作業着のデザイン、きっかけはダジャレから
――農園芸作業着のデザインを始めたきっかけは?
仲間内でのダジャレのような遊びがきっかけです。2006年くらいからアウトドアファッションに目覚めて、それをミックスしたコーディネートを得意としていました。その中で自然や植物にも興味を持って、2009年に友人たちと「バリカンズ」というチームを作ってゲリラ的に表参道などの街角に植物を植える活動をしたんです。そのチームウエアとして作業着をデザインしたのがきっかけで、「頭を刈りあげる」と「稲を刈る」をかけて、収穫という意味を込めて「HARVESTA!」と名付けました。
――その後、どうして本格的に土にまつわる作業着のデザインに?
アウトドアファッションでは、登山用、カヤック用、ハイキング向けと用途に応じてウエアがあるのに、私がデザインを始めた当時、作業着は細分化されたジャンルがありませんでした。「農業用のウエア」として専用のものがあってもいいのではとデザインしたのが始まりです。
アウトドアファッションの面白いところは、おしゃれを追求しつつも、デザインや素材にそれぞれ意味があるところ。ポケットひとつにも理由がありますし、標高の高い場所では汗をかいても体温が奪われにくい速乾性のある素材を使うなど、身体への負担を少なくするよう考えられている。一方、作業着は庭仕事も林業や土木工事現場でも、同じように「作業着」。作業する場所や種類で機能ごとに様々なウエアをデザインするということに可能性を感じました。
また、おしゃれなだけでなく本気で使える農作業着をつくるという、ファッションと機能性を両立させることも奥深く面白いです。
パンクファッションと庭師スタイルの融合
――「HARVESTA!」では具体的にどんな工夫を?
例えば、一番人気のあるボンデッジニッカパンツのデニム素材のものは、パンクファッションを庭師スタイルに落とし込みました。パンクスタイルにボンデッジパンツというジップを飾ったパンツがあるのですが、そのジップを機能として考え、長靴を履いてももたつかないよう、ふくらはぎにぴったりするデザインになっています。さらに、屈伸運動の際にふくらはぎ部分が窮屈にならないように、ふくらはぎ周りは横方向に伸縮し、膝から上は逆に上下に伸縮するように生地を配置しています。
今ではデニムにジャケットのスタイルで仕事をするサラリーマンもいるし、デニムはちょっとしたおしゃれ着としても活用できます。作業の合間にちょっとコンビニに寄ったり昼食にもそのまま行けるので、「着心地と使い勝手がいい」と好評でした。
一方で、発売当初は縫製の強度が足りなかったりクレームをいただくこともありました。農業や園芸のプロではないので、現場での情報収集が欠かせません。
ある自治体の広報映像を撮影する際に、出演する農家の方々の洋服をスタイリングするというお仕事をいただいたことがあります。「普段の作業着は野球部時代のジャージ」という方も、少しカラフルな作業着を「いいですね!」と気に入ってくれたり、逆に「こんな派手なのは恥ずかしい」という方もいたり。夏場の農作業などでは、速乾性のある素材が好まれるのかと思いきや、人によっては「汗が蒸発する過程で体温が下がるし脱水症状になりにくい」とあえてコットン素材を選ぶという方も。とても勉強になりました。
今も、庭師の方のお手伝いをさせてもらうなど、現場ごとにどのようなウエアが求められているのかを日々研究しています。
農業をライフスタイルとしてとらえる時代に
――岡部さんのウエアは、パンツが一本1万5000円と、デザイン性が高い分、作業着としては高価な印象です。どんな方が購入されていますか?
ずっとおしゃれが好きだった人、また、UターンやIターンなどで農業を始めた方など、農業を自己表現の一つとしてより強く意識している人が多いように感じます。
実は、農作業着のデザインを始めた時、「作業着で農業がかっこよくなったら、もっと農業をする人が増えるかも」という思いもあったんです。でもそれは実はあまり関係なかった。ファッションとしての「かっこいい農業」というのではなくて、むしろ時代は、もっと深いところで、農業をライフスタイルとしてとらえる方向に向いているようです。形だけのファッションを大量消費するのではなくて、お気に入りの器を使ったり、自分が納得する食べ物を選んだりするのと同じように、少し高くても自分が心地よく、自己表現ができるウエアを選ぶ、という方が増えているように感じます。
僕は岩手県の出身で、ながく農業=「田舎臭い、ダサい」というイメージがありました。東京に出てきたときに自分が田舎者だというコンプレックスがあって、それを払拭したくてスタイリストを目指しました。でも社会人として経験を積み、大人になった今では、僕がスタイリストとして成功できたのも、幼いころに自然に触れた経験のおかげだったと思っています。森の中の植物の色彩感覚や、自然の中でいかに遊ぶかと工夫した経験は、スタイリストとしてのクリエイティビティを育ててくれました。
自然相手に作物を育て、収穫するという作業も、とてもクリエイティブな仕事。そういった方が自己表現の一つとして、おしゃれなウエアを選んでくれている。だからこそ、さらに生産者の方に寄り添いながら、今後は農業、林業、園芸と場面ごとにおしゃれでかつ使えるウエアへと、さらにデザインを広げ育てていきたいと考えています。
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