なぜアメリカの農業スタートアップが多額の投資を集める事ができるのか

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なぜアメリカの農業スタートアップが多額の投資を集める事ができるのか

なぜアメリカの農業スタートアップが多額の投資を集める事ができるのか

最終更新日:2018年09月04日

アグリテックというワードが生まれて数年たちます。世界的に変化が乏しい産業である農業に、ようやく大きなイノベーションが起きるのではないかと、さまざまなスタートアップが注目され、年間1兆円にも及ぶ投資を集めてきました。一方で、農業現場に目を向けると数多くの試みは語られているものの、実際の変化を感じることは難しい状況です。はたして、高い評価を受けている農業スタートアップは何を期待され、莫大な投資を集めているのでしょうか。米国スタートアップの事例から、農業現場を超えて、農業関連産業全体に及ぼすインパクトを考察してみます。

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年間1兆円もの資金を集める農業スタートアップ

農業

技術の発展に加えて、世界的な人口増加と食料不足から、農業分野でのイノベーションに注目が集まっています。国連によると2050年に世界の人口は約100億人に増える見通しで、FAO(国際連合食糧農業機関)は食糧生産を現在より7割以上増やす必要があると予測しています。この課題を解決するイノベーションへの期待から、農業スタートアップへの投資に拍車がかかっています。

米国で農業投資情報を集めるAgFunderによると、2017年には101億米ドル(約1兆1200億円。2018年8月現在)の資金が農業・食料関連のスタートアップに投じられました。2016年の78億米ドルから29%増加した結果となります。2017年の大きな投資先では、垂直型栽培の植物工場を開発運営するプレンティ(Plenty)や、種子に微生物処理を行うインディゴ・アグリカルチャー(Indigo Agriculture)等にそれぞれ約2億米ドル(約220億円)が投資されました。他にも数百億円単位の調達や事業売却の事例があります。

このように盛況な農業スタートアップへの投資ですが、日本の農業現場では投資を集めたサービスの進出を肌で感じることはできません。まだ研究開発段階で、実用化に至っていないサービスも多いスタートアップですが、なぜ高額の投資を集めることができるのでしょうか。企業価値も高く評価されている米国スタートアップの事例から、その会社が持つインパクトについて考察をしてみます。

農業情報の管理を簡単にするだけではなく、「情報の非対称性」の解消を進める

農業

事例の一つ目として取り上げるのは、ITを使った農業支援サービスを提供する企業、ファーマーズ・ビジネス・ネットワーク(以下、FBN)です。この会社のサービスを使うと、過去の生産高や、種子や肥料等の情報をWeb上で簡単に管理することができます。2018年現在、3000人以上のユーザーが、年間700米ドル(約7万8000円)のこのサービスを利用しています。FBNはGoogle等から現在までに合計1.9億米ドル(約210億円)の調達をしており、現在上場を目指して事業拡大をしています。

圃場(ほじょう)管理系のサービスとしてはかなり普及しているサービスですが、日本でもよくあるサービスですし、調達額に比べてユーザー数や単価が少ないと思われたのではないでしょうか。高い評価を受けているのは、売上になっている以上の価値を投資家が見出したからかもしれません。

FBNの特徴は、自分が入力した農場情報の簡単な管理ができるだけではなく、自前データや他の農家から得られたデータをもとにした分析サービスがあることです。その分析により、他の農家と比べたときの生産性がわかる上に、利用した肥料や種子等の資材の有用性がわかります。

農業には生産者だけではなく、種子・肥料・農薬・農機などの資材を販売する巨大企業が存在します。いままで各商品の有用性は各企業が見せる情報に限られてきました。持っている情報量の違いは一般的に「情報の非対称性」とよばれ、より情報を持っている企業の交渉力が強くなり、生産者の立場は弱い状況となっています。

FBNのサービスでは、各商品が複数の農場でどんな結果を出したのかがわかります。そのことで、商品の有用性がわかり、各農家は実際に使った情報を基に資材購入の判断ができるようになります。これは、世界的に数十兆円市場がある農機関連資材メーカーのマーケティングや営業に大きなインパクトを与えることになります。そのことを見越してか、FBNでは資材販売のプラットフォームを手掛けています。さらに、2018年8月に自社ブランド種子「F2F」を立ち上げ、データを活用した資材販売も自ら開始しました。

FBNが高い評価を受けているのは、情報管理によって各農家の生産性を向上させるということではなく、農業資材取引自体の構造が大きく変わり、そのプラットフォームになる可能性があるからではないでしょうか。

農薬ビジネスを変える農機ビジネス

農業

2017年の大きな買収案件といえば、ブルー・リバー・テクノロジー(以下、BRT)です。AIを活用した農機システムを開発するBRTは、米国農機メーカーのディア・アンド・カンパニーに、3億米ドルで買収をされました。BRTは画像認識技術や機械学習を活用し、レタスの間引き作業や雑草除去を行う農業用ロボットを開発しています。農業用のトラクターの後方部に設置したカメラで取得した画像から、間引くレタス・間引かないレタス・雑草を判別して、間引きや雑草除去を行います。

彼らが解決しようとしているメインの課題は、農業労務や既存農機の効率化ではありません。BRTのホームページによれば、彼らの課題意識は、大量の農薬利用と農薬耐性を持つ雑草の増加にあります。世界で30億ポンド以上消費される除草剤を、画像解析技術により減らすというのが彼らのビジネスの出発点とのことです。

実際に改めてサービスを見てみると、もともと農薬が解決していた雑草駆除という課題を、農機の今までの使い方を超えて解決していたのがわかります。今までの農機の概念を超えたアイデアだからこそ、大手農機メーカーの目に止まったのかもしれません。

農業でのイノベーションに向けた開発には、長い年月とコストが掛かります。そのため、他のスタートアップよりも大きな投資が必要といえるかもしれません。上記米国の事例に見たように、既存の農業現場の課題を解決するという発想だけではなく、より市場の大きい周辺市場の構造を大きく変えるようなビジネスモデルを作る事で、莫大な投資を得られるのではないでしょうか。農業ビジネスを考える時は、現場の生産性改善を考えるだけではなく、周辺産業を全く新しい形で改善するような発想が求められているのかもしれません。

プレンティ
インディゴ・アグリカルチャー
ファーマーズ・ビジネス・ネットワーク
ブルー・リバー・テクノロジー

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