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生産者の試み

市場に出回らない珍しい野菜で勝負【ファーマーズファイル:吉野悟】

市場に出回らない珍しい野菜で勝負【ファーマーズファイル:吉野悟】

2017年10月30日

ビーツ、コールラビ、カーボネロなど、レストランで使われる珍しい野菜やハーブを中心に、千葉県柏市で野菜作りをしている吉野悟(よしのさとる)さん。こうした野菜は市場でもまだ珍しく、農園には地元や都内のレストランから多くのシェフが足を運びます。亡くなった父の後を継ぎ、先代の経営方針から大きく舵を切り、独自のスタイルで取り組む吉野さんの農業について、お話をうかがいました。

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やりたくなかった農業をどうやって楽しむか

トマト農家の息子として生まれ育ち、子どもの頃はよく仕事を手伝わされたという吉野さん。

農家の仕事はきついし、泥で汚れるし、格好悪いというイメージから、将来は全く違う仕事がしたいと美術系大学へ進学したといいます。4年前の2013年、父が亡くなったことをきっかけに、37歳で実家の農家を継ぐまでは、東京の映像制作会社でディレクターの仕事をしていました。

実家を継ぐにあたって吉野さんがまず考えたのは、やりたくなかった農業をいかに楽しみ、ビジネスとして成功させるかということでした。

「僕の場合、農業の世界では中途採用みたいなものです。先輩農家と同じ事をやっていたのではとても追いつけないし、上にいくことは出来ない。それに、これまで培ってきた写真やデザイン、営業やブランディングなどのスキルを活かして、自分なりに農業の価値を高めてみたいという思いもありました」(吉野さん)。

まず考えたのは、既存の農家があまり作りたがらない珍しい野菜を、少量多品種で生産することでした。

吉野さんが、珍しい野菜を多品種生産する理由に、東南アジア、南米、中近東、アフリカなど各国料理店の増加と、外食産業の多様化が背景としてあげられます。フランス、イタリア、中国など馴染みのある料理店も、それぞれの国の地方料理に特化する傾向が見られ、郷土食の再現に欠かせない地方野菜や、ハーブの需要が高まりつつあります。

こうした傾向は外国料理に限ったものではなく、日本の料理でも同じ流れがあります。北海道から甲信越、関西、九州、沖縄にいたるまで、ほぼ全ての地方料理専門店が東京にあるといわれます。

自分が作った野菜を本当に必要としている人に届けたい

西洋野菜のコールラビ

イタリアのトスカーナ地方の煮込料理に欠かせないカーボロネロ、ヨーロッパでサラダや煮物に使われるコールラビ、ペルー料理のソースに使う唐辛子のアヒリモ、石川県金沢市の伝統野菜として知られる金時草など、西洋野菜から日本の伝統野菜まで吉野さんが手掛ける野菜の数は約300品目にのぼります。

とはいえ、最初から珍しい野菜ばかりを作っていたわけではなく、最初に栽培したのは家庭料理でもお馴染みのルッコラやコリアンダー(パクチー)でした。地元の道の駅に1袋150円の値を付けて出したところ、人気食材ということもあり、よく売れたといいます。

他にも珍しい野菜を作って並べましたが、こちらは思ったように売れませんでした。道の駅で販売しても、自分の作る野菜を必要とする人には届かないと気付き、吉野さんは、飲食店なら珍しい野菜をうまく使いこなし、価値を活かすことができるはずだと考えるようになります。

「道の駅で150円の野菜も、レストランで使ってもらえば1,000円や2,000円の料理に生まれ変わる。農家が直接レストランとつながれば、お互いに価値を高めあえると思いました」。

そこで、地元柏市内はもちろん、東京にも足をのばし、野菜を持って飲食店をまわりました。実際に営業してみると、農家から直接仕入れることを望む店は多く、今では柏市内と東京を含め、卸し先の飲食店が20数店舗まで増えました。

野菜をオーダーメイドする発想

吉野さんの野菜作りの方向性に大きな影響を与えたのが、都内で最初に取り引きを始めたペルー料理店「ベポカ」でした。伝統的なペルー料理を、高級感のあるコースに仕立てて提供しています。

吉野さんの農園を訪れたオーナーとシェフが、畑や野菜を見て話がまとまり、コリアンダーの納品からスタートしました。新鮮で質の高いペルー野菜は都内でも入手が難しく、ペルー料理に欠かせないハーブのワカタイや唐辛子のアヒリモ、ロコトなども、店の要望に応えて栽培を始めました。いわば、オーダーメイドの野菜作りです。

その後も取引先のニーズに応えるうちに、オーダーメイドで野菜を栽培することは、吉野さんのスタイルとして定着していきました。

栽培法がわからなければ外国に訪れて聞きに行く

飲食店と取り引きするようになって料理への興味を深めた吉野さん。食べ歩きや料理本から得た情報をもとに、流行の先読みをして野菜を作るようになりました。

「知らない野菜があるのが不安」「頼まれた時に『作ったことがない』と言いたくない」という思いから、食べ方すらわからない野菜を作ることもあるそうで、家族からは呆れられていると苦笑します。

イタリア野菜のタルディーヴォ

未知の野菜を見つけて、栽培法を研究する吉野さんの熱意は相当なもの。今注目しているタルティーヴォは3年かかってもうまく作れなかったイタリア野菜でしたが、Instagram(インスタグラム)で上手に栽培している人を見つけ、教えを請うため山形県まで足を運びました。

さらにその農家と意気投合し、2016年の秋には2人でイタリア・ヴェネト州の産地を訪ね、栽培農家から本場の作り方を教わってきたといいます。タルティーヴォ栽培の背景にある食文化や農業の知識も広げるなど、様々な収穫を得ました。

「イタリアではヴェネト州の他にトスカーナ州も見てまわりましたが、日本と比べると野菜が大きくてびっくりしました。畑作と酪農が隣り合わせで、有機肥料が手に入りやすい環境があることも興味深かったです。イタリアは南北に細長い国で、日本と気候が似ている部分もあり、僕らにとって作りやすい野菜が多くあることにも改めて気付きました」。

写真とデザインの感性を活かし野菜をブランディングする

吉野さんは、市場では手に入りにくい野菜やハーブと、料理人が出会う場として「吉野ハーブファーム」のホームページを作成しました。

「各国料理の専門店がこれだけ多くあるわけですから、食材となる野菜を探している人が必ずいるはずです。インターネットを介して、うちの野菜を必要とする人たちとつながることを望んでいます」。

趣のある古材の背景が、野菜やハーブを色鮮やかに引き立てているホームページは、映像制作の仕事で培ってきた技術を存分に発揮して、写真の撮影から吉野さん自身が制作を手掛けました。野菜という商品に、美しさという付加価値を載せて情報発信する手法は、吉野さんならではのブランディングといえそうです。

農家のせがれに伝えたい「農業の楽しさ」

吉野さんが父の農園を継いでから、2017年で4年目を迎えました。好きになれずにいた農業への思いは、どのように変化していったのでしょうか。

「一気に気持ちが切り替わったわけではありませんが、野菜を作り始めたことで、徐々にやりたいことや可能性が見えてきました。農業を介して料理の世界と深くつながれたことは、自分にとって新鮮な驚きでした。映像の仕事をしていた頃は、コンビニ飯がほとんど。フレンチなんて食べたこともなかった自分が、今は野菜やハーブの使い方を知るために料理を食べ歩いています。そんな自分の変化に驚いています」。

また、農家の後継者として農業に携わった経験をもとに、農家を継ぐことを迷っている人に向けて「ぜひ一度やってみてほしい」と言います。

「農業ってキツいし、汚れるし、格好悪いと思っているなら、農業は楽しいと伝えたいです。農業にはいろいろな仕事のスキルが活かせるし、やり方次第ではいくらでも可能性が拡がります。他の仕事をして視野を広げておくことも強みになるので、何歳になって始めても遅くありません。少しでも農業に可能性を感じたら、面白いからやってみて、と言いたいですね」。

珍しい野菜を作ることで、自分流のスタイルを見出した吉野さん。今後も吉野さんの挑戦が楽しみです。

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吉野ハーブファーム
https://www.yoshinoherb.com/
写真提供:吉野ハーブファーム

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