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野菜づくりだけじゃない!冬こそできる農作業とは? 苅部弥生さん

野菜づくりだけじゃない!冬こそできる農作業とは? 苅部弥生さん

農家さんの冬の過ごし方や、春に向けた取り組みを紹介する全4回の連載。神奈川県内の若手農家で設立された「神七(カナセブン)」のメンバーに、農家の冬の生活や栽培するうえでの工夫、販売のコツなどを聞いてきました。
最終回は、横浜市磯子区の農家・苅部弥生(かるべ・やよい)さん。冬期も土作りのほか、果樹の剪定(せんてい)やタケノコ掘りに忙しく、休みなく働いていると言います。新しい品種を積極的に入れたり、収益の上がる売り方を考えたりと、アクティブに挑戦を続ける苅部さんの取り組みについて聞きました。

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◆今回お話を聞いたのは…◆


苅部弥生さん 苅部弥生さん
音大を卒業後、経理や証券会社の営業、医療事務などの仕事を経て退職。千葉大学の園芸別科で農業を勉強後、2010年に就農。横浜市の女性農業後継者でつくる「農娘会(のうむすかい)」のメンバー。栽培から出荷までの作業をすべて一人で担っており、40アールの畑で約80品目を生産。その他に種苗会社の試験栽培なども行っている。趣味は料理や旅行。

 

少量多品種の栽培は冬でも忙しい!?

——就農の時期やきっかけについて教えてください。

ここ横浜あたりでは、かつては“大八車”に野菜を乗せて引き売りをするのが農家の商いだったんです。うちもそんな商いをずっとしていて、おじいちゃんの代には野菜は自家消費が中心になっていましたけど、畑は続けていました。

私もともと野菜が好きじゃなくて。外食のサラダとか本当に食べられないんですよ。でもおじいちゃんが作った野菜は食べられた。ゴーヤがまだあまり知られていない頃におじいちゃんがなぜか作ったんですが、すごくおいしかった。苦いんだけどエグくない。鮮度が良い野菜はおいしいんだと実感したんです。

「自分が食べておいしい野菜を作りたい」と苅部さんは言う

そんなおじいちゃんが十数年前に亡くなって、「私、おいしい野菜食べられなくなっちゃうじゃん」って思って。当時は医療法人で経理の仕事をしていて、農家になるとは夢にも思っていませんでした。自然が好きなわけでもないし、観葉植物すら枯らしてしまうくらいだったんです。でも、好きな食べ歩きをしているうちに、おいしい野菜をいくつか発見して、鮮度以外にもおいしく作るポイントがあるんだと気がついて、野菜作りに興味を持ち始めたんです。

それで、自分が食べておいしいものを作りたいと思ってOLを辞めて、2年学校に通ってから就農しました。9年ほど前ですね。

苅部弥生さん

——どのくらいの畑にどんな野菜を栽培していますか?

所有しているのと借りているのと合わせて4反(約40アール)ほどしかないので、うまく組み合わせて少量多品種を栽培しています。露地野菜中心で、カブ、ニンジン、豆類、トマト、ピーマン、キュウリ、ブロッコリー、カリフラワー。それに磯子周辺の土は粘土質なので、相性が良いイモ類など何でも作っていますね。

マルシェに出展すると、お客さんに直接野菜の説明ができるので割と珍しいものでも売れる。ロマネスコ、チコリ、ビーツなどの西洋野菜もまあまあ売れるようになってきた感じです。

近年人気が高まってきたロマネスコ。収穫はまだ少し先だ

空いた畑から順番に土づくり

——畑を休む時期はいつ頃からですか?

一年中出荷しているので、あまり休んでいないんですよね。例えば、夏からナスを作っていた畑を10月に片付けたんですけど、来年の1月くらいから今度はトウモロコシの春まきをやろうと思っています。サツマイモが掘り終わった畑にはすぐに正月用の小松菜の種をまいたんで、それが終わったら2月3月くらいまでちょっと休ませる感じ。

冬場は種をまいてもなかなか育たないし、その先のことを考えるといつまでに収穫を終わらせなきゃいけないって、やりくりが大変ですよね。それでたまに「やばい、ミスった!」って焦ることもある(笑)。

——土作りは空いた畑から順番にする感じですか?

そうですね。休ませる時期が少ししかないので、この時期に空いた畑からどんどんやります。土を深めに起こして寒ざらしって言って寒い空気にできるだけ触れさせて、今度はそれを平らにならす時に堆肥(たいひ)を入れて次の作物を植える準備をします。

竹林管理や果樹の剪定。畑仕事が空いた時こそ集中できる

間伐の作業は主に冬期に行うそう

──冬の間の作業として竹林の管理もあるそうですね。

自宅の裏に広大な竹林を持っているんです。竹って勝手に生えてくるものとはいえ、放っておけばいいものでもなくて手入れが大事です。傘をさして通れるくらいの間隔に間伐して光が入るようにするといいと言われています。

根元の方までお日様が当たると地温が上がって根っこの成長も良くなるし、出てきた芽が大きくなるのも早い。ギュウギュウに生えていると栄養が行き渡らないっていうのもあります。

ずっと手入れをしてきたので、うちのタケノコは早く取れる。12月の下旬には正月用にある程度出せるようにしています。タケノコの早出しは誰にも負けたくないって思って(笑)。市場に出回っていない時ほど高値をつけられますしね。

──12月の出荷は珍しいと思いますが、どのくらいの大きさになるんですか?

10〜15センチくらいでしょうか。むいて4つに割って煮物にしたり、焼きタケノコにしたり。冬は寒さから成長が遅くなるけど、その分ギュッと密度が高い感じで、味は濃くておいしいですよ。軟らかいし。特に私のタケノコを欲しいと言ってくださるお客さんもいて、冬の大事な収入源になっています。

畑の脇に杉田梅が立っている

──その他に、冬の大事な仕事として果樹の剪定作業などもあるんですね。

ブルーベリー、スモモ、栗のほか、磯子区の在来種でいまでは幻の梅とも言われる杉田梅が畑の脇に昔から生えています。

なかなか手が回らないのですが、枝がボサボサになると中に光が入らなくなって枝葉が枯れてしまったり、木が大きくなりすぎて収穫が大変になったりするんです。一人で畑も忙しいので、摘果作業をする代わりに枝で量を制限しているのもある。その方が、一個一個の実が大きく味もいいものになりますよね。野菜もそうだけど、最初はなかなか思い切った剪定ができないんですけどね。

市場に出回らない時こそ出荷! 早まき、遅出しの計画も

──今後、力を入れていきたいと考えていることは?

今年くらいから豆類や水ナスを増やしました。トマトは植え付け時期をあえてずらして遅出しにしています。この辺の直売所では、8月に入るとトマトの出荷がパッタリ途絶えるので、そこを狙って出すんです。暑いと作るのも難しいんですが、割れにくい品種が出たので去年から早速取り入れて、収穫も増えました。

逆にブロッコリーやカリフラワーは早まき早出しします。秋は10月が露地野菜の少ない時期なので、早く出せば値段も良いし売れる。これも作るのがなかなか難しいんですが、みんなと同じことをやっていてもしょうがないのでね。

あと、来年からトウモロコシを増やそうと思っています。ヤングコーンが売れるようになってきてトウモロコシは収益性が上がったと思う。今年試しに入れた品種があるんですが、糖度21度のすごく甘いものができたんですよ。

苅部さんの畑で収穫されて出荷を待つカブなどの野菜

──新しい品種を取り入れたり、売り方を考えたり、常にチャレンジされている印象です。

この間フランスを旅行した時に西洋野菜の種屋さんに行ったんですが、いろいろ見るとやっぱりテンション上がりますよね。フランス語も分からないのに「このインゲンはつる“あり”なのか“なし”なのか」って必死にジェスチャーで店員さんに聞いたりして(笑)。

冬の間はカタログを見て、次は何をやろうかなって考えるのも楽しい。種を買ったは良いものの植える場所がなくて眠ったままのものもあります。時間があったらやりたいことは山積みなので、全然休んでいる暇がないんですよ。

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