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むやみに使うとアブない!石灰との上手な付き合い方【畑は小さな大自然vol.25】

むやみに使うとアブない!石灰との上手な付き合い方【畑は小さな大自然vol.25】

野菜づくりの教科書に必ず出てくる「石灰」。主成分であるカルシウムは野菜の生育に欠かせないものですし、アルカリ性なので酸性に傾きやすい畑の土壌を中和する役目としてもよく使われます。ですので肥料と石灰をセットで入れることが常識となっていますが、何も知識がないままむやみに使うと野菜に生育障害が出たり、土そのものの状態を悪化させてしまうことがあります。なぜか野菜がうまく育たないという時の原因が石灰の使いすぎだったということもよくあります。そこで、今回は正確な石灰の知識とその使い方についてご紹介します。

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人によって「石灰」の意味が違う時がある

まず石灰の話をする時に注意していただきたいのが、人によって「石灰」という言葉が指しているものが、微妙に違うことがあるという点です。一般的に畑で使う石灰というと消石灰、生石灰、有機石灰を指すことが多いのですが、主成分であるカルシウムのことを石灰と表現する場合もあります。また他のカルシウム化合物である硝酸カルシウム、硫酸カルシウムなどもまとめて石灰という場合もあります。お互いに石灰の指す言葉の意味が違うと、話がすれ違ってしまうことがあるので、注意しましょう。

例えば、よく「石灰を撒くとジャガイモが“そうか病(※1)”になる」と言われることがありますが、アルカリ性の土壌になるとそうか病が出やすくなるためで、この場合の石灰はアルカリ性の強い消石灰や生石灰のことを表しています。しかし、同じカルシウム化合物でも硝酸カルシウムや硫酸カルシウムはアルカリ性ではないため、これらを使用する場合は当てはまらないということもあるのです。今回は土づくりのために使う、カルシウムを主成分とする資材のことをまとめて「石灰」と呼ぶことにし、カルシウムとは言葉を使い分けて説明していきます。

※1 子嚢菌(しのうきん)や細菌などの感染によって起こる病気。ジャガイモや柑橘類、落花生などに発生することが多い。

石灰資材の種類

校庭の白線に使われていたものも石灰。消石灰が多かったが、子供の皮膚かぶれなどの危険性があったため、今は炭酸カルシウムや石膏が多い

石灰はカルシウムを主成分とするものが多いですが、様々な種類があり、それぞれ特徴や使用目的が異なります。初心者には取り扱いが難しいものもありますので、それぞれの特徴を理解した上で、使い分けましょう。
なお、一般的に草木灰と籾殻くん炭は石灰資材の中には含めませんが、使用目的と性質が似ており、家庭でも手に入りやすく使いやすい資材です。

◆カルシウムを主成分とする資材の特徴と違い

種類 液性 特徴・目的
消石灰 強アルカリ アルカリ性がとても強く、酸性土壌を速やかに中和する目的で使われる。窒素肥料との化学反応でアンモニアガスが発生したり、皮膚かぶれなどの危険もあるため取り扱い注意。
生石灰 強アルカリ 石灰資材の中で酸性中和力がもっとも高い。水と反応すると発火するほどの高熱を発するため取り扱い注意。
有機石灰 アルカリ性 カキやホタテなどの貝殻、卵の殻などを粉末にしたものなどがあり、主成分は炭酸カルシウムです。水に溶けにくい性質がありますが、穏やかに中和していくため、土が硬くなったりなどの失敗が少ない。
苦土石灰 アルカリ性 炭酸カルシウムの他に炭酸マグネシウムが含まれている点が特徴。カルシウムと同時にマグネシウムを補給したい時に用いる。
硝酸カルシウム 中性 通称ノルチッソ。水によく溶けるため少量でも効くが、その分雨などで流れやすい。中性なので土壌をアルカリ性にしたくない時などに使う。
草木灰 アルカリ性 カリウムが多いのが特徴だが、何を焼いたか、どう焼いたかによって成分が異なる。原料が木だとカルシウムが多くなるが、雑草などだとあまり含まれない点は注意。速効性があるため追肥のように土の上からまくことが多い。
籾殻くん炭 アルカリ性 カルシウムも含むがカリウムとケイ酸がより多い。フカフカで根が張りやすく微生物が住みやすい土にしたい時に、土の中に混ぜて使うことが多い。

なぜ石灰を補う必要があるのか

雨の多い日本では特にカルシウムは不足しやすく、酸性に傾きやすい

一般に言われる石灰を使う目的は主に「カルシウムの補給」と「酸性土壌の中和」の2つです。石灰を使う際はどちらの目的で使用するのかをはっきりさせてから使うようにしましょう。

①カルシウムの補給

野菜の生育にとってカルシウムはとても重要です。野菜づくりに重要な3大栄養素としてチッソ、リン、カリウムが挙げられますが、その次に必要量の多い栄養素の中にカルシウムがあります。カルシウムは細胞壁の原料となるため、新しい細胞が作られる成長点や根の先端で特に必要となります。またカルシウムを十分に吸収した野菜は、病気に強くなることが分かっています。

このカルシウムですが、水に溶けやすい性質のものが多いため、雨の多い日本の気候においてはもともと不足しがちな傾向にあります。特に窒素肥料を入れ野菜の急速な成長を促す農業現場においては、カルシウムの供給がこれに追いつかないと障害がすぐに出てしまうため、積極的に補給されています。

②酸性土壌の中和

雨が多いことは、土壌が酸性に傾きやすいことにもつながります。特に近年は雨自体が酸性化していること、化学肥料が酸性のものが多いことなどからより酸性化しやすくなっていて、それを中和するために石灰を撒くことが通例となっています。

土壌の酸性・アルカリ性が野菜にどんな影響があるかというと、土に溶け出す栄養素が変わってきます。つまり野菜が利用できる栄養素が変わってくるわけです。例えば土壌が酸性に傾くとカルシウム、マグネシウム、リンなどの欠乏が起こりやすく、逆に有害な活性アルミニウムが増えます。逆にアルカリ性に傾くと必須栄養素のマンガンや鉄の欠乏が出ます。そのため、最も栄養の吸収率が良くなる弱酸性(ph=6~6.5)ほどで調整することが多いです。実際には野菜ごとに好む栄養素の違いから、適正なpHの値は変わってきますので、以下の表を参考にしてください。

◆pHによる育ちやすい野菜の違い

pH 葉菜類 果菜類 根菜類
6.5〜7.0 エンドウ、ホウレンソウ
6.0〜6.5 シュンギク、ネギ、ハクサイ、レタス キュウリ、スイカ、ナス、トマト、ピーマン、ラッカセイ、スイートコーン、ソラマメ サトイモ
5.5〜6.5 キャベツ、コマツナ、チンゲンサイ キイチゴ カブ、ダイコン、ニンジン、タマネギ、ゴボウ
5.5〜6.0 ショウガ、ニンニク、ジャガイモ、サツマイモ

参考:土壌のpHと作物の生育(農水省公開資料)

石灰の使いすぎで起こりやすい失敗

石灰はカルシウムの補給、酸性土壌の中和としてとても効果的で多用されてきたのですが、使いすぎることによって、石灰が蓄積し土壌環境が悪化してしまう例も増えてきました。不足しているカルシウムを補うことや酸性土壌を中和することは簡単なのですが、その逆は難しくとても時間がかかるので注意が必要です。具体的な失敗例としては以下の3つが考えられます。

失敗例その1 カルシウムが過剰になる

カルシウムは野菜の生育にとても重要ですが、過剰になることで障害が出ることもあります。カルシウムが不足する場合は補えば良いのですが、逆に過剰なカルシウムを抜くことはかなり難しくなってきます。
カルシウムが過剰になると他のミネラルの吸収を邪魔してしまうので、他のミネラル欠乏症状が出てきやすくなります。今の時点で石灰を使用していなくても、以前その土地を使っていた人が石灰を多量に使用していたことで、カルシウムの過剰障害が出てくるというケースもよく見られます。

失敗例その2 土が硬くなる

特に消石灰などのアルカリ性の強い石灰資材を多く用いると、土壌の団粒構造が破壊されてしまい、土がしまって固くなっていきます。そうすると微生物が生きにくい土壌環境となり、根の生育も鈍るので、さらに固くなるという悪循環に陥ることがあります。

また土中に染み込んだ石灰分が硬盤層で蓄積し、非常に硬い地層を作ってしまうケースもあるようです。こうなると植物が深く根を張れない、土壌生物が増えない、地下水の吸い上げが行えないなど様々な障害があり、一度この層ができてしまうと簡単には取り除けないため、非常に厄介な状態になってしまいます。

アルカリ過剰になる

土壌がアルカリ性になるとリンや鉄やマンガンなどの栄養素が吸収できなくなり、野菜の生育に障害が出てきます。硫安などの酸性肥料やピートモスなど使って、即効で土壌を酸性化する方法もありますが、土へのダメージが大きく、結局アルカリ性に戻ってしまう場合もあるため、あまりオススメしません。

家庭菜園でオススメの石灰との付き合い方

ご紹介してきたように石灰はむやみに使用することで、様々な障害が起こる可能性があるものです。農家は毎回土壌分析を行うことで、石灰の量を調節しますが、家庭ではなかなかそこまで行うのは難しいと思います。そこで家庭でも失敗の少ない石灰の種類や使い方をご紹介します。

石灰が必要なのか確かめよう

尻腐れは代表的なカルシウム欠乏の症状

まずはそもそも石灰が必要なのかを確かめることが大切です。石灰が必要となるのは明らかにカルシウムの量が少ない場合か、土壌が酸性の場合です。土壌のカルシウムが足りない時の症状としては野菜に以下のような症状が出ます。

① トマト、ナス、ピーマンなどの尻腐れ
② キャベツ、白菜の芯腐れ
③ 葉先が枯れる
④ 里芋などの芽つぶれ

以上の4つのような症状が出てきた場合は、カルシウム不足を疑いましょう。カルシウムが不足しているときはうまく細胞分裂が行えないため、葉の先や成長点、果実の先など先端部分で障害が出てくるのが特徴です。

次に土壌が酸性になっているか知るためには、2つの方法があります。
まずは酸度計を使うことです。家庭用に市販されているものは、そこまで精密ではありませんが、おおよその目安にはなると思います。
もう一つは生えている雑草の種類を調べることです。酸性土壌によく生える雑草の割合が多いほど酸性に傾いている可能性が高くなります。

◆酸性土壌に生えやすい雑草の例
スギナ、オオバコ、メヒシバ、カヤツリグサなど

スギナは酸性土壌に生えやすい雑草

オススメの石灰の種類

草木灰に含まれるカルシウムやカリウムは水に溶けやすい状態のため、速効性がある

消石灰や苦土石灰はアルカリ性が強く、速やかに土壌を中和してくれるのですが、家庭で行うにはデメリットも多く、あまりオススメしていません。
そこでオススメしているのが「牡蠣殻」などで作られる「有機石灰」と呼ばれるものや、「草木灰」です。
草木灰は草や木を燃やしてできる灰ですので、自作できるような環境にある方は簡単に作ることができます。これらは土を中和するのにも多少時間がかかりますが、その分失敗も少なく、土が硬くなることもないのでオススメしています。カルシウムの補給を目的として撒く場合は枯れ草などよりも木を多めに入れて燃やします。またホームセンターなどで草木灰を買う際は、成分にカルシウムがどの程度入っているか確認して購入しましょう。

うちの畑では土壌分析によってカルシウム過剰の土壌であることがわかっていますので、たまに他のカリウムなどのミネラルを補う目的で草木灰を使用しています。半年に一回ほどの頻度で雑草堆肥を入れる際に、1平方メートルに対し3掴み程度を土に混ぜ込み、追肥として2ヶ月に1回ほど2掴み程度を土の上から撒いています。ただこれは土の状態や栽培する野菜にもよりますので、大まかな目安にしてください。市販の有機石灰を使う場合は、使用量も記載してあると思いますので、そちらを目安にしてください。

石灰が必要なくなる土づくりをしていこう

腐植質の多い土はカルシウムの保持力が高く、酸性にも傾きにくい。腐植は落ち葉や雑草などから土壌微生物の働きによって作られる

石灰の使い方について説明してきましたが、そもそも石灰を撒く必要性を作らないような土づくりもとても大切になります。土の中の腐植質を増やし、地力を上げていくことで、自然と土の中のカルシウムを保持する力やphを維持する力が高まります。そのような土づくりの仕方に関しては「耕さない畑づくりのメリット【畑は小さな大自然vol.21】」の記事の土づくりの仕方を参考にしてみてください。土づくりが進んでくれば草木灰だけでも十分に補えるようになってきます。
また本当にどの程度石灰が必要な畑なのかを正確に知るためには、やはり土壌分析を利用することがオススメです。野菜の状態である程度推測することもできますが、それはプロでもかなり難しいのです。とは言ってもなかなか馴染みがなくイメージがつきにくいものだと思います。今後、土壌分析に関する記事も予定していますので、ぜひそちらもご覧ください。
 
次の記事:畑の害虫図鑑〜アブラムシ編〜【畑は小さな大自然vol.26】

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