土壌分析って何を調べるの?
土壌分析とは土の状態を調べて数値化することによって、その土でどの程度野菜が育つのか、どんな肥料がどのくらい必要になるのかなどの目安となるものです。その土がどんな状態か調べるための基準として、化学性・物理性・生物性という3要素があり、土壌分析では主に化学性について調べます。
1)化学性:栄養成分の量やバランス、pH、どの程度栄養素を蓄える力があるかなど
2)物理性:土壌の通気性や排水性・保水性など
3)生物性:土壌生物の量や種類、生態系のバランス・関係性など
土壌分析を行うことで、土の状態が全て判断できる訳ではありませんが、土づくりにおいて大きな判断材料になるため、多くの農家がこの土壌分析を利用して土壌の改善に役立てています。
土壌分析でここを調べよう!
1)pHを調べよう
pHはホームセンターなどで売っている酸度計で調べることもできるのですが、専門機関での土壌分析の方がより正確な値が出ます。pHによって栽培に適した野菜や土づくりの仕方が変わってきますので、把握しておきましょう。
2)栄養素の量とバランスを調べよう
土壌分析で主に野菜の5大栄養素と呼ばれる、チッソ、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムの5つの栄養素の数値が出ることが多いです。チッソはさらに硝酸態チッソとアンモニア態チッソに別れて分析されることもあります。硝酸態チッソは土に吸着せず、水の流れに沿って動いていきますが、アンモニア態は土に吸着されるため動きにくいという性質があります。
これらの量が少なすぎても多すぎてもよくありません。分析結果には目標とすべき基準値も載っている場合が多いので、それと比べて多いか少ないか把握していきましょう。基準値よりも少ない栄養素がある場合は、そこを優先的に補います。逆に多い養分を抜くのは簡単ではありませんが、雑草や野菜に吸わせていくことで、時間をかけてバランスを戻していくことが可能です。
参考記事
農業も化学だ! 野菜づくりの3大栄養素【畑は小さな大自然vol.24】
むやみに使うとアブない!石灰との上手な付き合い方【畑は小さな大自然vol.25】
3)養分の濃度を調べよう
土壌分析ではECという項目が出てきます。これはElectrical Conductivity、日本語で電気電導度のことで、塩基濃度の目安となります。塩基とは養分のことだと思ってください。つまりECの値が高いほど、土の養分の濃度が高いことになります。
この濃度が高すぎると根が水分を吸収できなくなるなど、塩基濃度障害を起こすことがあります。また、団粒構造も破壊されやすくなるため、保水性や排水性の低下に繋がることがあります。濃度が高すぎないか確かめましょう。
分析結果に書かれている基準値よりも高い場合は、トウモロコシやソルゴー、麦などのイネ科作物に吸わせることで、濃度を下げていきます。
4)保肥力を調べよう
土が栄養分を蓄えておける容量を測ります。これはCEC(Cation Exchange Capacity=陽イオン交換容量)の値を見ることで確かめることができます。土の粒子はマイナスの電荷を帯びているので、Ca2+、NH4++などの養分が陽イオンの形でくっついていきます。CECが高いほどたくさんの陽イオンが土にくっつけるというわけです。このCECは元々のそこの土壌の性質に大きく左右され、一般的に砂質の場所だとCECは小さくなり、粘土質の場所だとCECは大きくなります。
CECの低い畑ですと、水に溶けやすい養分は雨などですぐに流れ出やすくなります。そのためこのような場所では、追肥を多めにしたり、少しずつ分解されていく有機堆肥を用いることで対策をします。腐植質を増やすとこのCECも大きくなりますので、CECが小さい場合は腐植質の多い資材を用いましょう。家庭菜園では雑草・落ち葉堆肥や腐葉土がオススメです。
土壌分析の活用例
次に実際にうちの畑で行なった土壌分析の結果を用いて、その見方と対策の例をご紹介していきます。
分析を行った畑は、20年ほど父が有機農法をしていた場所で、そのあとに僕が5年ほど体験農園として利用しています。父は牛フンをベースとして自分でブレンドした有機堆肥を中心に土づくりを行っていて、かなり良い畑になっていたのですが、体験農園として利用して以降、次第に野菜の出来が悪くなってきました。休みなく畑を使用していたのと、ナス科野菜に栽培が集中していたせいかなと思っていましたが、まずは土壌分析によってその理由がわかればと思い行ってみました。
分析してみた結果がこちらです。
分析項目 | 分析値 | 単位 | 判定 | 基準値 |
---|---|---|---|---|
EC | 0.12 | ms/cm | 〇 | 5.5〜6.5 |
pH | 6.78 | ▲ | 5.5〜6.5 | |
硝酸態窒素 | 2.3 | mg/100g | 〇 | 3.0以下 |
アンモニア態窒素 | 4.5 | mg/100g | ||
リン酸 | 209 | mg/100g | ▲ | 5〜50 |
石灰(カルシウム) | 395 | mg/100g | ▲ | 188〜266 |
カリ(カリウム) | 53 | mg/100g | ▼ | 63〜89 |
苦土(マグネシウム) | 59 | mg/100g | 〇 | 54〜76 |
CEC | 17.9 | me/100g | 〇 | 15〜30 |
そーやんが使っている畑の分析結果(分析:鹿児島市都市農業センター)
結果の主な特徴としては
①pHが高い
②リン酸の値が高い
③石灰(カルシウム)の値が高い
④カリウムの値が低い
の4つです。特にリン酸と石灰の値がかなり高いことがわかりました。父も僕も石灰はほとんど使用していないため、なぜこんなに値が高いかわかりませんが、とにかくバランスを崩しているということがこの結果から分かりました。
このような数値を見ても見慣れない言葉も多く、農家ではない一般の方には分かりづらいかもしれません。ただネットで一般の方も利用できるような土壌分析のサービスは、パッと見て分かりやすいように、グラフや要約が載っているものが多いです。土づくりのアドバイスも合わせて書かれているところもありますので、農家でない方にもオススメです。
分析結果によってわかったことへの対策
帰ってきた分析結果に基づいて土づくりの改善を行なっていきます。僕の畑では以下のような対策を行なっています。
①pHが高いことへの対策
若干ではありますがpHが高めなことが分かりました。石灰の値もかなり高めに出ているため、これが影響しているのだと思われます。基本的には対策せずとも雨の影響などで酸性に傾いていくはずですので、石灰などのアルカリ性の資材の使用を控える点だけに注意します。
②リン酸の値が高いことへの対策
長年牛フン堆肥を使用してきた土地であるため、それに由来するリン酸が蓄積しているのだと思われます。過剰な栄養素は基本的に植物に吸わせることで対策します。時間をかけて雑草や野菜に吸収してもらうことと、牛フン堆肥ではなくリン酸の少ない雑草堆肥の使用に切り替えています。
③石灰(カルシウム)の値が高いことへの対策
かなり石灰が過剰なことが分かりました。石灰が多いと、他の栄養素の吸収を阻害してしまうため、とても厄介です。これも時間をかけて少しずつ植物に吸収させて行くことが基本的な対策となります。特に土のバランスをとる力の強いと言われるソルゴーなどのイネ科を中心に畑に植えていこうと思います。
④カリウムの値が低いことへの対策
カリウムを土に補給するために、カリウム成分を多く含む落ち葉や雑草を利用して改善しています。落ち葉や雑草を堆肥にしたものや、枯れ草を燃やした灰を定期的に土に混ぜ込んでいます。
家庭菜園こそ土壌分析がオススメ
土の栄養素のバランスが悪くなっている理由のほとんどは、元々の土が悪いというよりも、その後入れる肥料の量やバランスが間違っていることの方が圧倒的に多いと言えます。
正確に土の中の栄養のバランスを理解した上で、足りない栄養素を補う、多い栄養素は入れないというのが基本なのですが、これを見た目で判断するのはとても難しいことです。農家でもその判断を誤ってしまうことはよくあります。ですので土壌分析を定期的に行う農家は多いのですが、家庭菜園ではなかなか普及していません。しかし、本当は家庭菜園、特に初心者の方にこそ土壌分析が必要だと僕は感じています。
また市民農園のような貸し農園は、前年にそこでどのような土づくりが行われたか分かりにくいですので、特に土壌分析することをオススメしています。
今回取材にご協力いただいた鹿児島市都市農業センターの土壌分析担当者の方も「正しく土壌の状態を知ることで、必要のない肥料などを与えることが避けられるので、肥料代も節約になります。農家の方はもちろんのこと、家庭菜園の方にとっても土壌分析はメリットがあります」とおっしゃっていました。
誤った判断や思い込みによって、土づくりをした結果、余計に土の状態が悪くなる上にお金も無駄にするのはもったいないですよね。。インターネットで「土壌分析」「土壌診断」などと検索するといくつか検査を行っているところがありますので、ぜひチャレンジしてみてください。
取材協力:鹿児島市都市農業センター