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ヒップホップから林業へUターンの37歳 “自伐型”で山を守る【林業を知ろう】

連載企画:林業を知ろう

ヒップホップから林業へUターンの37歳 “自伐型”で山を守る【林業を知ろう】

鳥取県・智頭町(ちづちょう)で林業を営む大谷訓大(おおたに・くにひろ)さん。アメリカへの留学などを経て地元へUターンし、実家の山を継ぎました。持ち山から自分で木を伐(き)り出す自営型の「自伐型(じばつがた)林業」で、持続可能な林業経営を実践。地域の山を守り継ぐ責任を果たします。新しい林業の形態として、近年、注目が高まっている「自伐型林業」。その詳細と、林業への思いを伺いました。

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ヒップホップで学んだ地元愛

林業

──鳥取県・智頭町は日本有数の林業地だそうですね。

僕が生まれ育った智頭町は、町の9割以上が山林で、歴史ある林業地として知られています。実家は山を所有していて、父はサラリーマンとして森林組合に勤めながら、土日に山を手入れしていました。曾祖父が山を買い、祖父がスギとヒノキを植林したそうです。僕は子供のころ山に入ることはありましたが、林業をやる気はありませんでしたね。

──継ぐ予定ではなかった林業をはじめた理由は。

中学生の時、僕はヒップホップにハマったんです。ラップも好きだし、アメリカンストリートで生まれたヒップホップという文化そのものに魅了されました。地元の高校を卒業してから大阪の建築専門学校へ行き、卒業後はフリーターでお金を貯めてアメリカへ語学留学に行きました。帰国して実家に戻ってくると、今まで意識していなかった山林の美しさに心を打たれたんです。

──地元の魅力を再発見したのですね。

ヒップホップの世界には「レぺゼン(represent)」というヒップホップ用語があります。地元への誇りや愛情を表現する言葉なんですが、留学を経て、僕は智頭の素晴らしさに気づきました。地元には気心の知れた友人もいるし、亡き祖父が残してくれた山林もある。ならば、自分は林業で生きていこうと決断しました。2010年のことです。

作業道作りからはじめた「自伐型林業」

林業

──どうやって林業を学んだのですか。お父さんから?

父の代では丸太の生産は行わず、「切り捨て間伐」で山の手入れだけをしていました。切り捨て間伐とは、間伐で切り倒した木材を搬出せず、山にそのまま置いておくことです。まだ搬出や出荷などの技術がなく、生産の基盤となる運搬用の道もありませんでした。

そのため僕は初心者として1から林業を学びに行く必要があったんです。最初に、県が主催する「鳥取式作業道」の講習を受けに行きました。

──「鳥取式作業道」とは何でしょう。

「作業道」は切り倒した木を運ぶための通路で、林業において最も重要な基盤であると言われています。

それぞれの林業地によって、利用法や通行する車両の大きさが異なり、一概に構造を定めることができません。地域ごとに「○○式」という手法があり、僕は「鳥取式」を導入しています。道幅2.5メートル以下の細い作業道をクモの巣状に作設する方法です。大きく切り盛りすると道が崩れやすくなり、山崩れを引き起こす可能性があるんです。

林業

──「作業道」は「林道」と違うのですか。

「林道」は不特定多数の人が利用する道で、一般車両の通行を想定した道です。対して、「作業道」は林業者が施業のために利用する細い道で、林業用車両や2トン程度の軽トラックの通行を想定しています。「作業道」は集材のために高密度な配置が必要で、低コスト、丈夫さなどが求められます。

──道幅が狭いと、大型機械は入れませんが。

大型機械が入れないからこそ、目先の利益にとらわれた過度な伐採を防げます。僕の場合は、持ち山の間伐材を少量ずつ出荷する小規模な経営なので、小さい機械でも十分やっていけるんです。僕のような林業経営は「自伐型林業」と呼ばれています。

林業

──「自伐型」とは何でしょう。

「自伐型林業」は、森林所有者や地域住民が自分で山に入って木を切り出す形態の林業です。「自伐型」という言葉自体がまだ新しく、言われはじめたのは5年ぐらい前からです。

── 一般的な林業とはどこが違うのですか。

林業界では、短期的に生産量を上げるための大規模な「委託型林業」が多くを占めています。自分で木を切り出すのではなく、大型機械を所有する森林組合や林業会社に施業を依頼するのが一般的です。

中には、大型機械で一定区間内のすべての木を伐採する「皆伐(かいばつ)」を行い、一斉に苗を植林するケースもあります。最近は鹿の食害が増え、植林する際に防護柵を設置しなければならず、コストが高くつくという問題点を抱えています。

──鹿は何を食べてしまうのですか。

スギやヒノキの苗木をよく食べます。苗木は鹿の背丈より低い位置にあり、一斉に植林した場所は非常に被害が大きいです。高い木に囲まれた場所なら、侵入する鹿の数は減ります。それでも、成長した木の皮を食べてしまうこともあります。僕もヒノキをやられましたよ。

小さく稼ぎ、山を守り継ぐ

原木市場の様子

──持ち山の管理だけで事業経営は成り立つのでしょうか。

売上げの内訳は、持ち山40ヘクタールの間伐材と作業道開設の請負が大きく、他に父が管理している水田1.5ヘクタールのお米の直売やキノコ栽培などもしています。持ち山には祖父が植林したスギとヒノキがあり、主に間伐材を市場に出荷しています。価格は常に変動しますが、ヒノキは高額で売れる場合があり、昨年は樹齢150年を超えたものに1本約400万円の高値がつきました。スギの間伐材は、平均すると1本4000~5000円といったところです。

最初は個人経営でやっていたのですが、2015年に会社法人の「株式会社 皐月屋(さつきや)」を立ち上げました。

──会社を設立した理由は。

1人でやっていると仕事にメリハリがないのが悩みで、スタッフを採用して法人化しました。現在、社員は2人です。持ち山だけでなく、森林組合の下請け業務などにも取り組んでいます。智頭も高齢化していて、今後、持ち山を施業できなくなる山主(やまぬし)が増えていくと思いますので、代わりに地元の山を守っていきたいですね。

──大谷さんにとって「林業」とは。

僕の林業の根底にあるのは智頭への愛情です。他の地域で林業をやるのは考えられません。今年、智頭の林業景観が国の重要文化的景観に選定され、自分達の仕事に価値を与えてくれたようで自信になりました。何百年という山の歴史をつなぐ者として、僕は林業に誇りを持っています。ヒップホップの話に戻りますが……「レペゼン智頭林業」です。

林業

 
皐月屋(さつきや)

画像提供:皐月屋

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