「CSA」とは?
CSAは「Community Supported Agriculture」の略称で、日本では「地域支援型農業」と呼ばれています。これは、消費者が生産者に代金を前払いして、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業のことを言います。例えば、1年の前払い契約をし、その農家の会員となった消費者が、生産者より月2回、季節の野菜セットを受け取ることができる、などの例が挙げられます。
CSAのメリットは
生産者にとっては、悪天候などで収穫量が例年より減ってしまっても安定的に収入を得ることができる、少量多品目生産にも対応できる、規格外や売れ残りの野菜がなくなる、また、消費者との交流が生まれることから信頼関係を築くことができるなどのメリットがあります。一方消費者にとっても、地域で作られたばかりの新鮮な野菜を手に入れることができる、作り手の顔が見えるので安心できるなどのメリットがあります。また、農業体験ができるプログラムもあるため、子どもの学習や食育にも役立たせることができるでしょう。
CSAを行う上での注意点
日本ではまだあまり普及していないCSA。知名度が低いことも参加者が少ない理由の一つとなっているため、日本で広げるためには、まず、その取り組みをより多くの人に知ってもらうことが重要です。また、買いたい物をいつでも買えることに慣れている日本の消費者に対して、“不作時には届く作物の量が減ってしまうかもしれない”というリスクを共有してもらい、理解を得ることも必要になります。
世界の動向と普及の背景
CSAは近年、アメリカやヨーロッパを中心に世界の都市に広がっています。特にCSA発祥の地と言われるアメリカで普及が進んでおり、他にも世界各地で30カ国以上がCSAの活動を展開しています。
欧米での普及の背景としては、CSAの支援組織が発達していることが大きいと考えられます。生産者と消費者の両方に対して啓蒙活動を行ったり、契約の仲介や認証などの実務をサポートしたりするなど、CSAに取り組みやすい環境づくりが進んでいることが、日本との違いと言えるでしょう。
CSAは日本で定着するのか?
CSA(Community Supported Agriculture)は農業の新しい形態であり、農家と消費者が直接取引し農産物の生産と消費を共同で支え合うシステムです。近年、日本でもCSAが注目されるようになり、農家と消費者の間での直接取引が増えてきています。これは消費者が食の安全や安心を求める意識が高まり、地産地消や持続可能な農業を支援する動きが広がっていることが背景にあります。日本国内でのCSAの定着は途中であると言えますが、取り組み事例は増えつつあるのです。
CSAの定着にはいくつかの課題が存在し、例えば農家と消費者のマッチングの難しさや、生産者の農業経営の安定化などがあります。また、日本の農業には長年の歴史や慣習があり、新しい形態の農業に対する受け入れや理解を促進するための支援が必要です。
日本でもCSAの事例はある?
日本のCSAの事例を紹介します。国内のCSA第1号として1996年に誕生した「メノビレッジ長沼」(北海道夕張郡長沼町)は、約80軒の会員を持ち、米や野菜、豆類など何十種類もの作物の中からいくつかを組み合わせて提供しています。別途注文で、パンなどの加工品も取り扱っています。
また、「鳴子の米プロジェクト」(宮城県大崎市)は、農家の米作りを支えるため、「支え手」となった消費者がNPO法人に前払い金を払い、NPO法人が「作り手」である農家に、前払い金から事務経費や若手就農者の支援などに必要な資金を引いた額を定額支給するというもの。消費者が地元産の米を高く買うことで、地元産の米を支え、地域活性化に結び付いています。
農産物直売所での取り組み事例
農産物直売所は、地元の農産物を生産者が直接販売することで消費者とのつながりを深め、地域経済の活性化や農業の持続可能性の向上を目指す取り組みです。地方自治体や民間企業を中心に、全国各地でさまざまな取り組みが行われています。ここでは、秋田県横手市と徳島県小松島市の農産物直売所の取り組み事例を紹介します。
秋田県横手市
秋田県横手市の道の駅「十文字」は地元の農産物の販売促進を目的にオープンし、地域住民の交流の場として活用されています。アンテナショップや県外への産地直送野菜の出張販売を行うなど出荷登録農家との連携を重視し、会員に商品の種類や価格設定を一任しています。また、野菜ソムリエスタッフを配置して野菜の特徴を生かした調理方法のアドバイスやレシピ情報を提供し、交流・休憩スペースを無償で提供することで地域住民の交流を促進し直売所の集客を目指しています。
出荷登録農家の高齢化による出荷量の減少を一時的に経験しましたが、新たな若い会員の増加や商品の取り寄せなどの対策により供給量を確保し、販路の拡大を図るためネット通販などの事業も視野に入れています。
徳島県小松島市
JA東とくしまの「みはらしの丘 あいさい広場」は平成18年にオープンし、売上高は平成26年には12億円と拡大しました。平成30年には隣接した高台に移転し、地産地消の食堂「あいさいキッチン」などを備えた総合農業施設として、地域をトータルサポートするさまざまな取組を行っています。エシカル消費にも積極的に取り組み、令和2年にはオーガニック・エコフェスタ2020が開催されました。
また、中山間地域で生産された農産物を活用した料理を提供するあいさいキッチンや、農産物を使った小麦や米粉のパンを提供するあいさいベーカリーがあります。アグリカルチャーセンターでは食と農をトータルサポートし、地域の食文化や新商品の開発、販路拡大を行っています。さらに、JA直売所間で連携することにより安定供給を実現できるのです。
学校給食での取り組み事例
学校給食は、子どもたちの健康や栄養を考えた大切な取り組みです。近年では地産地消や持続可能性に着目し、地域の食材を活用した給食が注目を集めています。ここでは、東京都小平市と福島県相馬郡新地町の学校給食への取り組み事例を紹介します。
東京都小平市
東京都小平市では学校給食における地場産農産物の導入率が従来は約5%でしたが、平成21年に、市の目標として地場産農産物導入率を30%に設定、研究会を経て行政が体制づくりを助成しJAが配送を担う仕組みを確立しました。JAが学校・栄養士と農家をつなぐコーディネーターの役割を果たし生産量の確保や安定した供給を実現できたことにより、令和元年度には目標の導入率30%を達成できました。現在、小平市の取組は都市部における地場産学校給食の優良事例として注目され、他の地域からも参考にされています。
市の目標である地場産農産物導入率の向上を支援するため、JAが小学校への補助金交付や配送業務の請負を行い円滑な供給・配送システムが確立されました。地元JAは農家と栄養士の間の発注や納品事務、要望・提案へ対応し、地域の作付状況や食文化に精通した情報提供を行っています。また、規格の調整や意見・要望への対応のために目合わせ会が実施され、全校共通の地場産メニューの日を展開し出張授業への協力も行われています。
学校と農家の直接契約では課題がありましたが、JAの配送システムの導入によって解消されました。学校給食の食材納入をJAが対応することによって、農家と栄養士の相互理解を促進しています。新型コロナウイルス感染防止に伴う一斉休校の時にはJAが農家から野菜を買い取り、市役所や学校で販売することで農家への支援が実現したのです。
福島県相馬郡新地町
福島県相馬郡新地町は直売所や市場関係事業者、県の関係機関と連携し放射性物質の安全性を確認した地元産食材を学校給食に活用しており、地場産率は福島県内市町村で最も高い水準です。この取り組みにより、平成30年度には「ふくしま地産地消大賞」優秀賞を受賞。町教育委員会が発行する食育広報誌やホームページには地元産食材の放射性物質の検査情報を掲載し、学校給食だけでなく地元産食材の安全性に関する情報を広く提供しています。小・中学生を対象に、郷土料理の調理実習や地域の食文化、魚介類の安全管理体制に関する講話など地元食材や食文化についての理解を深める取り組みを行っています。
これらの取り組みにより、学校給食における地元産食材の利用と安全性確保が徹底されました。地域との連携や食育活動を通じて、小中学生に対して食の大切さや地域の食文化に関する理解を深める効果があると言えるでしょう。
病院・高齢者施設での取り組み事例
病院や高齢者施設における食事の提供は、入居者や利用者の健康や栄養をサポートする重要な取り組みです。特に高齢者は栄養摂取の面での課題があり、栄養バランスの良い食事が必要不可欠です。近年では病院や高齢者施設においても、地域の食材を活用した食事の提供が注目されています。ここでは、富山県富山市と岡山県笠岡市の病院・高齢者施設へのさまざまな取り組み事例を紹介します。
富山県富山市
富山県富山市の特別養護老人ホーム「ささづ苑」では、地元で生産された食材を使用して献立を組んでいます。地域の高齢者との交流を目的とした「ひまわりカフェ」というランチ会では、県産食材を使用した食事が提供され地域の社会福祉協議会と連携し、一人暮らしの高齢者への県産食材を使用した「敬老お祝い膳」の提供を行っています。
「ささづ苑」の入所者やデイサービス利用者らと一緒に野菜を作ったり育てた野菜を調理したりと、交流の場を創出。食材の購入を通じて地域の生産者とのつながりを深め、地域の食文化を次世代に繋げる食育活動にも取り組んでいます。これにより、利用者は地域の食文化を大切にしながら安心して生活を送ることができ、地域の高齢者との交流も促進されていると言えます。地域の食材を使用することで、地域経済の活性化や食育活動の発展を促し地域とのつながりを深めています。
岡山県笠岡市
岡山県笠岡市の笠岡中央病院では、生産者との交流を重視し地場食材の生育状況を共有しながら、食材の特徴を生かした献立を作成しています。規格外の食材も活用することで、生産者の所得向上にも貢献します。地場食材の使用をアピールするお品書きや掲示物を作成し生産者との交流会を実施しており、給食体験会や地産地消祭りを企画し市内のマルシェへの出店やブログや学会発表を通じて地産地消のメリットや地場食材の魅力を広く発信しています。これにより、地産地消の活動が地域住民に浸透し地場食材の購入や利用が増え、地域経済や生産者の支援に貢献しているのです。
最後に
「地域支援型農業」という名の通り、消費者の「地元の農業を支えたい」という気持ちもCSA普及のためのカギとなりそうです。地域のコミュニティを形成し、日本の農業を元気にする取り組みの一つとして、注目を集めるCSA。気になった人はさまざまな取り組みをインターネットなどで調べてみましょう。
参考
「農」を支える多様な連携軸の構築(PDF):農林水産省 p.5「地域支援型農業」(CSA)の概要
CSA(地域支援型農業)導入の手引き:農研機構
事例調査にみるCSAと農業・農村の機能・価値との関係性(PDF):農林水産政策研究所
上記の情報は2018年9月6日現在のものです。
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