【プロフィール】
『HATAKE CAFE』専務取締役 総料理長 神保 佳永(じんぼ・よしなが) 漁師の祖父、イタリア料理のシェフを父に持ち、幼少期から料理人になることを切望される。辻調理師専門学校卒業後、レストラン経験や渡仏を経て、浦安「ホテルエミオン東京ベイ」洋食総料理長、「restaurant I」総料理長を歴任し、2010年「HATAKE AOYAMA」を設立。伊勢丹新宿店、日本橋高島屋S.C.店にも店舗を構える。 |
高級食材を求めていた時代
——突然ですが、神保さんは野菜嫌いなんだとか!
よく驚かれるのですが……そうなんです(笑)。父が料理屋を営んでいたため、幼少期は食事の用意を自分ですることが多く、野菜を摂る習慣がなかった。そんな環境もあって、昔から野菜は苦手でしたし、料理人になってからも野菜を食材として重要視するまでには時間がかかりましたね。
トマトは赤ければいいニンジンはその形をしていればいいと思っていましたから。
――最初はどんな食材を求めていたのですか?
フランスから帰国した後に都内のレストランに勤めていたのですが、そこは食の第一線で、高級食材をふんだんに使っていました。
野菜は添え物で主役にはならない。高級食材にどれだけこだわるかが全てだと思っていました。コース料理が2万~3万円程しましたね。
――その考えが変わったきっかけは?
浦安のホテルに移った時です。高級食材重視の考え方が全く通用しなかったことで、考え方を変える必要がありました。
そのホテルは、コース料理の平均価格が5千円程で、原価を考えると高級食材が使えなかったのですが、野菜は今まで通りで料理しました。
すると、美味しくなかったんですよ。メイン食材を活かすためには、野菜をもっと勉強しないといけない―。そう思って地域の物産会に行ったのですが、そこで食べたトマトが、味があって旨味があって、野菜嫌いの僕がとても美味しいと思えたんです。
それで、後日畑を見せていただくことになりました。
畑に行ったらすぐにトマトを見せてもらえると思ったのですが、「まず土を見てくれ」と言われて。
堆肥の使い方や土の状態を説明してもらい、栽培過程も細かく話して下さいました。
そうすると、トマトがもっと美味しく感じられたんです。
産地を見て食材を選ぶことの大切さを、美味しい野菜がたくさんあることを実感して、「もっと美味しいものを」と求めているうちに、僕の料理も研ぎ澄まされていき、野菜をメインにした「HATAKE」が出来ました。
食材に必要なのは、「旬」と「ストーリー」
――ご自身で立ち上げられた「HATAKE」の主役は野菜ですね。旬の野菜や伝統野菜の発信がテーマとなっていますが、食材選びで重視している点はどこですか?
一番は「旬」を外していないこと。
もう一つは、生産者がこだわりと自信を持って作っているかどうかです。
僕は食材を選ぶ時は産地に行き、土の状態を見て、その土地に合うものを作っているかを見、堆肥の入れ方や栽培方法、販売先も聞いたうえで決めるようにしています。
何が良い悪いではなく、生産者が自信をもって説明できる野菜づくりをしているかどうか。そこが大切だと思っています。
――ズバリ、今求めている野菜は何ですか?
“ストーリー”がある野菜です。
ストーリーはお客さんへ一番売りにしたいポイントです。
形、見てくれは問いません。食材を美味しくするのは我々料理人の技術ですが、ストーリーは生産者さんしか持っていないもの。そこを大切にしています。
農家はもっとブランド化する
――ブランディングも変わっていきそうですね。
これからは、農家自身がブランドになっていくと思います。
売り方が上手な農家さんもいれば、「そんなの面倒くさいよ」という方もいる。
前に出たくない農家さんを無理やり引っ張り出すのは違うと思いますが、良いものを作っている農家さんには長く続いて欲しいと思っているので、ゆっくりやり取りしながら、徐々に売り方も考えてもらうようにしています。
僕も農家さんと契約する時は、長く付き合う覚悟を持っていますから。
――最後に、農家さんにリクエストしたいことはありますか?
大きさにもこだわりを持って作って欲しいと思います。
大きければ良いだろう、という考えをお持ちの農家さんが意外と多いのですが、大き過ぎて野菜も大味になってしまい、勿体ないと思うことがあります。
野菜ごとに一番美味しい大きさがあるので、そこも知ってもらえると嬉しいですね。
* * * *
神保さんは故郷茨城県知事より「いばらき大使」「いばらき食のアンバサダー」を任命され、茨城県の農作物の普及にも取り組まれています。
試験的に、常陸太田市の朝採れ野菜を高速バスに乗せて新宿バスタまで運び、その日のランチメニューで提供する試みを行っています。
※新宿伊勢店にて毎週火曜・金曜ランチ限定
こちらの様子は後日追加でお知らせいたします。
【取材協力】
『HATAKE』
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