和の趣醸す古民家ホテル 官民のまちづくりプロジェクト
水郷の町として知られる佐原地区は、千葉県北東部の利根川沿いにあります。関東三大小江戸の一つとも言われ、かつて水運の拠点として栄えた小野川沿いの佐原の町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
その歴史的な財産を活かして町おこしを図ろうと、地域経済活性化支援機構、京葉銀行、佐原信金の3社がファンドを組成しNIPPONIA SAWARAを設立、香取市との連携でまちづくりプロジェクトを進めています。
プロジェクトの一環として今年3月にオープンしたのが、「佐原商家町ホテル NIPPONIA」。
フロント兼レストラン「GEISHO」には、香取街道と小野川が交わる街の中心に位置する県指定文化財の旧家・中村屋商店が使われ、明治時代に建てられた製綿業の商家など2棟がホテルに、さらに1棟がドミトリーを備えた「ホステルコエド・サワラ」として営業しています。
GEISHOの2階は、和の趣を醸し出すレストランがあり、関西フレンチ界で活躍してきた石井之悠シェフが監修した本格派のフランス料理が味わえます。ここでは地元の食材を主に取り入れ、地産地消にも取り組んでいます。
千葉県は農業産出額全国3位。中でも香取市はコメ、サツマイモ、マッシュルームなどで県内一の生産量を誇り、「コメ、フルーツ、野菜類と質の高い食材が豊富です」と、市生活経済部農政課の遠藤浩史さんは話します。
観光と農業結ぶプラットフォーム
一方これら豊かな食材は、地元では当たり前のこととして消費され、優れた食材としての発信が不足しているといいます。また、県外では「千葉県産」として販売されることも多く、「香取」という産地名を消費者に浸透させることも課題です。
佐原商家町ホテルの近くには、国の史跡に選定されている伊能忠敬旧宅や、經津主大神を祀る香取神宮など、様々な歴史的・文化的名所があります。また、フレンチレストラン「夢時庵」や、イタリアンの「リストランテ カーザ・アルべラータ」など、県外からも客を集める人気レストランや雰囲気のあるカフェなども充実しています。
これらの観光資源と香取の豊かな食材を組み合わせることで、香取市自体をブランド化しようというのが最終目標。「ちば香取のすぐれもの」プロジェクトとして取り組んでいます。
「各地で農産物がブランド化されているいま、例えばサツマイモ単体でブランド化することは難しい。けれど、香取市の歴史や文化、景観といった資源と農業を結びつけることでブランド価値が生まれるのではないかと考えています」と、遠藤さんは説明します。
観光と農業を結びつけるためのプラットフォームが、再生された古民家ホテルの役割の一つといえます。
「例えば、佐原地区の飲食店で香取の食材を使ってもらうことで、市内外の消費者にどのような食材が香取の特産なのかをアピールできる。また、香取の農作物を使った加工品を観光客へのお土産として提供することで、旅の思い出になるだけでなく、香取の食材を外に紹介する機会にもなります」。
水郷の町から広がる「地域のブランド化」
イチジクやマッシュルームといった特産品を市内の飲食店で一斉に提供する「食材フェア」や、消費者が審査員を務める加工食品のコンテストなど、農業と観光を結ぶための下地作りはすでに始まっています。
さらに来年からは農泊に力をいれ、生産者と消費者をつなぐ取り組みも始める予定です。
天保13年から続く造り酒屋、株式会社馬場本店酒造は商家町ホテルからほど近い場所にあり、主力商品のひとつ「最上白味醂」は、その濃厚なうまみで全国に愛用者がいます。GEISHO二階のレストランでも白味醂を使ったレモンソースをデザートで使用しており、レストランで食事をした客がその美味しさに感動し買い求めにくることもあるといいます。
「今までも観光客が訪れていたけれど、料理として味わってもらう場所が近くにできたのは大きい」と、馬場善広社長は話します。
水郷の町ではぐくまれる豊かな食材。豊富な観光資源を通して生産者と消費者をつなぐ「地域のブランド化」は、その輪郭を描きつつあります。