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お米ライターが“塩ヘンタイ”に会いに行く!【実食編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

お米ライターが“塩ヘンタイ”に会いに行く!【実食編】

お米を味わうならば、シンプルな塩むすびが一番。でも、おむすびに合う塩ってどんな塩なんでしょう? おむすび屋やコンビニのおむすびにどんなお米が使われているかを気に留める人はいても、どんな塩が使われているかを気に留める人は少ないような……。お米ライター・柏木は塩むすびを作るときはいつも同じ塩を使っているという保守派。しかも、料理に使うのは醤油や味噌ばかり。そこで、【インタビュー編 】で塩の魅力を力説してくれた、人呼んで「塩ヘンタイ」の青山志穂(あおやま・しほ)さんと一緒におむすびに合う塩を探りました。

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おむすびに合う塩を探せ

柏木「すごい量の塩ですね。試験管に入っていて、なんだか研究者みたい」

試験管に入った塩たち

青山さん(以下敬称略)「こんな感じでいつも持ち歩いています。今日は300種類」

柏木「そのキャリーバッグに何が入っているのかなあと思っていましたが、まさかの塩。あ、それぞれに産地、塩の名前、原料、製法、合う食材が書かれているんですね。すごい。塩って白のイメージですが、これは黒っぽいし、この藻塩はごま塩みたいだし、これは茶色っぽい。なんだか塩じゃないみたい」

青山「同じ海水塩でも少しグレーがかっていたり、完全にホワイトだったりと、製法によって全然違うんです。結晶も粗い、細かい、中ぐらい、とさまざま。こうしてパレットに並べてみるときれいですよね」

柏木「うん、きれい。とてもきれいです」

色とりどりの塩たち

青山「今日はこの中から24種類を並べました。この子たちの中に柏木さんのおむすびと合う子がいればなあって」

柏木「ありがとうございます。今日は福島県産『ひとめぼれ』で、塩なしおむすびです」

青山「あ、このお米、すごくミルキー。牛乳の味がする。すごく不思議。今日はお米に合うお塩を選んできましたが、ミルクに合うお塩でもおいしかったかも」

柏木「このお米に合う塩はどれかなあ……まったく分かんないなあ」

青山「この中からだと、オーストラリア海水塩の『南の極み』ちゃんが少しミルキーなタイプです。……合わせてみると、思っていたよりもお米のミルキー感が消えた。最後に甘くなりますが。もっと牛乳感が出るかと思って期待していたのに」

試食する青山さん

柏木「へー、食べてみよう……うん、ミルキーじゃないですね」

青山「ね、ミルキーじゃなくなりますね。ミルキーとミルキーを合わせると消えるのかなあ。でも、この子はシンプルにしょっぱさが強めなので、思っていたよりもお米の甘さがぐーっと出ますね」

柏木「うん、おいしい。この塩は『塩!』って感じがします」

青山「で、これは柏木さんがお好きだと言っていた沖縄県の海水塩『粟國の塩』」

柏木「そうなんです。昔からいつもおむすびはこれで。いただきます。……同じしょっぱさでも違うんだなあ」

青山「ナトリウム濃度はこっちのほうが断然低いです」

柏木「低いということは?」

青山「ナトリウム以外のミネラルが多いということです。最初に少し苦みを感じますが、後味はミルキーっぽくないですか?」

柏木「言われてみれば。こっちのほうがお米のミルキー感がちゃんと感じられる。うんうん」

青山「あとは、福岡県の海水塩『梅花石の恵 関門の塩』。カルシウムが多くて甘みが強いお塩なんですよ」

柏木「あ、すごい。『粟國の塩』はすごく粗いけど、これはさらさら。パウダーみたい」

青山「けっこう『関門の塩』好きかも」

柏木「なんだか、きれいな感じですね」

青山「うん。だんだん味が出てきて、後味がばーっと広がってくる」

柏木「なるほど。後味がずいぶん違いますね。食べ始めと、食べた後の余韻が全然違う。これはきれいな味で食べ飽きませんね」

関門の塩おむすびのおいしさに「うふふ」

青山「こっちは、石川県の塩田で作られている『能登のはま塩』。なぜか脂肪分を感じる塩です」

柏木「いただきます。……これ好きです。おいしい。でも、脂肪分というのが分かんないなあ」

青山「私もこれ好き。有塩の発酵バターをなめた後の口の中の感じに似ています」

柏木「私、バターが苦手で食べられないから分からないなあ。でも、おいしい」

青山「お米とすごく相性いいですね。最後に甘みも出てくる。昔ながらのおむすびという安定の味。次は、『奥能登揚げ浜塩』。同じ奥能登の浜塩なんですが、さっきのお塩とは別の生産者が奥能登でも違うエリアの塩田で作っていて。味が違うんですよ」

柏木「ほぼ同じエリアで味が違うんだ。分かるかなあ」

青山「傾向は似るんですけどね」

柏木「うん、これ好きです」

青山「こっちのほうが少しお米に酸味が立つんですよ。なぜか分かんないんですけど」

バターが苦手な柏木は塩の「バター感」が分からず

青山「この長崎県の海水塩『浜御塩』もおいしいですよ。一番最初に『ごはんに合う!』と思ったお塩。あの時はコシヒカリでしたが。程々の塩加減でおいしい」

柏木「おいしい。これも好きな塩です」

茶色くて苦い塩

柏木「藻塩も気になるなあ」

青山「藻塩には苦いお塩もあります。この島根県・隠岐の島の『ローソク島藻塩』が一番苦い。アラメという海藻と海水を煮詰めています」

柏木「コーヒー粕みたいな色。……本当だ! 苦い! これは苦手かも。でも、どういう料理に合わせるとおいしい塩ですか?」

青山「プリンに合わせるとめっちゃおいしいです」

柏木「カラメルみたいに?」

青山「そうです。このお塩はにがりがけっこう入っているので苦いんです。でも、豆腐に合わせるとおいしい。豆腐のにがりと同化して味が濃く感じるんですよ」

柏木「おもしろいですねー」

青山「でも、出汁に溶かすとか、何かしらの介在が必要です。この子だけだとものすごいインパクトがあるので、チョコレートケーキとかスイーツ系に合います。あとはお魚の天ぷらや山菜の天ぷら。鮎の天ぷらとかおいしいですよ」

柏木「なるほど、油分があるほうが……」

青山「そう、この苦みが油を切ってくれるので。苦みも緩和されるし、山菜の苦みとか鮎の内臓の苦みとかにも合います。小さいイワシの姿揚げとかもおいしいと思います」

柏木「なるほど。はらわたの苦みが合うのですね」

「やっぱり苦ーい」と青山さん

青山「次は、新潟県の『玉藻塩』。ホンダワラという海藻と海水を煮詰めています」

柏木「うっすらベージュ色。あ、おいしい」

青山「間違いない感じですよね」

柏木「うん。間違いない」

青山「ただ、お塩が勝っちゃうので、お米の旨みを引き出すかどうかはちょっと疑問なんですけど」

柏木「どうなんだろう。たしかにそう言われてみると、さっきの海水塩たちのほうがお米の甘みが感じられたかなあ」

青山「なんだかこのお塩の旨みで最後まで引っ張っちゃう」

柏木「なるほど」

青山「今度は新潟県の『佐渡藻塩』。ナガモ、ホンダワラ、アラメの3種類の海藻と海水を煮詰めています」

柏木「『ローソク島藻塩』ほどではありませんが、だいぶ濃い茶色ですね」

青山「ちょっと酸っぱいんですよ、お塩自体が」

柏木「あ、本当だ。酸っぱいし、『ローソク島藻塩』と同じくらい苦い」

青山「どうかなあと思って持ってきましたが、やっぱり合わないですね」

柏木「玄人感がある味ですね」

玄人塩が分からず微妙な表情の柏木

青山「こっちの静岡県の『戸田塩』は伝統的に作っている製塩所でおいしいですよ」

柏木「あ、けっこうしょっぱい」

青山「塩だけ舐めると滑らかな感じもあって、甘みもあって、比較的に余韻の味がふくよかというか……。お米に合いやすいお塩って、しょっぱさが鋭くてクリアな味でお米の甘さを引き出す役目をしてくれる子よりも、ボディがあるというか比較的ふくよかなイメージな子のほうが合うかも」

柏木「しょっぱいのはお米の甘みを引き出すのかなあと思ったのですが……。たしかに、言われてから言うのもあれですが、ふくよかな感じがする」

青山「そういえば、今回お米に合いそうなお塩24種類を選んでみたら、やはり岩塩が入ってこないんです。岩塩って基本的にナトリウムで、もし入っているとしてもカルシウム。なので、しょっぱさがまろやかな岩塩もあるのですが、溶けにくくてお米になじみにくいので、選択肢の中に入ってこないんですよね」

柏木「私、以前に台湾茶専門店でごはんを台湾茶で炊いて、茶飯でおむすびを作った時にヒマラヤの硫黄の香りがするピンク色の塩を使いました。あれは岩塩だった。台湾茶専門店の方においしいよって教えてもらって。白ごはんだと合わないのに、茶飯だとなぜか合って」

青山「茶飯は“もわん”とした香りなので、その“もわん”系が硫黄と合うと思います」

柏木「同じ岩塩とごはんの組み合わせでも、茶飯だとまた違うんですね。おもしろい。塩って奥深いなあ」

おむすびに合う塩は意外にもあの塩

青山「あとは、ド定番だと東京都の『海の精 やきしお』です」

柏木「しょっぱくない。私これすごくしょっぱいのかと思っていました」

青山「『海の精 やきしお』もナトリウム以外のミネラルが多いんですよ」

柏木「まろやか! きつさがまったくない!」

青山「焼くことによって塩化マグネシウムがちょっと変化して、旨味に変わるんです。味が濃厚になるので、塩味が抑えられるように感じるのです。うん、これおいしいですね」

柏木「おいしい、これ。一番お米のおいしさを引き出しているように感じる。もっと食べてみよう」

青山「これは伏兵だわー」

柏木「なんだ、これ、まろやか!」

青山「ううー、すごく合う!」

柏木「合う!」

青山「ミルキーだし、お米の良い特徴が出る」

柏木「ミルキーですよね! お米の良さを引き出していますね! ついに見つけたー! さっきの海水塩も好きでしたけど、『海の精 やきしお』が一番このお米に合う。しかも、なんだかお米だけもっと食べたくなります、急に」

青山「よかった、いい子が見つかって」

おむすびと塩の相性の良さににっこり青山さん

青山「この香川県・直島の『SOLASHIO』はちょっと粒が粗い海水塩です」

柏木「かわいい名前」

青山「お塩をちょっと口の中で溶かしてからお米を食べると、めっちゃ牛乳」

柏木「おお! 牛乳!『やきしお』もおいしいけど、『SOLASHIO』もおいしい」

青山「おいしい、幸せ。こっちのほうが全体的に力強く感じますね」

柏木「あ、やはり味もそうなんですね。粒が大きいからかな?と思っていました。でも、粒が大きいとおむすびには難しいですかね」

青山「すりつぶせばいけますよ」

お米が進むとうれしい柏木

柏木「今回の結論としては、『海の精 やきしお』と……」

青山「あとは『SOLASHIO』、『関門の塩』あたりが良かったですね」

柏木「今度はあっさりのお米でやりましょう」

青山「いいですね。強敵ですね」

柏木「もっちりのお米もいいかなあ」

青山「うん、もっちりのほうが選びやすいです」

柏木「え、なぜですか? 」

青山「さらっとしたお米は、お塩が勝ちやすいんですよ」

柏木「なるほどー。比較的にあっさりのお米よりも、もっちりのお米を好む人が多いのは、もしかしたら塩が合っていないことも影響していたりして」

青山「それもありそうです。ちなみに、同じ海水塩でも春夏秋冬で味が変わるんです。山が変われば海が変わるので、山の中の腐葉土が多くなればその分プランクトンが海でも増えていく。すると、ミネラルのバランスが変わって少しふっくらした旨みの強いタイプになったりして。例えば、春はなぜか苦みの強いお塩になって山菜に合います。冬は不純物が雪の中にぎゅっと閉じ込められて、きれいな水しか海に流れてこないので、凛とした感じの塩になります。生産者さんによっては、雨が降った次の日は“海が荒れる”と言って海水をくまない人もいます」

柏木「なるほど。ということは、塩って10年前と今では味が違い、今と10年後もまた味が違うんだ。今日の結果は夏には違うかもしれないし、来年には違うかもしれない。なんだかロマンを感じるなあ。でも、今日は私一人で食べ比べていたら分からなかったかも。青山さんがトスを上げてくれるから、うん、そうだ、なるほど、って分かりましたが」

青山「それが私の役割ですから。塩を変えると食べものの味がこんなに違うんだと気づいてもらって、塩に意識が向いてもらえればうれしいです」
 
 
ソルトコーディネーター協会
 
 
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