ビール酵母が農業に役立つ? 研究開発の経緯
アサヒグループがビール酵母の働きに着目
ビールがどうやって作られるか知っていますか。まず大麦を発芽・乾燥させて作った麦芽を細かく砕き、コメなどの副原料と水とで煮て麦汁を作ります。この麦汁にホップを加え、ビール酵母を加えて発酵させることで麦汁の糖分が炭酸ガスとアルコールに分解されます。これを熟成させ、最後にビール酵母をろ過して取り除くことでできあがります。
ビールになってしまえば取り除かれるビール酵母には、ビタミンやミネラル、アミノ酸など健康に良い成分が多く含まれています。アサヒグループでは、以前からこのビール酵母を何かに活用できないかと考え、胃腸・栄養補給剤『エビオス錠』や調味料の原料である『酵母エキス』、家畜の飼料などさまざまな商品を研究開発してきました。
総合農業資材メーカーのもとで商品化された『セルエナジー』
「ビール酵母は植物や農産物に対して良い効果がないだろうか?」
アサヒグループでは、ビール酵母の細胞壁が持つ植物を元気にする力があることに着目して、2004年より食品由来の安全・安心な資材の開発を進めてきました。米や麦、大豆などに使うと根の成長が促進され、通常より約2割も多く収穫できることが確認できたそうです。しかもビール酵母を稲作に使うと、米の収穫量あたりのCO2排出量を約29%も削減できることも明らかになりました。こうした結果を受け、この研究は2016年の第25回地球環境大賞で「農林水産大臣賞」を受賞しました。
さらに研究開発を進めたアサヒグループは、創業約70年の総合農業資材メーカー・清和肥料工業株式会社のもとで商品化に着手。使いやすく画期的な液体肥料『セルエナジー』が発売されることになりました。
イチゴ農家で『セルエナジー』を使ってみた
イチゴの生産量1位の栃木県で困っていたこと
イチゴの生産量で全国1位を誇る栃木県(※1)。ほとんどが人気品種の『とちおとめ』ですが、この品種は萎黄病(いおうびょう)にかかりやすく、困っている農家も多いと県内の農業関係者は話します。
※1 平成29年産野菜生産出荷統計による。
「萎黄病が止まった?!」
石橋農園も『とちおとめ』を栽培するイチゴ農家です。3年ほど前に萎黄病が蔓延し、付き合いのある肥料販売店に相談したところ『セルエナジー』を勧められ、2018年の秋から使ってみることにしました。すると『セルエナジー』を使った場所の欠株率が使っていない場所に比べて1/4に! まだ使用して日が浅いため萎黄病が防止できるとは判断できないようですが「今のところあまり広がっていません」と石橋幸洋(いしばし・ゆきひろ)さんはひと安心です。
「液肥なのでただ流すだけ。使い方も簡単ですよね」と話す石橋さん。他にも『セルエナジー』を使用した近隣のイチゴ農家では「花が多くなった」とその効果を感じる方もいるようです。
研究開発のキーマンに聞いた『セルエナジー』の効能
こうした効能にはどういった理由があるのでしょうか。2004年の当初から研究開発にかかわるアサヒバイオサイクル株式会社の北川隆徳(きたがわ・たかのり)さんに話を聞きました。
植物に刺激を与え、生理活性を高める
「大学時代に植物細胞を学んでいたこともあり、酵母細胞壁の中にある成分が植物にある種の刺激を与え、植物の生理活性を高めることは知っていました」と北川さんは話します。では、どのようにして生理活性が高まるのでしょうか。
「ビール酵母の細胞壁に含まれる成分が、カビの成分と似ているため、植物はカビに侵入されたと『勘違い』して自らの生理活性を高めるのです。それに伴い発根が促され、成長促進につながります」
還元力が土壌を改良する
さらに『セルエナジー』には土壌改良効果もあるそうです。これはどのようなメカニズムなのでしょうか。
もともとビール酵母細胞壁はそのままでは水に溶けにくいため、水に溶け植物が吸収しやすくするように独自技術で分解しています。そして研究を進めるうちに、この資材が鉄と強く反応することがわかってきたそうです。ビール酵母の細胞壁を高温高圧で適度な大きさに分解することで還元力が付与されたためです。
「還元力により、三価鉄イオンを二価鉄イオンへと変化させることができます。土壌中に含まれる錆びた三価鉄イオンは植物には吸収できませんが、二価鉄イオンなら吸収できます。また、土壌中に二価鉄イオンが豊富にあれば、そのまわりにいるカビなどの悪い菌を抑制する効果があります。一方で、有用菌は二価鉄イオンが多くても影響を受けません。つまりこれらの有用菌が優勢になることで土壌改良へとつながるのです」
さらに広がる『セルエナジー』の用途
ビール酵母から成長促進や土壌改良につながった『セルエナジー』。
「作物に病気があれば農家さんにとってストレスになりますし、見ていてもつらいものがあります。そこが解消できて農家さんのストレスがなくなれば、当然収益にもつながりコストダウンにもなるでしょう。私たちも情熱を持って課題解決に取り組んでいます」と北川さんは熱いまなざしで語りました。
取材協力
■石橋農園・石橋氏
■販売店/株式会社日向野商店
栃木県真岡市久下田942
TEL0285-74-0533
■販売店/大武肥料店
栃木県さくら市喜連川4350-1
TEL028-686-2118
■販売元・お問い合わせ先/清和肥料工業株式会社 海外事業本部
大阪本社/大阪市中央区備後町4-3-4 大阪タイガービル6F TEL06-6203-6811
東京支部/東京都千代田区岩本町1-3-1 ニュー中野ビル8F TEL03-5835-1182
担当/大野
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■開発元/アサヒバイオサイクル株式会社
東京都墨田区吾妻橋1-23-1
TEL03-5608-5193
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