殺菌剤の基礎知識
農作物は、さまざまなカビや細菌などによって病気にかかってしまいます。このような農作物を加害する病気を防除するのが「殺菌剤」です。ここでは、殺菌剤とは何かについて見ていきましょう。
殺菌剤の種類
植物を病原菌から守り、健全な成長のために欠かせない殺菌剤。主に、病原菌の感染や作物への侵入を阻止する作用がある「予防剤」と、病原菌の進行を抑えて圃場への蔓延を防止する「治療」の2つに大別されます。
予防剤の役割
予防剤は、植物の表面を薬剤で保護し、病原菌を殺菌・静菌するもの。病原菌が植物内に侵入して病気に感染することを防ぐ効果があるため、病害が発生する前に散布することで高い防除効果を発揮します。
治療剤の役割
対して、治療剤は植物内に薬剤が浸透するものです。植物内に侵入してしまった病原菌を退治し、病気の拡大を防ぎます。ただし、治療剤といっても、人体のけがや病気のように回復するわけではなく、すでに病気で変色してしまった部分が元通りになるわけではありません。
殺菌剤の上手な使い方
作物を育てる上で避けては通れない病害の存在。特に湿度が高く病原菌が繁殖しやすい環境では、定期的な予防的散布が不可欠です。万が一、病害が発生した場合は、状況に応じた殺菌剤の使用が鍵を握ります。ここでは効果的な殺菌剤の使用方法について紹介していきます。
病害の種類と症状を理解する
作物を襲う病気を大別すると、主に「糸状菌性病害」と「細菌性病害」の2つに分けられます。糸状菌性病害とは糸状菌(カビ)が原因で引き起こされる病害で、うどんこ病や灰色かび病などが代表例。
一方の細菌性病害とは、細菌によって引き起こされる病害で代表的なもので軟腐病や青枯病、イネ白葉枯病などがあげられます。これらは湿った環境を好み、傷口などから侵入しやすい特徴があるため、適切なタイミングで殺菌剤を散布することが、効果的な予防につながるといえます。
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病害が発生する前に予防剤を散布する
基本的に農作物は病害に罹患すると、症状が治癒することはないため、事前の予防的散布が大切です。特に気温や湿度の変化に注意し、病害が発生しやすい環境では早期に予防剤を散布することで、病害を未然に防ぐ働きかけが大切です。
病害の早期発見に努める
予防剤散布後も、病害を早期に発見するため、日常的な観察が大切です。葉や茎の色の変化のほか、病斑がないか、かびが発生していないかなどを確認するようにしましょう。
状況に応じて予防剤と治療剤を使い分ける
先述したように、病害を未然に防ぐ予防剤をあらかじめ散布し、万が一病害が発生した場合は、その症状に応じて治療剤を使用することが効果的な防除につながるといえます。防除暦などを参考に、予防剤と治療剤をうまく使い分けることが大切です。
成長段階に合わせて散布
植物の成長段階ごとに最適な散布タイミングを見極めることもポイントです。例えば、苗の段階では病害に対する抵抗力が弱いため、ここで予防剤を使うことで、病害を未然に防ぐことにつながるでしょう。
おすすめの殺菌剤3選
幅広い利用領域を持つ殺菌剤「ベンレート水和剤」

うどんこ病にかかった葉
ベンレート水和剤は、予防と治療の2つの効果を持っています。指定の希釈倍数通りに水に薄めて散布するタイプで、浸透性に優れ、農作物の汚れが少ないのもいいところ。また、経済的であるため多くの農家に使われています。
ベンレート水和剤は、水稲や野菜、果樹など幅広い作物に使用できます。うどんこ病や灰色かび病、菌核病などカビが病原体となる病気に効果があり、茎葉の病害や種子伝染性の病害、土壌病害などさまざまな病害から作物を守ってくれる殺菌剤です。
広範囲の病害に有効な「ダコニール1000」
いろいろな作物の病気を予防したいなら、70種類以上の作物、約180種類の病害に効果があるダコニール1000が適しています。灰色かび病やうどんこ病などは、発病すると大量の病原菌の胞子を形成し、一気に飛散して病原体をまき散らします。ダコニール1000はその胞子の発芽を阻止してくれるので、病原体の作物への感染を阻止してくれるというわけです。また、多くの作物の病害に有効なだけでなく、耐雨性にも優れています。
使用回数の制限がなく、高い効果を得られる「コサイド3000」
銅殺菌剤「コサイド3000」は一般的な銅殺菌剤と比べて銅イオンの放出効率が高く、優れた殺菌効果を得られます。散布すると銅成分が葉の表面に付着し、降雨などで葉が濡れることによって、銅イオンを放出して作物を感染から守ってくれます。
使用回数の制限がないほか、粒子が細かく水に溶けやすいという使い勝手の良さも特徴です。
「殺虫殺菌剤」なら殺虫もできる
農作物の敵は、病原体だけではありません。害虫によって農作物が荒らされてしまったという経験をしたことがある人もいるでしょう。殺虫殺菌剤なら、殺虫、殺菌の二役を担ってくれます。特に、小さな家庭菜園などはスプレータイプのものを使えば、簡単に殺虫・殺菌を行うことができるので、手間をかけずに農作物を守ることができます。ただし、それぞれの殺虫殺菌剤によって対象とする病害虫が定められているので、よく確認してから使用してください。
庭のお手入れに向く殺菌剤とは
一般家庭の庭木の殺菌には、ベニカXファインスプレーが使いやすくておすすめです。幅広い植物に使えて、殺虫殺菌剤なので害虫にも効果的。また、芝生や球根の消毒がしたいならオーソサイド80がいいでしょう。いずれも園芸店などで手に入りますので、ぜひ活用してみてください。
以上、殺菌剤について紹介してきましたが、その種類によって、使用できる農作物や対象とする病害、希釈倍数、使用液量、使用回数などが決まっています。これらの殺菌剤を含む農薬の使用については、農薬取締法という法律に則って使用する必要があります。特にプロの農家の方は、その内容もよく把握しておく必要があるでしょう。殺菌剤や殺虫殺菌剤を正しく使って、病気から植物を守ってあげましょう。
監修:農研機構 野菜花き研究部門 窪田昌春
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