野菜の配送には冷蔵物流が必要
野菜や肉、魚などの生鮮品は、一貫して低温で運ぶ必要があります。
では、なぜ低温を保つ必要があるのでしょうか。これは、安全に食べる“衛生”と、おいしく食べる“鮮度”の視点で考えられます。
食品は低温にすることで、衛生的な状態を保つことができます。食中毒の原因は主に細菌の毒によるものですが、低温状態では細菌などの微生物の増殖は抑制され、食中毒の発生確率が低くなります。具体的には、食中毒細菌の多くは中温細菌とよばれますが、10℃以下だと増殖しづらいことがわかっています。そのため、冷蔵と呼ばれる5℃以下の温度帯で、微生物の過度な増殖を抑えることができます。
一方、鮮度の劣化は、微生物以外のさまざまな要因で起こります。呼吸や蒸散による生理作用(主に野菜)、植物内の酵素による分解作用、蒸発や酸化による物理化学作用などです。
このような微生物の増殖や生理現象は、温度が低ければ低い程抑制できるため、冷蔵より低温度の冷凍(-15℃)という温度帯で保存される場合もあります。しかし、読者の方もイメージされるように冷凍だと味や栄養素を落としてしまうというデメリットが存在します。
冷凍のデメリットを補う急速冷凍
冷凍のデメリットの要因は、凍り始めにできる氷の結晶にあります。食品の細胞内で結晶が生まれると、細胞は傷つけられ、うまみ成分や栄養素は外に出てしまいます。冷凍魚を解凍したときに出るドリップと呼ばれる液体を想像するとわかりやすいのではないでしょうか。
この氷結晶を抑える冷凍技術として、近年世界的に技術開発が進み、注目を集めているのが急速冷凍技術です。氷の結晶は、最大氷結晶生成帯と呼ばれる-1~-5℃の温度帯で生成されやすい性質があります。急速冷凍では、急速に温度を下げることで、その温度帯にいる時間を短くする技術です。結果、結晶化が起こりづらく、品質劣化という冷凍のデメリットを減らすことが可能になります。
急速冷凍はまだ新しい技術なので、食材や用途に応じてどのような設備を活用すればよいかがわかっていません。そこに目をつけ、冷凍技術のコンサルティングを行う企業があります。たとえばその一つ、デイブレイク株式会社は自社の急速冷凍のノウハウをベースにコンサルを行うほか、急速冷凍機の比較サイト「春夏秋凍」を運営しています。
凍らせずに運べる鉄道貨物コンテナ「氷感SO庫(ひょうかんそうこ)」
物流改革の一つにモーダルシフトという考えがあります。トラック輸送から鉄道や海運というより環境に優しく、大量輸送が可能な輸送方法に変えるという考え方です。生鮮品でモーダルシフトを進めようとすると、鉄道や海運でのコールドチェーンの確立が必要になります。
JR貨物グループと一般社団法人日本事業者団体連合会などが共同開発する「氷感SO庫」は、鉄道輸送に使える興味深い冷蔵技術を活用した貨物コンテナです。
今まで鉄道輸送は、長距離・長期間輸送だったことから冷凍コンテナが主流でした。しかし、前述のように冷凍には、細胞を破壊して品質劣化をもたらすというデメリットがあります。それを「氷感」という技術で解決したのが「氷感SO庫」です。
氷感SO庫では、冷蔵した12フィートコンテナ内部に高電圧・低電流で“静電場”を形成します。その環境では、食材が凍結点でも凍りづらく、鮮度を長期間維持することが可能となります。
ホームページの実証結果をみると、イチゴは10~20日、リンゴは約1年間、鮮度を保ったまま保存ができるとのこと。また、冷凍輸送ができない花きも、つぼみの状態を維持したまま輸送することが可能なのだそうです。
生鮮品を冷やして運ぶということは消費者視点だと当たり前のようですが、生産地から消費地まで一貫して低温を保つというのは難しいことです。物流の変革期にある今、コールドチェーンも大きく変わっていくのかもしれません。
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