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世界が愛する日本のうずら その国際ブランドに秘められた可能性

世界が愛する日本のうずら その国際ブランドに秘められた可能性

世界市場におけるうずらは「肉を取るならフランス製・卵を採るなら日本製」。
主にジビエ料理に使われる“フランスうずら”に対して、良い卵をたくさん産むと評判の日本のうずらは、アジア・南米地域各国で広く利用されています。海外で生産・流通に携わる職人たちが「ぜひ本場で研修を受けたい」と多数来日するほどです。
そのうずらとはどんな家禽なのか、そして日本の養鶉(ようじゅん)業界は今どうなっており、将来どんな可能性があるのかを見ていきましょう。

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日本人にはわからない、海外における日本のうずらの価値

農業

アジア・南米で知られる「ジャパニーズ・クエイル」

日本ではうずら卵の需要はそんなに高くなく、毎日食べるという人は珍しいでしょう。業界の規模も小さく、年間の産出額は約47億円(うち愛知県が約33億円)で、鶏卵(約5192億円)の1パーセントにも及びません(※)。
ところがそれに比べてアジアや南米地域には大きな市場があり、中国、タイ、ブラジルなどでは食品産業の中でも一大勢力になっています。しかもこれらの国で採卵用として飼育されているのは、もともとは日本で飼育され改良されたうずら、すなわちジャパニーズ・クエイル(Quail=うずらの英語名)なのです。

※ 平成28年 生産農業所得統計(農業産出額及び生産農業所得):農林水産省

日本独自の家禽化・採卵用飼育の歴史

日本においてうずらは古事記、万葉集の記述に始まり、絵や和歌の素材として愛でられ、その鳴き声を楽しまれ、江戸時代に家禽化されて、明治中期頃から採卵用として飼育され始めました。
うずらは世界各地に生息している鳥で、フランスをはじめヨーロッパでは肉用に飼育されていますが、採卵用として大規模に飼育するようになったのは日本が初めてです。
なぜ日本のうずらが広まったのかは諸説あり正式な記録は残っていませんが、20世紀半ば頃は出入国管理も今ほど厳しくない上、卵(約11グラム)でも雛(約5センチ・6グラム)でも成鳥(約20センチ・130グラム)でも、ミニサイズなので持ち運びが容易だったのでしょう。
日本の入植者が多いブラジルで特に養鶉業が発展しているのは、その表れかもしれません。

うずら卵は寿司と同じ“日本食”?

こうした国々から、はるかに市場の小さい日本の養鶉農家・企業に研修生が訪れるのは奇妙な現象です。しかし、そこに日本の養鶉業界が培った歴史と文化の深さがあります。
日本唯一のうずら専門農協「豊橋養鶉農業協同組合」の営業部課長・葛山貴之(かつらやま・たかゆき)さんによると「彼らは海外からやってくる寿司職人のようなもの。日本で寿司の修行をしたという実績を作れば、相手(顧客やビジネスパートナー)の見る目が変わる。それと同じ価値が『日本で養鶉を学ぶ』という行為の中にあるのです」
それほど、「うずらは日本の食文化」というイメージが、海外のうずら消費大国の人々の間に伝わっていると言えるでしょう。

うずらの生態と日本における飼育管理の概要

鶉舎(じゅんしゃ)の様子(写真提供:豊橋養鶉農業協同組合)

発育と産卵

うずらの発育は非常に早く、4~5日でふ化直後の倍の体重になります(鶏では8~9日)。さらに、初産までの日齢も鶏に比べて早く、平均40日前後(鶏は140~160日)。小さい体にしては卵が大きめで、鶏卵は親鳥の体重2キロに対し60グラムと3%程度の重さなのに比べ、うずら卵は親鳥の体重130グラムに対し11グラムと約8%にもなります。
うずらは静かで落ち着いた環境を好む神経質な鳥のため、産卵は夕方、暗くなってから始めます。

音に過敏反応

飼育管理は、冬場の保温や換気、毎日の除ふん、餌や水を切らさないようにするといった基本的なことに加え、音に対する配慮が必要です。
うずらは音に過敏に反応するため、雷鳴や強風、車・バイクのごう音などを聞くとショック死したり、驚いて飛び上がり鶉舎の天井にぶつかって落下死するといった事故がしばしば起こります。

業界の変化と新たな人材の希求

豊橋養鶉農業協同組合の葛山貴之さん

統合合併する生産農家

近年、日本の養鶉業界では、いわゆるM&Aにより、生産農家の廃業に応じて、体力のある農家・企業がその設備やスタッフをそのまま引き受け、事業を継続させるというケースが相次いでいます。全国の飼養羽数は2016年度の約416.8万羽に比べ、2017年度は約450.2万羽と増えており(農林水産省調べ)、この傾向は今後も続くものと思われます。

研究・改善の余地と求められる人材

より規模が大きくなった存続農家・企業に求められるのは、より効率的な経営です。この変革期に際して近年、設備の機械化や飼育施設の改善(給餌・集卵・除ふんの自動化、防音対策)が進められています。
さらにうずらの生態には未知の部分が多く、飼育方法を研究し改善する余地がまだたくさんあるというのが、業界共通の認識です。
この課題に応じ、より生産性の高い飼育システムを構築していくためには、これまで生産者の間で重んじられてきた「職人の勘」に頼らず、詳細なデータを取って、それに基づいて飼育環境を整備したり、給餌を管理したりする必要があります。
生産分野では今、こうしたデータ化・高度なシステム化を実践できる新しい人材が求められているのです。

新しい需要の開拓も

また販売の分野でも、市場拡張を命題に、より魅力的な新規性のある製品、他の食材では代替できない、うずら卵ならではの製品を開発することが重要とされています。
一方でホテルや高級料理店に向けて少量生産されている国内産の肉用うずら(フランス産うずらを改良した品種)についても、市場拡大の可能性を積極的に探っていこうという動きが起こっています。

ここにフロンティアがあるという「ご吉兆」

「ジャパニーズ・クエイル」という確固たる国際ブランドイメージを確立し、リスペクトされている日本のうずら。メディアなどでは「存続の危機」もささやかれますが、むしろ養鶉業は今後、古い常識を変えて新たに開拓すべきフロンティア産業と言えるのかもしれません。
昔の武将は「ゴキッチョー」と鳴くうずらの声を「ご吉兆」と聞き、縁起の良い鳥として愛でたそうです。さて、あなたの耳にはこの鳥をめぐる情報がどう響いているのでしょうか?

豊橋養鶉農業協同組合

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