新たな資金調達手段ICOの仕組みと特徴
ICOは、ブロックチェーン技術(農業でブロックチェーンはどう使われるか ~トレーサビリティ編~)によって可能になった資金調達の方法で、企業や団体のプロジェクトが仮想通貨を利用して行います。具体的には下図のように、ICOをするプロジェクトが「トークン」(株券のようなもの)を発行し、それを投資家は“ビットコイン”や“イーサリアム”といった仮想通貨で購入する形になります。
このことから、ICOは別名トークンセール、トークンオークションと呼ばれることがあります。
資金調達する企業のメリットは、銀行やベンチャーキャピタルを回って多くの労力と手間をかけた従来の方法よりも、容易に資金調達できる事です。さらに、物理的な空間や現行通貨に縛られないため、世界中の誰からでも資金調達できる方法として注目されています。
一方、投資家側の主なメリットは、保有するトークンの価値向上です。基本的には株券と同じで、購入したトークンのプロジェクトの価値が上がれば、トークン自体の価値が上がり、売却時に利益が得られます。そのため、投資家は保有するトークンの価値を上げるために積極的にプロジェクトを応援することになり、ICOの活用は参加者を巻き込んだプロジェクトとの相性がよいと言われています。
上記のように調達側・投資側双方にさまざまなメリットがあるものの、お金を集めたまま計画の実行に移らない、詐欺のようなICO事例が多発してきました。現在、仮想通貨取引所の不祥事もあり、日本を含め世界中で新規ICOに対する規制強化が行われています。
本記事でもいくつか事例を紹介しますが、実際のトークン購入は、事業計画をホワイトペーパーで読み、ご自身で判断してください。
キャッチーな名前から注目を集めたバナナコイン
東南アジア・ラオスにあるバナナ農園は、中国での需要拡大に向けて、農園の規模拡大を検討していました。そのための資金調達方法として経営陣が活用したのは、銀行でも、ベンチャーキャピタルでも、従来型のクラウドファンディングでもなく、ICOでした。ロシア人実業家のオレグとアレクサンダーが運営するこの農園は結果として、2018年5月時点で約680万トークンを販売し、300万USドル(約3億円)近くの資金調達を成功させたのではないかと推測されます(各販売時期のトークン価格は完全に把握できませんが、リリースによると通常1トークン=0.5USドルで販売されています)
集めた資金は、総調達額に合わせて100~360ヘクタールのバナナ農園の増築に使い、中国を中心に需要が高まっているレディーフィンガーという品種を栽培します。
興味深い事に、このバナナコインのトークン“BCO”の価値は、1BCOあたり1キログラムのバナナの輸出価格(2018年5月時点で2.3USドル毎キログラム)と連動するように設計されています。ある意味、バナナ価格という国際市場の価格変動のリスクを、投資家とシェアしているとも言えるかもしれません。
ロシア企業が主導したものの、資金調達に失敗したミルクコイン
バナナコインは今もなお実行中のプロジェクトですが、資金が想定したよりも集まらず、投資家に資金を返却したICOもあります。その一つがミルクコインです。
ミルクコインはロシアの農業会社ココルスカヤが酪農農場のための資金調達手段として行ったものです。彼らも、銀行からの融資では土地を担保にしても十分な資金を集められない事から、ICOに挑戦しました。資金用途は、すでに保有している3,500ヘクタールの農場に乳牛や飼料用機械などの設備を設置するためとしていました。2017年11月にICOを実施したのですが、残念ながら目標としていた額の調達が実現できず、調達額を投資家に返却して、再度計画を練ると発表しています。
資金調達が失敗した場合に、法的な手続きや送金手数料を抑えてスムーズに資金返却が行えるというのも、仮想通貨を使ったICOのメリットと言えるかもしれません。結果はうまく行きませんでしたが、経営計画を世界中に発表し、実際の投資という形で評価を得て、次のアクションにつなげられるという意味では、価値のある挑戦だったのではないかと思います。
一時的にバブルのように注目され、怪しいイメージを持たれてしまったICO。最低限の規制や、投資側の慎重な判断は常に必要ですが、うまく活用すれば、農業にも新しい風を吹き込んでくれるかもしれません。
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