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オランダ農業は日本と何が違うの? 〜経営編~

連載企画:オランダ農業の現場から

オランダ農業は日本と何が違うの? 〜経営編~

大規模かつICT化された施設栽培で、農業先進国と言われることが多いオランダ農業。
私は「トビタテ!留学JAPAN」(官民協働海外留学支援制度)7期生として、オランダのナスの農家で6カ月、パプリカの農家で3カ月研修をしていました。
前回の記事では、オランダの農業における人材について説明しました。
今回は経営編ということで、農場主の話や統計データを使いながら、経営について紹介していこうと思います。

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経営にかかる大まかな費用


この機械によって天然ガスから発電を行う。その際に発生する二酸化炭素や熱をハウスの環境制御に利用

私は8.4ヘクタールの面積をもつナスの農場で研修をしていました。
研修先の農場主によると、1つのナスを作るのにかかる費用は約0.3ユーロ(約38円)だそうです。そのうち約0.1ユーロ(約13円)が人件費、約0.1ユーロがエネルギー費。残り0.1ユーロが肥料や苗などその他の費用になります。なお、市場に並ぶ時には1本1ユーロ(約125円)ほどで売られます。
では、それらの数字から、経営を行うにあたり、実際にどれくらいのお金が動いているかということを大まかに考えていこうと思います。

大前提として、施設栽培で高い生産性を誇るためには、環境制御をし、植物にとって最適な環境を整えなければなりません。そのため、熱と二酸化炭素が必要になるのですが、多くのオランダの施設栽培では、天然ガスを仕入れて発電を自ら行い、そこで発生する熱と二酸化炭素を施設内の環境整備に利用し、電気を売るという方法をとっています。

私の研修先もこの方法によって熱と二酸化炭素を供給しており、8.4ヘクタールのハウスに必要なガスの費用は年間約100万ユーロ(約1億2500万円)だと聞きました。年によって電気とガスの価格は変動するので、7年前はこれを上回る価格で電気が売れていたようですが、最近はその半分ぐらいの価格で売っているそうです。このようにして得られる電気による収入も、オランダの農家にとって貴重な収入源になっています。
エネルギーにかかる費用は、人件費を参考に想像することもできます。
以前、合計約25ヘクタールの3つの農場を経営している農家を訪問したことがありますが、その会社では、人件費が年間約500万ユーロ(約6億2500万円)という話をされていました。
先述したナス農場の例で、人件費とエネルギー費がほぼ同じであったことを考えれば、エネルギー費がどのくらいかかっているかがわかるでしょう。

これらの情報から、私の研修先のように大規模なオランダの施設栽培では、人件費・エネルギー費に毎年数億円のお金がかかっているということがわかります。

また、農場主の話によると、ハウスを建設する際の設備投資として、約1平方メートル当たり100ユーロ(約1万2600円)かかるようです。研修先のハウスですと、8.4ヘクタール(8万4000平方メートル)なので、840万ユーロ(10億円以上)と相当な金額になることがわかります。
これらの費用を考えていくと、農場というより、工場のほうがしっくりくるのは私だけでしょうか。

求められる細かい事業計画と経営スキル

新しくできたハウスの横に立ててあった看板。投資をしている銀行から建設会社、暖房設備の会社、苗の会社など、ハウスを立てる際に関わった企業が載っている

これまでの説明でオランダの施設栽培には非常に大きなお金が必要になってくるのがわかっていただけたと思います。日本の農業とは違い、政府からの補助金はなく、資金調達は銀行からの融資がメインになってきます。そのため、事業計画を作成し、銀行が指定する多くの項目をクリアしないといけません。さらに、4カ月に1回、銀行から経営が計画通りに進んでいるかの審査が行われます。
オランダの農業は基本的に保護政策というよりも自由に競争をさせて、経営をうまくやっている農家だけが生き残ることができ、成長できるという形になっています。
オランダの農家がいかに経営を重視しているかがわかります。

投資を促す土壌


電灯を利用した栽培の様子。冬にでも出荷できるようになる

オランダの農家は毎年、投資をして事業を成長させています。それは毎年何かに投資をすることで税金が緩和されるからです。

私が研修をしていたナスの会社は、5つの農場で1つのブランドを築いていますが、その5つのうち1つの農場で、2017年の冬から照明をつけて、冬でも収穫できる環境をスタートさせました。通常、ナスの収穫時期は2月下旬から11月中旬ですが、これにより年間通して安定的に生産することが可能になります。
この照明下で栽培を始めるために、3年間も試験をしていたようです。オランダ農業の投資の特徴としては、このようにしっかりと準備をし、確実に計算ができるところにしっかりと投資しているようです。

また、こんなこともありました。同じブランドで販売している5つの農場のうちの1つの会社が廃棄されたナスを建築用資材に加工する事業を行い、2014年にはバイオ系のスタートアップ賞を受賞するなど数々の賞を獲り注目されていたのですが、結局、その事業は市場に参入することなく2017年に潰れてしまいました。他の4つの農場は参加しなかったのですが、参入しなかった会社の農場主に話を聞くと「アイデアは素晴らしいし挑戦することは大切だけど、自分たちが何をやれるのかを見極めてやることが非常に大事なことだ」とのこと。
常に前にチャレンジしながらも、緻密に計画を立てて着実に事業を進めていく様子が見てとれました。
 
以上、オランダの経営編でした。
次回からは、チーズや花など施設栽培だけでなく、他の農業現場の例についても紹介していこうと思います。

 
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