おむすびに合う梅干しを探せ
柏木「今日はおむすびをいっぱい作ってきました。お米は福島県産『ひとめぼれ』。竹内さんにお持ちいただいた梅干し、もしやオリジナルパッケージですか」
竹内さん(以下敬称略)「そうです。以前は各社の商品パッケージのまま仕入れて販売していましたが、商品ごとに梅干しの量がばらばらで、お客さんから『買いづらい』とか『少量でいろいろ買いたい』という声があったので。今日は14種類のうち3種類を持ってきました」
柏木「私、おむすび買うときは、だいたい鮭のおむすびと塩むすびを買っちゃうんですよ」
竹内「あらまあ」
柏木「梅干しのおむすびを食べるときは、酸っぱいのがいきなり真ん中でうわっと出てくるのが苦手なので、おむすびを半分に割ってちょっとずつ食べるんです。でも、梅干しは甘いのじゃなくてしょっぱいのがいいというわがまま(笑)」
竹内「でも、分かるなあ、その気持ち」
柏木「甘じょっぱい佃煮でごはんを食べるのに、甘酸っぱい梅干しでごはんを食べるのは嫌なんですよね。なんでだろう」
竹内「今日は甘い『はちみつ梅』も持って来ようかと思いましたが、あえてこの3種類にしました。これがこの中で一番酸っぱい『すっぱい梅』。これが『こんぶ梅』、これが『燻製梅』です。いずれも紀州南高梅です」
柏木「梅干しって美しいですね。どの順番で食べたらいいですか?」
竹内「甘いのがあまり好きじゃないですよね。そしたら、『こんぶ梅』→『燻製梅』→『すっぱい梅』の順番がいいと思います。酸っぱいのから食べちゃうと、後半に食べる梅干しの甘みを強く感じちゃうんで」
柏木「そうか、言われてみれば。では、『こんぶ梅』からいただきます」
柏木「……最初に爽やかな甘酸っぱさがあって、そのあと甘さがぶわーっと押し寄せて来た。これは梅干しそのものが甘いんでしょうか。酸っぱさで自分の唾液が出ることで甘く感じるんでしょうか」
竹内「この梅干しは、日高昆布の液にしっかりと漬けているところがポイントです。出汁感が強いので、酸っぱさは意外と少ない。でも、すごく甘いというわけでもない梅干しです」
柏木「梅干しを作るときに使う完熟梅ってすごくフルーティーですよね。この梅干しもそんなフルーティーさがある。うーん、フルーティー」
竹内「フルーティーな梅干しの中では、フルーティーではないと思うのですが、まあ南高梅特有の味ですよね」
柏木「わたしフルーティーな梅干しを知らないのかも。この梅干し、すごくフルーティーに感じました」
竹内「酸っぱい梅干し好きだからこそですね」
柏木「もしかしたら私にはもっとしょっぱい梅干しのほうがいいのかも。今、梅干しだけ先になくなって、ごはんが余りそうになっているんです……」
竹内「こちらの『すっぱい梅』は、梅干し1粒でおむすび2個いけると思いますよ」
柏木「じゃあこの食べかけおむすびはとっておこう」
竹内「とっておいてください」
竹内「では、僕も『こんぶ梅』から……いただきます。……うーん、これ、めちゃんこ好きですよ、これ。うま! 出汁の優しい感じ。すんごく高級なおにぎりを食べているみたいな……」
柏木「なるほどー。言われてみれば」
竹内「絶対にコンビニでは食べられないような。なんかこう……庶民っぽくない味がする」
お酒が進む梅干し・お米が進む梅干し
柏木「次は、『燻製梅』ですね」
竹内「これは、『はちみつ梅』を燻製にしているんですよ。香ばしい梅干しです」
柏木「燻製にしているのに、こんなにしっとりするんですね」
竹内「燻製専門店がやっているので、かなりクオリティーが高いです」
柏木「(梅干しをおむすびに乗せて)かわいい」
竹内「分かります! 梅干し、かわいいんですよ」
柏木「あ、本当だ。燻製の香りだ。なんだかお酒が欲しくなりそうな気がしてきたなあ。日本酒に合いそう」
竹内「合いますよ。焼酎のほうが合います」
柏木「何焼酎ですか」
竹内「芋でも」
柏木「米でも?」
竹内「米でも」
柏木「いただきます。う、おいしい。これは梅干し自体がおいしい」
竹内「どうでしょう。ごはんの味をつぶしてますか?」
柏木「米……じゃないな」
竹内「おお! パン?」
柏木「いや、お酒だな……。うーん、これは甘い……。うん、甘いな……。私はここに醤油をかけて食べたい……醤油をかけたらすごくおいしい気がする。怒られますかね?」
竹内「いえ、ぜんぜん」
柏木「もうちょっと塩分が欲しいかな」
竹内「米の良さを消してしまっていますか?」
柏木「この『ひとめぼれ』はふっくらとしていて甘みがあるのですが、もうこの甘さが何の甘さなのか分からなくなる。お米の甘さを感じるには……」
竹内「やはり酸っぱい梅干しがいい?」
柏木「そうですね。これは梅の甘さなのか、お米の甘さなのか、唾液によって甘く感じているのか、分からなくなる」
竹内「トータルではおいしい? それとも……」
柏木「『こんぶ梅』のほうが好きかなあ。『こんぶ梅』はすごく出汁感があって……和食的な優しさがありました。梅干しが苦手な人にはいいですね。燻製は、日本酒か焼酎に合う。焼酎と合わせるとウイスキーっぽくなりそう」
竹内「ウイスキーとも合います」
柏木「それはいい! ウイスキーが欲しくなってきちゃったなあ」
竹内「僕も『燻製梅』いただきます。……うわー! めっちゃ好きです。うま! なんでだろう。……ええー、うま! ええ? なんですかね、この……なんだろう、柏木さんが用意してくださったごはんと一緒に食べたら『こんなにうまいの?』ってぐらいうまいんですけど。やっぱり僕は梅干し目線で食べているからかなあ。柏木さんはごはん目線で食べているから、それぞれ違うのかなあ」
柏木「私はいかにお米が進むかをポイントにしているのかなあ。なんだろう、この違いは」
柏木「『すっぱい梅』食べていいですか。すごく気になる。あ、いい香りだ。好みの香りです。いただきます。うーん、おいしい。梅干しはこれですね! おいしい!これだ!おいしい!いやーおいしい! やっぱり……これですね!」
竹内「幸せそうに食べますねー」
柏木「いやーおいしいです」
竹内「『すっぱい梅』は、無農薬・無肥料のオーガニック梅と塩だけで作った無添加梅干しです」
柏木「やはりお米も甘いですね。そうか、さっきの梅干しは梅干し自体が甘かったから何の甘みか分からなくなってたんだ。これはもう明らか。唾液で甘く感じるのもあるけど、これはやはりお米の甘みを引き出してくれますね。これはお米が進むわー」
竹内「やはり酸っぱい梅が好きですか?」
柏木「やはり酸っぱいのが好きなんだと思いました」
竹内「いや、もう酸っぱいのが好きな人は酸っぱいのに限るんですよ。僕も酸っぱいのが好きですし。いただきます」
竹内「……うーん、これはめっちゃうまいですね。……ええええええー? すんげえおいしいですね!」
柏木「おいしいですよね! これ、お米進みますよね!」
竹内「……やっぱり絶対コンビニじゃ食えないですよね。これだけでこんなにぜいたくな気持ちになれるんですね」
柏木「たしかに。お米と梅干しだけでこんなに」
竹内「すごく庶民的なはずなのに……うまいなあー。すごい満足感」
柏木「それにしても、どの梅干しもジューシーですね。梅干しってこんなにジューシーなのですね」
竹内「いい梅を選んでいるからだと思いますよ。基本的に完熟の時期に漬けないとこんなにジューシーにならないので」
梅干しとお米は友だち
竹内「今日食べて感じたのは、やはりお米には酸っぱい梅が合うということ。あと、やはり梅干しって主役じゃないなって思いました」
柏木「おお?」
竹内「ぼく今までずっと梅干しを主役にする企画を作ってきましたが、やはり主役じゃないなあと思いました。あくまで脇役として立てる」
柏木「お米を?」
竹内「うん。そういうやつだなあって。食べていてそう思いました。お米が進むとか、お米が甘く感じるとか。なんかこう、主役っぽくセンターにいて目立っていても、やっぱりあまり目立ちすぎるのは良くないなあと思いました。梅干しが勝ちすぎてしまうのは……」
柏木「梅、いいやつですね」
竹内「だから柏木さんの『燻製梅』の感想にびっくりしたんですよね。『……うーんこれは酒だなあ』って。『あれー?』って思って。僕の視点が梅干しにのめり込みすぎているから。全体で考えたら、やはり梅干しはお米を立てるほうがいいんでしょうね」
柏木「おもしろいですね。梅から考える人と、米から考える人」
竹内「ぼく、今回はパワフルなやつしか集めていなかったので、選び方が悪かったかもなあって。オールスターみたいなかんじで、いつでもフリーランスでいける梅たち」
柏木「本当にそうですよね。この梅たちはフリーランスでいけますよね」
竹内「実際にフリーランスで出していますしね、『立ち喰い梅干し屋』(【インタビュー編】参照)では。だから、ごはんに合わせる梅干しとしての在り方だとやはり違いますね」
柏木「たしかに、この『燻製梅』はフリーランスとしては一流な気がしますが、お米には酸っぱいほうがいい。なんでだろう。不思議ですよね。この甘い梅干しによるお米の進み具合と、佃煮によるお米の進み具合の、この差がなんだろうとすごく考えるんですよね。私は甘いのが苦手で、『甘いので米が食えるか!』って思っていたんですけど、佃煮ならば、まあ甘すぎるのもありますけど、佃煮だとまあまあいけるんですよね。だからなんだろうなあと」
竹内「うなぎのたれみたいなのもいけますよね」
柏木「そう、うなぎのたれはうなぎがなくてもたれだけでお米が進む。あれはなぜだろう。醤油と塩の違い?」
竹内「甘い梅干しは、ごはんと合わせた時には梅干しとは言えないのかもしれませんね。ただ、みんなに梅干しを食べてもらうには必要な動きだったし、それを最初に考えた方はえらいと思います。昔は家に常備しておくと安心するものだったんですよ。梅干しを切らしてしまったら『おいおい、梅干しくらい置いておけよ』というふうに。そんな食材だったのに、今は家に置いていないのが当たり前」
柏木「梅干しはお米みたいな存在だったのですね。お米を切らすことってあまりないですよね。お米がないと不安になるじゃないですか。昔はお米と梅干しさえあれば安心だったんですね」
竹内「そうなんです。だから今、お米が食べられなくなってきて、それと同時に梅干しも食べられなくなるから、梅干し屋さんは一生懸命考えて、お茶受けに合うはちみつ梅を開発して。いろんな人にあんなの梅干しじゃないと言われながら」
柏木「お米でも『ライスバーガー』や『おにぎらず』が生まれたりして。伝統も大切ですが、やはりお米を食べてもらうにはいろいろな展開で見せていかないと途絶えてしまうかもしれない。梅干しとお米は友だちですね」
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