「智頭ノ森ノ学ビ舎」とは
──大谷さんは自営で林業をされているそうですが、なぜ「智頭ノ森ノ学ビ舎」を設立したのでしょうか。
僕は、持ち山の木を自分で伐(き)り出す「自伐型(じばつがた)林業」を営んでいます。森林組合や林業会社などに委託せず、自ら山を管理するのが「自伐型林業」です。自力で森林整備や林業経営を行う「自伐林家(じばつりんか)」は、幅広く知識や技術を学んでいく必要があるんです。
──「自伐型林業」を学ぶために、地域の若手林業家が集まったのですね。
「智頭ノ森ノ学ビ舎」は約20人のメンバーで構成されています。ここ鳥取県・智頭町(ちづちょう)は5年ほど前から東京や大阪からの移住者が増えていて、「智頭ノ森ノ学ビ舎」のメンバーも半分ぐらいは都市部からの移住者です。移住して林業の世界に飛び込む20~30代の若者は増えていますよ。そういった人が「自伐型林業」を学べる場を作りたいと思ったのがそもそものきっかけで、2015年に「智頭ノ森ノ学ビ舎」という団体を発足しました。
林業関係者だけでなく、積極的に林業に関わりたいという一般の人も所属しています。自分で薪(まき)を切りたい人とかですね。大工さんとか消防士とか、職業はいろいろです。
研修やワークショップで実技から座学まで
──「智頭ノ森ノ学ビ舎」の具体的な活動内容を教えてください。
活動のフィールドは、町から管理を委託されている58ヘクタールの町有林です。
毎年、秋から冬にかけて10日ほどの塾を開催し、自伐型林業研修を行っています。チェーンソーの取り扱い方、伐倒・造材・搬出、作業道の開設、経営相談などを学びます。自治体の協力のもとで開催していて、参加費は無料でテキスト代だけいただいています。
──他には何を行っていますか。
もっと気楽に参加できるワークショップもやっていますよ。夏には、皆で「ヒサカキ」を収穫しました。「ヒサカキ」は仏様に備える葉っぱです。よく花屋さんに売っていますが、山に自生してるんです。
──楽しそう! 山を知り尽くしている人ならではの活動ですね。
スギの皮をむくワークショップもやりました。「杉皮葺(すぎかわぶき)」といって、スギの樹皮で屋根をおおう施工法があるのですが、地域の年配の方を招いて樹皮のむき方を学びました。
──山での活動以外に、座学はあるのでしょうか。
安全講習を徹底して行っています。林業は労働災害が多く、しっかりした安全知識と意識を持つ必要があります。
ヘルメットを必ずかぶるというだけで、防げる事故もあります。他にも、目立つ服を着るとか、身の丈に合った施業で焦らないことも大切なんです。林業では、木材生産と同じくらい安全教育が重要だと思います。
自伐型林業の軸は「山づくり」
──ただ多くの木を売ればいいわけでなく、学ぶことがたくさんあるのですね。
僕は山全体をデザインするように林業をしたいんです。美しい山を作るために、全体のバランスを考えて作業道を作り、間伐は生命力のない木から切っていきます。それは災害に強い山を作ることでもあります。
山林は河川を通じて海までつながっています。上流である山林から流れる水が安定していると、下流にある田畑や海の生態系も守られるんです。
一緒に働く仲間には、知識や技術はもちろんですが、豊かな山を作りながら暮らしていく“心”の部分もしっかり伝えたいですね。地元の人も、移住してきた人も、山の暮らしの楽しみ方を共に学び合っていけたらと思います。
写真提供:智頭ノ森ノ学ビ舎