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生産農家7軒の希少作物、“アートの力”で世界へ羽ばたく

生産農家7軒の希少作物、“アートの力”で世界へ羽ばたく

最終更新日:2018年07月12日

耐久性の高い畳表の原料として、かつてはイグサと同様に日本各地で栽培が盛んだった「七島イ(しちとうい)」。生産者の高齢化により、一時は産地消滅の危機に直面しました。現在、全国唯一の産地は大分県国東市、生産農家はたったの7軒です。希少な作物の魅力を、アートの力に託し海を越えて発信する、地元の人々に話を伺いました。

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同級生が二人三脚、貴重な伝統作物の筆を考案

七島イの筆を用いて、松本さんが即興でしたためた「龍」の文字

地元・国東市出身の書道家、松本重幸(まつもと・しげゆき)さんが筆先をくねらすと、まるで生命を宿したかのような「龍」の文字が紙上に現れました。

躍動感の秘密は、独特のカスレ。一般的には動物の毛で作られる筆ですが、「龍」を生んだ筆は、地元で生産された作物「七島イ」から作られています。七島イは耐久性の高さから畳表の原料として使われ、昭和初期までは庶民の生活に密着した素材でした。しかし、現在の産地は国東半島のみ、生産農家は7軒だけという希少な存在になってしまいました。

【関連記事】生産農家は全国7軒、新規就農者が「七島イ」を選んだ理由

筆を制作したのは、七島イの保存・普及を行う「くにさき七島藺振興会」会長の林浩昭(はやし・ひろあき)さん。松本さんとは、旧県立国東高等学校の同級生同士です。

書家の松本さん(左)と、筆を制作した林さん

農業者であり複数の大学で客員教授などを務める林さんは、仕事の合間を縫って “夜鍋”で制作。針やナイフなど様々な道具を用いて七島イを割き、太さや長さを加減しつつ、コシを持つ筆を追求しました。

ナンバリングされた試作品の筆と林さん

松本さんが大小様々な試作品の書き心地を試し、二人三脚で改良を重ねてきました。作った筆は、実に100本以上にのぼります。筆管から穂先までのほぼ全体が、七島イで作られているのが特長です。
「七島イのしなやかさと強さを、筆で表現したかった」と、林さん。松本さんも「穂先のまとまりが良く、弾力がある」と、出来栄えに頷きます。

小学生の頃から書道に親しんだ松本さんは、独学を重ね、‟脱サラ”の後に書家となりました。古典作品から学んだ基礎に独自の解釈を融合させた、端正ながら力強い書風が持ち味です。
県銘柄の焼酎ラベルや企業ロゴなどを制作したり、歴史ある文殊仙寺の奉納揮毫を行ったりと、県内外で活躍しています。一つの作品を書き上げるのに、半紙何百枚分もの練習を行う努力家でもあります。

ニューヨーク市へ作品を寄贈する松本さん(松本さん提供写真)

2015年に米・ニューヨーク市で個展を開催し、市庁舎へ七島イで書いた「龍」を寄贈。「今まで見たどの漢字よりも迫力がある」と現地での評判も高く、市長から感謝状が贈られました。
「七島イの書作品としてオリジナリティを打ち出しながら、海外展開していきたい。同時にこの七島イの特性をPRし、海外の住宅・インテリアへの導入を推進できれば」と、松本さんは話します。天高く登る飛龍に乗って、国東の伝統作物が世界へと羽ばたいていきます。

伝統作物をお洒落なアクセサリーに“翻訳”

若い女性や子どもたちに親しみやすい形に“翻訳”しながら、七島イを紡ぐ人もいます。

七島藺(い)工芸作家の岩切千佳(いわきり・ちか)さんは、七島イを使った色鮮やかなミサンガなどのアクセサリーやバッグを製作し、有名アパレルメーカーが経営する都内のセレクトショップなどで販売、人気を集めています。
「七島藺工房 ななつむぎ」を構え、子どもから大人までが参加できる製作体験教室を県内外で開催し、七島イの魅力を発信しています。

最近では、九州を走るクルーズトレイン「ななつ星in九州」の乗客向けワークショップを担当したり、海外へ商談に赴いて現地のファンを獲得したりと、国内外へ活躍の幅を広げています。

規格外の七島イを使って、工芸品を編む岩切さん

宮崎県出身の岩切さんは、大学で芸術を学んだ後に就職。仕事中に左手小指の神経を切断し、4度の手術をするケガを負ってしまいます。縁あって移住した国東市で七島イに出合い、リハビリを兼ねて工芸品づくりに励むようになりました。

畳表用の素材としては規格外の乾燥原草を、水で湿らせて柔らかくしてから編んでいきます。清々しい香りを立てる青々とした七島イを、手際よく編み上げる岩切さん。「この香りが大好き」と微笑みます。10年ほど経つと飴色に変わり、まるで革製品のように経年変化を楽しめます。「使うほどにツヤが増す。初めはただの草なのに、色んな物を生み出せるとても面白い素材」と、七島イのポテンシャルを感じています。

畳表の製織も行う七島イ農家の諸冨康弘(もろとみ・やすひろ)さんは、「手に取りやすい小物に加工して、作物の良さを発信してもらえるのはうれしいこと」と語ります。

くにさき七島イ振興会事務局長で、畳店を経営する細田利彦(ほそだ・としひこ)さんも、「畳の消費は、自宅に和室がある人に限られる。ですが、岩切さんの工芸品は全国の若者に後継者不足の作物をPRし、興味を持った人が生産者にコンタクトする機会を作ってくれます」と、喜びます。

「特に子どもたちに、過去から受け継いだ“本物の良さ”を伝える機会を作っていきたい」と、岩切さん。アートという器に載せて伝統作物の魅力を発信し、守りながら変えていく地域の人々の姿が国東にありました。

【関連リンク】
くにさき七島藺振興会
書家・松本重幸 公式サイト
七島藺工房 ななつむぎ

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