいかどうかは分からない梅干しを大量に買うのはたしかにこわい。1粒だけ食べてみたいという気持ちは分かります」

柏木「食べてみないことには分かりませんよね。お米もそうです」

竹内「お米もいきなり大量買いはリスキーですよね。立ち喰い梅干し屋では1日300粒ほどの梅干しが出ます。1回のイベントで2週間から1カ月くらいは続けるので、だいたい5000〜7000粒ほど食べていただくんです」

柏木「そんなに……意外でした。イベント以外にも、商品開発をされていますね」

竹内「はい。2016年の熊本地震をきっかけに『備え梅』という商品を作りました。被災地の子供がごはんを食べられず歯を磨けずで、よだれが出ないせいで病気になったと聞いて。梅干しさえあれば梅干しを見ただけでもよだれが出て解決するのにと思って。今後の災害のために備えておくお守りの梅干しがあればいいなあと」

「備え梅」。梅干しが1粒入った個包装のカプセルが4個セット。携帯性にも優れている(写真提供:BambooCut)

柏木「唾液が病気を防ぐのですか」

竹内「唾液は身体の免疫力を高めてくれるそうです。でも、ごはんを食べられず、歯も磨けないと、唾液が出なくなっていき、口内環境がどんどん悪くなる。免疫力が低下すると、大衆がいる避難場所では特に病気にかかりやすくなってしまうのだそうです」

柏木「見るも良し、食べても良し、ですね」

竹内「梅干しを見てよだれを出すだけでもいいですけど、梅干しには殺菌効果があるので食べたほうがいいです。それに、この梅は究極においしいので、絶対に食べたほうがいいです」

柏木「どんな梅ですか」

竹内「『杉田梅』です。横浜市磯子区で生まれた梅で、現在は小田原市で栽培されています。この梅を使って乗松祥子(のりまつ・さちこ)さんという梅干し職人が作った梅干しです。これがまあ素晴らしくおいしくて。今は乗松さんのもとで梅干し作りの修行をさせてもらっています」

柏木「竹内さん、梅干し作りもするのですね。私、『減塩なんてくそくらえー』って昔ながらの梅干しを目指して作ってみたらしょっぱすぎて食べるのがつらいんですけど……」

竹内「いいと思います。しょっぱい梅干しを食べると身体が起きますよね。ちなみに今、梅干しづくりキット『梅子』(※)を4月28日から完全受注で販売しています。5月31日までが受注期間です。予約してくれた方には、農家さんから3日以内に漬けるとベストな完熟梅を塩と一緒にお届けします。塩はソルトコーディネーター・青山志穂(あおやま・しほ)さん監修のブレンド塩です」

完全受注生産の梅干しづくりキット「梅子」(写真提供:BambooCut)

※ BambooCutネットショップ

梅干しに詰まった“説明できない感情”

柏木「ずばり、梅干しの魅力って何ですか」

竹内「いろいろありすぎて難しいのですが、一番の魅力を決めるとしたら、『おばあちゃんの梅干しは世の中で一番うまい』ということです」

柏木「むむ、どういうことですか」

竹内「僕のおばあちゃんは梅干しを作っていませんでしたが、どんなにうまい梅干しを食べた人でも、やっぱりおばあちゃんの梅干しについて話している時ってキラキラしているんですよね。梅干しって人情が入る食品だと思うのです。日本人の遺伝子には梅干しが入っていると思っています。だから、どんなにうまい梅干しを並べても、その人にとっては自分のおばあちゃんが作った梅干しにはかなわないのです」

柏木「ぬか漬けみたいなものですかね」

竹内「似ていると思いますが、なんかちょっと違うんですよね。『うちのばあちゃんの梅干し本当に酸っぱくてさあ』って、ある意味ディスってる(けなしている)じゃないですか。でも、『昔、嫌々食べてたんだよー』って幸せそうに言うんですよ。なにか“説明できない感情”がある食品ですよね」

柏木「おもしろいですねー」

竹内「以前に『立ち喰い梅干し屋』で、梅干しを食べて泣いているお客さんがいて。『大丈夫ですか、どうしましたか』って聞いたら、『亡くなったおばあちゃんが漬けていた梅干しがまだ家にあって、食べたらおばあちゃんがいなくなっちゃう気がして食べられない。冷蔵庫の奥にしまっていて、自分が本当にがっかりしたときだけそれを食べる。その梅にすごく似ていたから涙が出てしまった』と言われて」

柏木「そういう話が今もあるっていいですね。このままだと下の世代が『おばあちゃんの梅干し』と聞いても『なんでおばあちゃん?』となりますよね。梅干しに対する“説明できない感情”が継承されるかどうか、危うい感じがします」

竹内「このままだとなくなると思います。だから、僕はみんなにとっての『自分のおばあちゃんの梅干し』を作るための旅をしているような感じです」

【実食編】では、竹内さんおすすめの梅干しの中から“おむすびに合う梅干し”を探ります。
 
 
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