11年前、父親の死をきっかけに家業を継いだ2代目の北坂 勝さん。今では「北坂たまご」は高級デパートや一流ホテルでも扱われるほどの人気商品です。
しかし、こうなったのは、ここ5年ぐらいのことでした。以前は仕事が嫌で仕方なかったと言います。鶏糞の処理に追われる日々、汚れ、匂いへの苦情……。そんな仕事が“天職”に変わるきっかけにもなったブランド術。そこには、「デザイン」「情報公開」「かたりべ」という3つの柱がありました。
純国産鶏の「さくら」と「もみじ」、約15万羽を飼育
■ブランド術1:デザイナーがビジネスパートナーに
先代から経営方針を変えたのはなぜですか?
父から事業を引き継いだタイミングでいくつかのスーパーが倒産し、私はいきなり窮地に陥りました。何とかして新たな販路を開拓しなければならないと悩み、あらゆる業種の友人に相談をしました。
そんな中で生まれたのが“たまごまるごとプリン”です。「北坂養鶏場」の名前を知ってもらうためのツールとして、インパクトの強い6次化商品が必要だと思って開発しました。
卵の殻を割らずに作る不思議なスイーツが大ヒット
しかし、商品は知ってもらわないと意味がありません。しかも、本当に売りたいのはプリンではなく「北坂養鶏場」というブランドであり、父が残してくれた「純国産」という私たちのこだわりです。
「これからはホームページやSNSで積極的に情報発信しなければ。デザインで変えていきたい」と思い、看板屋に相談を持ちかけました。そこでデザイナーの息子さんとのブランディングが始まりました。
デザイン関係を外部に発注したのですね
早速彼に会ってみると、デザインのことではなく、仕事への思いを色々聞かれました。「やりがいは何ですか?」という質問に私は答えられず、ハッとしました。彼と出会って、私は養鶏という仕事を見つめ直したのです。
パッケージデザインもリニューアルした
デザインを一新することは私自身を一新することでもありました。名刺も新しいデザインに変えるため、肩書きを「養鶏家」に変えました。私の仕事は卵を売ることでなく「鶏を大切に育てることなんだ」と気づいたからです。
一人ですべてやっていたら何も変わらなかったと思います。デザイナーとの出会いは私のターニングポイントでした。
■ブランド術2:とことんオープンな養鶏場にしたい
直売所を移転オープンしたのは何故ですか?
だんだんと仕事に誇りが持てるようになり、たくさんの人に養鶏場を見に来てほしい、命の産物を体感してほしいと強く思うようになりました。そこで2年前、それまで養鶏場内にあった直売所を閉め、今の場所に移転したのです。
楽しさが伝わるコンテナの外観にし、卵採り体験ができる平飼い小屋も作りました。見学会も積極的に開催することにしたのです。すると、デパートやホテルのバイヤーさんが直接訪れてくれたり、得意先の生協の会員さん達が見学に来たり、どんどん賑やかになりました。直売所を移転したことが、直売以外の販路の開拓につながったのです。
■ブランド術3:自分の声で表現し、魅力を伝える
見学会やイベントへの参加で多忙ですね
今、たくさんの人に養鶏の話を聞いてもらえるのがこの上なく楽しいんです。伝えることは重要なファクターだと実感しています。いくら純国産にこだわっても卵は卵でしかない。卵を見ただけ、食べただけでは何も伝わらないのが現実です。だけど、私の話で背景を知ってくれた人たちは、本当の価値を理解してくれていると思います。
日本で純国産と呼ばれる卵は 5%しかないのです。輸入した鶏が産んだ卵ではなく、日本で生まれたヒヨコが生む卵、それが純国産です。ヒヨコを育てるのに膨大なエサ代のコストがかかりますが、父から受け継いだ純国産へのこだわりは大切に守っていきたいですね。
「北坂養鶏場」は父が残してくれた宝です。瀬戸内海の風が吹き抜ける空気のきれいな鶏舎、上質な地下水。私たちの卵は、自然に恵まれた淡路島で育った、健康な鶏にしか産めない貴重なものです。自信を持っておすすめできます。
私は養鶏家という仕事を遊ぶように楽しめるようになりました。これからも積極的に見学会をしたり、全国各地のイベントに参加したり、たくさんの人に「北坂養鶏場」の物語を話し続けていきたいと思います。
奥さんは直売所での販売を担当。娘さん達も卵が大好きだとか
写真提供:北坂養鶏場