お米ライターが“塩ヘンタイ”に会いに行く!【インタビュー編】

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お米ライターが“塩ヘンタイ”に会いに行く!【インタビュー編】

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お米ライターが“塩ヘンタイ”に会いに行く!【インタビュー編】

最終更新日:2018年12月06日

お米を味わうならば、シンプルな塩むすびが一番。でも、ひとくちに塩と言っても、その種類はさまざま。お米ライター・柏木は塩むすびを作る時はいつも同じ塩を使っているという保守派。しかも料理に使うのは醤油や味噌ばかり。塩についてもっと知ることができたら、お米をもっと楽しめるのでは? そこで、塩をこよなく愛して愛して愛しすぎて周囲から「塩ヘンタイ」と呼ばれている青山志穂(あおやま・しほ)さんに塩の魅力について教えてもらうことにしました。

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“ノリ”から始まった塩の世界

柏木「『一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会』の代表理事をされていますね。ここまで『塩ヘンタイ』になったきっかけは何ですか? 」

「塩ヘンタイ」の青山志穂さん

青山さん(以下敬称略)「都内の食品メーカーで商品開発をしていましたが、働きすぎたしちょっとゆったりしたいなあと転職を考えるようになりました。2007年に沖縄に移住して食関係の転職先を探していたら、お塩の専門店を見つけて。『超マニアックだなあ』って思って、最初はノリで面接を受けに行きました。そしたら社長とウマが合って、『明日から働きにおいでよ』と言ってもらえて」

柏木「人生、何があるか分からないなあ」

青山「最初の1年くらいは、仕事で任されたからそのために塩を調べる、という感じでした。でも、はまったきっかけが三つありまして。一つは、塩をぺろぺろなめると、味がそれぞれ違うじゃないですか」

柏木「そうなんですか」

青山「そうなんですよ。何でだろうと思って。塩のパッケージに書いてある栄養成分表示の100グラム中の五大栄養素とナトリウムをExcelの表にばーっと打ち込んでいきました。ミネラルごとに味が違うので、『この塩はこの成分が多いからこの味なんだ』というふうに系統立ててみようと思ったんです。でも、その栄養成分通りの味になっているかというと意外とそうじゃなくて。ミネラルについて書かれた本を見てみると、ナトリウムはしょっぱい、カリウムは酸っぱいと書いてあるのに、カリウムが多いのに酸っぱくない塩もあって。不思議でしょう? それがすっごく謎で。それでスイッチが入っちゃいました。よっしゃ、調べるぞ、と」

柏木「あー、分かるなあ」

青山「二つめは、生産者さんのところに行ってみたら、まあ変わった人が多くって。塩って原材料がタダだからすごくもうかると思われがちですが、ぜんぜんもうからないんですよ。重油とか燃料費が高くて原価がけっこうかかるんです。大きな工場だと別ですが、小さな製塩所だと釜の横にいて炊いている間はずっと見ていなければならない。だから夏は地獄ですよ。パンツまでびっしょり。それでも『みんなに体にいいものを作ってあげたい』という熱い思いを持っているのですが、塩を作るのに精一杯で売りに行く時間がなく生活が苦しいという人が多くて。それで応援したくなっちゃった」

柏木「なるほどー」

青山さんの味覚と知識にはさまざまな塩のデータベースが蓄積されている

青山「いろいろ調べて、それぞれのお塩がどういう製法で、どこで作られて、どんな栄養成分で、なめたらしょっぱさが強いか弱いかということが頭の中に何百種類分もどーんと入っていた時期に、山形県鶴岡市のイタリアンレストラン『アル・ケッチァーノ』のオーナー・奥田政行(おくだ・まさゆき)シェフと出会いました。それが三つめです」

柏木「地域食材と塩を使った“素材料理”で知られるシェフですよね」

青山「当時の私の悩みは、この塩はこういう味。だから何? ということでした。お塩を何にどう使っていいか分からなかったんです。当時はまだお塩の専門店で店頭に立つこともあって、お客さんに至近距離から豪速球を投げるようにお塩の知識を披露してお客さんに引かれたりして……」

柏木「おもしろいなー」

青山「奥田シェフが食材とお塩の合わせ方を教えてくれてからは、お塩で食べものの味が変わる理由が分かったのがうれしくて。味が変わるのは知っていたのですが、どうして変わるか分かっていなかったんです」

柏木「すごい。奥田シェフはそこまで分かっていらっしゃるのですね」

青山「奥田シェフが知識を包み隠さず教えてくれたおかげで、もうドはまりしました」

シェフを集めた深夜の塩勉強会

柏木「奥田シェフは青山さんが立ち上げた日本ソルトコーディネーター協会の顧問ですよね」

青山「4年間勤めた塩の専門店を退職してから、2015年に協会を立ち上げました。社内だけの資格ではなく、もっとお塩の知識を多くの人に伝えたいと思って。良い知識はみんなでシェアして、最終的にはお塩の業界が盛り上がればいいなと」

柏木「うんうん。青山さんはどんなことを目指しているんですか?」

青山「さすがに塩はどれも一緒ではないってみんな気づいてはいるけど、何がどう違うかということまでは全く理解されていません。それを理解してもらえるようにしたいんですよね」

イベントで塩の講師を務める青山さん(写真提供:青山志穂)

柏木「なるほど。塩に敏感な料理はイタリアンですか?」

青山「イタリアンと和食ですね。最近はイタリアンとフレンチの垣根が低くなってきたのでフレンチも。最近始めたのは、シェフたちが営業終了後に参加してもらえる午前0時から午前3時までの深夜のお塩の勉強会。えぐい時間帯ですが、毎回30人くらい集まってくれます」

柏木「料理人の方はぐいぐい来てくれますけど、一般の方にはどう伝えたらいいのかなあ」

青山「それがすごく難しくて。『どの塩を使っても大して変わらない』と思われていたり、精製塩しか使わなくてもそれなりにおいしく食べられたりするので。食に多少興味がある人でも醤油や味噌や酢を学んでから最後に塩を学ぶというふうに、塩は優先順位が低いんです。よほど食に興味が強い人でないと塩に意識が向かない。最近はお医者さんから減塩を言い渡されたことをきっかけに塩を学び始めたという人もいますが」

柏木「家で塩を意識するときって塩むすびか、例えば旬のアスパラを焼いて塩ぱらぱらとふるくらいかなあ」

青山「旬の良い食材が手に入りやすくなったので、以前よりも塩に意識が向きやすくなっているのはありがたいです。お取引先としては鉄板焼き屋さんが一番多いです。この肉に合う塩を教えてとお問い合わせをいただきます」

柏木「コンサルタントですか」

青山「コンサルした上での販売です。120種類の塩を売っています。メーカーさんのお塩ってだいたい量が多くて買いづらいので、許可を得て、少量でリパックしています。使ってみて気に入ったお塩があればメーカーさんから直接買ってもらえればと思って。東京では百貨店、沖縄では百貨店や書店、大阪では書店で売っています」

書店に並ぶリパック塩たち(写真提供:青山志穂)

柏木「書店で塩? あ、青山さんのご著書『塩の図鑑』と一緒に並んでいるのですね」

青山さん著「日本と世界の塩の図鑑」(あさ出版)

青山「ようやく2刷になって、香港版と台湾版も出ました。本の内容は過去の知識の積み重ねですが、テイスティングは全部やり直しました。約300種類。お腹が空いていないとできないので、起床後にやって、昼食前にやって、3時くらいにやって、夕食前にやって、夜中にやって、の繰り返し」

柏木「お米の食べ比べもたくさんあるとお腹いっぱいになってつらいですが、塩のほうがつらそう……」

青山「楽しいんですけど肉体的にはちょっとつらさがあります(笑)」

自宅に本棚ならぬ“塩棚”

柏木「日本ではどのくらいの地域で塩が作られていますか?」

青山「作っていない県のほうが少ないです。日本は島国なので。海に面しているところでは必ず作っています。“海なし県”で言えば、栃木県や奈良県は作っていませんが、長野県は山塩を作っています」

柏木「日本は塩の国ですね」

青山「ただ、生産量は全然足りてなくて、使用量は年間840万トンくらいですが、生産量は120万トン。720万トンくらいは輸入しています」

柏木「え、そうなんですか」

青山「日本で生産している120万トンのうち100万トンは、海水をイオン膜に通してナトリウムだけを取り出したタイプのいわゆる食塩や精製塩。残りの20万トンはいわゆる自然塩、天然塩。精製塩は国の政策として生産されているので特に応援してはいませんが、料理の味の最後の微調整をするのにはちょうどいいんですよ」

柏木「意外でした」

青山「誤解されがちなのですが、自然塩や天然塩は精製塩に比べると、ナトリウム以外のいろんなミネラルが含まれていることが多い。もったいないからって料理の最後の仕上げにちょろっとかける人が多いのですが、塩に含まれているミネラルの力で食材の味を引き出したりしてくれているので、本来は下ごしらえに使うんです。最後の塩味の微調整は自然塩や天然塩のように時期によって味が変わってしまうものではなく、分かりやすく塩味という永遠に変わらないしょっぱさを持っている精製塩で、最後の塩味の微調整をするのが正解なんです」

柏木「私、勘違いしていました。最後にぱらぱらだと思っていました」

青山「下ごしらえと仕上げの両方に使ってもいいのですが、最後の塩味の微調整はけっこう難しかったりするので」

柏木「私、料理に塩をほぼ使わないんですよ。塩むすびとか野菜の水抜きくらいにしか使わない。使うのはもっぱら醤油や味噌。天ぷらをたまに塩で食べるくらいかな」

青山「ぜひ使ってくださいー」

柏木「和食ばかりなのでなかなか塩が使いにくくて。イタリアンのほうが使うのかしら」

青山「醤油派に怒られそうですが、醤油と塩の塩味の役割は違うんです。醤油の中の塩って、菌をコントロールして発酵熟成させるという役割が終わっている、枯れた塩味なんです。醤油や味噌などの調味料全般は旨みを加えていく役割がありますが、塩だけが素材の味や風味を引き出す役割があります。料理に使う醤油や味噌の量を半分にして塩を足していくと、今までと違う味になっておもしろいですよ」

柏木「難しそうですが、やってみようかな。青山さんがご自宅でお食事するときはどんな塩使いをしていますか?」

青山「キッチンにお気に入りの塩を10種類置いていて、普段はその中から選んでいます。新しい塩を買ったりもらったりしたときは、その塩に合いそうな料理を作ってみたり、実験したいときは素材に合わせて塩の棚から塩を選んだりしますが」

柏木「塩の棚……」

青山さんの自宅にある「塩棚」の一部(写真提供:青山志穂)

青山「そう。1200種類くらいの塩が入っていて。可動式の本棚に塩が入っていて、入り切らないのでDIYした棚にも塩を並べて。それでも入り切らないからどうしようかなって。床が抜けそう」

柏木「本当にヘンタイですよね。一般の家庭ではどうやって塩と付き合えばいいですかね」

青山「ごはん、豚肉、牛肉、鶏肉、赤身魚、白身魚、乳製品、濃厚な野菜、淡白な野菜、揚げ物、卵、豆、それぞれに合う塩があるのですが、家庭では5種類あればカンペキです。ごはん、揚げ物、赤身魚、白身魚、野菜。あとは、面倒なときのオールマイティーな塩があれば」

柏木「なるほど。まずはごはんに合う塩を探りたいなあ。ところで、青山志穂さんの『シホ』ってお名前、なんだか『シオ』と似ていますよね」

青山「昔は塩のことを『シホ』って書いたそうです。東京・伊豆大島には『Flower Of Oceanシホ』っていう塩があります」

柏木「生まれながらに……。もう天職ですね」
 
 
【実食編】では、青山さんおすすめの塩の中から“おむすびに合う塩”を探ります。
 
 
日本ソルトコーディネーター協会

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