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西洋野菜で売り上げ拡大。経験ゼロから成功を収めた方法とは

西洋野菜で売り上げ拡大。経験ゼロから成功を収めた方法とは

野菜の消費量が減少傾向にある一方で、サラダの購入金額は増加していると言われます。そんな中、有名百貨店の野菜売り場では、カラフルな西洋野菜などを詰め合わせたセット野菜が人気。こうした野菜で売上拡大につなげた農家さんを取材すると、ある共通点が見えてきました。ポイントはシェフの「欲しい」の言葉。細い糸のような縁を手繰り寄せ、生産拡大につなげた方法とは——。

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百貨店で好評のセット野菜とは

食生活の変化などが人気を後押し

伊勢丹新宿店本館地下一階の食料品売場。生鮮食品などを取り扱うフロアの一角に「ファーマーズクリエーション」と名付けられたコーナーがあります。伊勢丹のバイヤーが厳選した全国の優良生産者の野菜を販売するコーナーで、常時6〜8生産者の野菜が置かれています。

伊勢丹新宿店の野菜売り場にあるコーナー。色鮮やかで珍しい野菜が目を引く

色鮮やかで珍しい野菜が並ぶ中で目立つのが、何種類もの野菜を詰め合わせたセット野菜です。サラダ用のミックス野菜をはじめ、バーニャカウダ用の野菜セット、手軽に作れるスープ用の野菜セットなど、5〜10種類の野菜のセットで価格は400〜800円程度。近年、こうしたセット野菜の売れ行きが好調だといいます。

背景にあるのは、野菜の価格高騰と共働きや単身世帯の増加などに伴う食生活の変化とみられています。

伊勢丹で販売を担当する野菜ソムリエの小島孝夫(こじま・たかお)さんは、「野菜が高いと言われる中で、セットだと割安感がある。中食需要が高まって少しの手間で食べられるのも魅力ではないか」と話します。

「野菜ソムリエ上級プロ」の小島さん。珍しい野菜は丁寧に説明することが売り上げにつながるという

農林水産省の調べ(※)よると、一人当たりの野菜の消費量は、1996年に年間105キロだったのが2016年には89キロに減少。一方で、サラダの購入金額は1998に年間921円だったのが、2017年には1,521円に増加。生産局園芸作物課は「料理の内容も、手間のかかる煮物から少しの手間で食べられるサラダなどに移行している」としています。

※ 農林水産省「野菜をめぐる情勢」

カラフル野菜や食用花で生産拡大

夫婦で移住、新規就農した「NOTO高農園」

伊勢丹の契約農家のひとつである「NOTO高(のとたか)農園」(石川県能登島)の高利充(たか・としみつ)さんは、「バーニャカウダセット」や「しゃぶしゃぶセット」などの人気商品をいくつも企画販売した農家さんです。

高農園さんがセット野菜に入れる野菜の例。赤土で育てる根菜はウリの一つ

以前は建築関係の会社に勤めていましたが、島で有機農業をする知人のすすめもあって脱サラ。2000年に妻の博子(ひろこ)さんと共に移住、新規就農しました。当初は郵便配達員や漁師の仕事など二足、三足のわらじを履きながら畑を耕し続けて、徐々に農地を拡大。現在は20ヘクタールの農地で約300品目を栽培します。

就農当初からの売り上げの柱は、能登のミネラル豊富な赤土を生かした大根、かぶ、ジャガイモ、サツマイモなどの根菜類。一方で、近年はカラフルな西洋野菜やエディブルフラワー(食用花)などまで栽培品目の幅を広げてきました。

「普通の野菜しかない」有名シェフの一言が転機に

西洋野菜に手を広げるきっかけとなったのは、フレンチの巨匠「オテル・ドゥ・ミクニ」の三國清三(みくに・きよみ)シェフとの出会い。十数年前、県主催の食育イベントでたまたま高農園を訪れた三國シェフは、畑を見てこう言ったそうです。「普通の野菜しか作っていないんだね」と。

高農園の畑。シェフの言葉を受けて栽培品目が増えていったそう

「普通の野菜ではないものって何かと聞き返したら、シェフの店に遊び来るよう誘ってくださった。それで『イタリアンやフレンチで使う野菜が輸入物しかない。日本で作れないか』と言うんです。僕は食べることも大好きなので、自分が作れたら面白いと飛びつきました」

シェフの一言を受けて西洋野菜の栽培に挑戦。試行錯誤の末になんとかモノにすると、今度は別の野菜も作って欲しいとの要望が。ニーズに応えるうちに、自然に品目が増えていきました。高さんは取引のある店を食べ歩く習慣もあって、シェフの料理をヒントにセット野菜の企画が生まれることもあるといいます。

三國シェフ(右から二番目)らを囲む高さん夫妻。野菜を卸している店を食べ歩く習慣もあるそう

現在の販売先は、東京のレストランやホテルなどを中心に全国に200軒ほど。ほとんどが直接取引だといい、人から人への紹介で新しい得意先が増えることが多いそう。

「小売店に卸していたときには、バイヤーが代わるタイミングで取引を丸ごと失うことも何度も経験しました。ですが、シェフの方は店を変わっても移った店で取引を続けてくれる方が多く、自分の店から独立するシェフを紹介してくれることもあります。こちらが誠実な付き合いをしていれば一生ものの関係を作れる気がします」

イタリア料理店のない町を一大産地に

16人の農家が結集する「かほくイタリア野菜研究会」

イタリア野菜のミックスサラダを販売する「かほくイタリア野菜研究会」(山形県河北町)も、シェフの要望をきっかけに始まった企業組合です。2013年に法人化し、16人の農家が年間40〜50品目のイタリア野菜を生産。設立からわずか6年ながら、河北町といえばイタリア野菜の一大生産地としてイタリア料理界に浸透しつつあるといいます。

サラダセットに使う野菜の例。右から時計回りにプレコーチェ、キオッジャ、カステルフランコ、プンタレッラ

もともとは国の緊急雇用創出事業の一環として、商工会が地元の枝豆や米などのブランド化に取り組んだのがきっかけです。組合や農協のしがらみもあって、思うようにブランド化が進まない中、職員がたまたま訪れたイタリア料理店で、キッチンの脇で育てられる野菜を目にしたそう。

その野菜というのが「トレヴィーゾ」という赤いチコリの一種。正式名称は「ラディッキオ・ロッソ・ディ・トレヴィーゾ・タルティーヴォ」。覚えきれないほど長い名前ですが、イタリアでは有名な野菜で、これ無しには完成しない料理もあるといいます。

トレヴィーゾの原産地はアルプス山脈近くの寒冷な地域。山形県の気候環境と似ているという

「チコリの中でも奥手で一番手間がかかる品種です。当時インターネットで調べてみると、輸入物に1キログラム6000円もの高値が付いていました」。同会事務局長の佐藤淳也(さとう・じゅんや)さんは、こう振り返ります。

「国産のイタリア野菜を使いたいが品物がなくて買えない……」。そんなシェフの言葉を聞いて「ないなら自分たちが作ろう」との決意で会が立ち上がったそうです。

「You Tube」で研究し「Facebook」で販路探し

とはいえ、当時は日本になかった野菜です。当然、栽培技術を持った農家も身近にはいませんでした。ましてや、河北町には現在もイタリア料理店が一店もありません。なんとかネギ農家4名を説得して協力を取り付けたものの、最初は動画サイトのYou Tubeで栽培方法の動画を見て学んだともいいます。

「3、4年はお金になりませんでした。失敗の連続です。数をこなして経験値を上げるほかないけれど、前年に成功したものを同じようにやっても、翌年は失敗することもある。イタリアでも北部と南部では気候が異なるので山形では作れない野菜もある。随分失敗して山形の気候風土に合ったものを残してきた感じです」


「かほくイタリア野菜研究会」の農家さん。ネギ農家にはイタリア野菜のネギを作ってもらうなど、得意なものを分担して栽培しているそう

ようやく野菜ができても販売先のツテもありません。当初はFacebookでイタリア料理のシェフを見つけると、なりふり構わずに“友達申請”してメールを送信しました。返信は100件に1、2件もあればいいほう。それでも数少ない返信の中には、イタリア料理界で有名な「リストランテ・アクアパッツァ」の日高良実(ひだか・よしみ)シェフなどの名もあったそう。

針に糸を通すような地道な努力を繰り返して一つの縁を手繰り寄せました。すると今度は、単品では取引ができないので他の種類も栽培してほしいとの要望を受けるようになり、品目を増やしてきました。

売れる農家の共通点とは

こうして見ると「高農園」と「かほくイタリア野菜研究会」が生産拡大した経緯はよく似ています。一皿の料理を表現するために必要とされる野菜は何かという料理人の要望をすくい上げ、求められる質と量で応える——。

前出の野菜ソムリエの小島さんは、 「野菜セットを作る際にはご家庭の食卓に上がる様子を具体的にイメージしてもらう」とも言います。その上で、“売れる”農家さんに共通する特徴について、こんな風に話していました。

「契約農家さんの中には、例えばファーマーズマーケットでお客様と触れ合う努力を続けている方もいます。いいものを作る農家さんは、売り場でお客様がどんなものを欲しがるのか、どんな風に調理されて食事をされるのか、生活者に近い視点を持っているのではないでしょうか」

※「NOTO高農園」「かほくイタリア野菜研究会」の写真は提供写真です。

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