土壌改良とは?
土壌の酸性度は、酸性雨などの影響や、植物を育てること自体でも上昇します。つまり、作物を育てていくためには、その都度土壌のpH値を計り、適したpH値へと調整していかなければなりません。そこで活用されるのが「土壌改良材」です。
酸性に傾いた土壌をアルカリ性にするには、カキ殻や貝化石などが原料になっている有機石灰や草木灰などの土壌改良材を入れます。その逆に、アルカリ性に傾いた土壌を酸性にするには、硫安(硫酸アンモニウム)、塩安(塩化アンモニウム)、硫加(硫酸カリウム)といった肥料を入れたり、トウモロコシやソルゴーなどの「クリーニングクロップ」と呼ばれる作物を栽培することなどでアルカリ分を除去することができます。
土壌のpH値について
pHとは、酸としての強さの程度(酸性度)を示す値で、0~14(0:酸性~7:中性~14:アルカリ性)の数値で表します。
酸性が強い土壌の場合、野菜の根が傷んだり、根がリン酸を吸収しにくくなったりするなど、作物にとって良い状況とは言えません。だからと言ってアルカリ性が強くなると、鉄やマンガンなどのミネラル成分の吸収が妨げられてしまい、作物の育ちが悪くなり、病気にもなりやすくなってしまいます。酸とアルカリのどちらに傾き過ぎても良いことはなく、ちょうど良いバランスを保つことが大切です。
また作物によって適切なpHも異なります。たとえばホウレンソウやエンドウなどはpH値6.5~7.0が適切とされており、より中性的な土壌の方が育ちは良くなりますが、キャベツやイチゴなどは、酸性寄りのpH値5.5~6.5辺りが適しています。
目的に合わせた土壌で、かつ相性の良い作物同士で育てていく必要があるということです。
畑の土壌を改良する主な流れは?
1. 異物を取り除く
畑を作るときには、まずは畑の土に入っている異物を取り除かなければなりません。
土の中には、雑草の根や石などが入っていることがあります。畑の土壌を整える際、まず土を掘って異物を取り除きます。狭い範囲であればシャベルやふるい、広範囲であれば小型シャベルカーなどを使ってください。
2. 肥料を混ぜて栄養を与える
使っていなかった畑の土は、栄養不足の状態です。肥料を混ぜて栄養を与えることで、微生物が増えて土が丁度良い硬さになります。栄養が入った土は、保水性や通気性などが良くなり、良い作物が育ちます。
肥料には堆肥から有機肥料までさまざまありますが、土地にあった種類を選ぶことが重要です。農業用の土を購入すれば、肥料の配合を考える手間が減ります。
3. 土の酸性度を調整する
土の化学性を示すものに、アルカリ性、中性、酸性があります。野菜を育てるには、pH5.5 ~ pH7.0の弱酸性から中性の土壌が最適です。酸度計を使えば、土壌の酸度を測ることが可能。雨などが降ると、畑の土は酸性になりやすいため、アルカリ性の石灰質肥料をまきます。
4. 土を耕す
土壌のベースができたら、空気を土の中に送り込んで通気性を良くする「土を耕す」作業を行います。土を耕すと固まった土が柔らかくなり、種まきや苗の植え付けが容易になり、土壌の通気性と浸水性が良くなります。濡れている状態や土が干からびている状態を避け、雨が降った2日後などに行うとスムーズです。
水はけの良い土壌に改良するには?
土壌改良材を活用する
水はけが悪い土壌は酸素が不足し、根腐れの原因になります。雨が降った後に水たまりができがちな粘土質の土壌には、根腐れを防止するために土壌改良材を使うのが有効です。
一方、水はけが良すぎてすぐに乾燥してしまう土壌は、野菜が枯れてしまう原因になります。そんなときにも土壌改良材を使うことで水はけの改善が可能です。
暗渠排水を設置する
暗渠(あんきょ)排水は、土の中に水を通す空間を作り、余分な水分を排水する仕組みです。排水管は主に塩ビ有孔管製で、2~3ミリの穴を空けておき、穴に土が入り込まないようにメッシュフィルターや不織布を巻いておきます。目詰りや砂の流入を防ぐ特殊割繊維を使ったドレーンなど新しい素材も開発されており、水はけの改善に有効です。
緑肥を活用する
排水を良くするために、根が長く伸びる植物を植える方法が緑肥です。
植物は、まっすぐ深く張る特徴を持ったイネ科やマメ科を使います。
根が1メートルほどになることで、排水性が向上します。費用もかからず、土壌病害の抑制や土壌の構造が良くなるのがポイントです。
土壌改良材の種類と使い方は?
1. 苦土石灰(くどせっかい)
雨の多い日本では、土壌が酸性に傾きやすく、その改善によく使われるのがこの苦土石灰です。
メリット
土壌の酸性度を下げつつ、カルシウムとマグネシウムの栄養成分を補給することができる。
デメリット
まきすぎることで土壌がアルカリ性に傾いてしまう。
こんな場合におすすめ
効果の発生が緩やかなので、家庭菜園などで使う場合に適しています。
2. もみ殻くん炭
精米の際に取れるもみ殻を、低温でじっくりいぶして炭化させた土壌改良材で、タールを含まない安全性が魅力です。
メリット
土壌をアルカリ性に傾けつつ、保水性・排水性・保肥性・通気性といった土壌の質も向上させる。
害虫忌避効果があり、アブラムシやアザミウマなどの被害を防ぐ効果が期待できます。
デメリット
まきすぎることで土壌がアルカリ性に傾きすぎ、また土壌が軽くなることで植物が倒れてしまうことも。
こんな場合におすすめ
微生物に分解されて効果が表れるまでには時間がかかりますが、土壌改良したい方に向いています。
3. バーク堆肥
針葉樹や広葉樹などの樹皮を砕き、家畜のふんや少量の化学肥料を混ぜて発酵させた土壌改良材です。
メリット
保水性・保肥性を向上させる。
他の土壌改良材よりも分解しにくく、さまざまな種類の微生物を集めることができる。
デメリット
炭素を多く含んでいるため、植物が窒素不足になる可能性がある。
こんな場合におすすめ
土壌を安定させ、栄養分を吸収させやすくするため、植物の育ちをよくさせたい方におすすめです。
4. ピートモス
堆積して腐食したミズゴケが、時間を掛けて泥炭化したものを乾燥させて砕いた土壌改良材です。
メリット
土壌の酸性度をアルカリ性から酸性に傾けることができる。
土壌の保水性を向上させ、軟らかくすることができる。
デメリット
水はけのよい土を好む作物の場合、土壌の保水性が高まりすぎてしまうため、根腐れなどの原因になってしまう。
事前にピートモスを水に吸わせてから使用しないと、土壌が水を吸わなくなる。
こんな場合におすすめ
湿った土壌を好む植物を育てたい方におすすめです。また酸性度を下げる土壌改良材の中では変化も穏やかなので、初心者にも比較的使いやすいと言えるでしょう。
5. パーライト
火山岩や真珠岩などを熱処理して作られる発泡体で、大きく分けて黒曜石パーライトと真珠岩パーライトの2種類があります。
メリット
土壌の通気性を上げつつ、黒曜石パーライトの場合は排水性を、真珠岩パーライトの場合は保水性を向上させることができる。
デメリット
使い過ぎると土壌の強度が下がり、パーライト自体が軽いために水に浮いて流れてしまう可能性がある。
こんな場合におすすめ
土壌の水はけが悪い(良すぎる)場合や、根の成長が悪い場合に使用すると高い効果が期待できます。
6. バーミキュライト
特徴
バーミキュライトは、苦土蛭石(くどひるいし)を原料とした土壌改良材です。
苦土蛭石を高温で処理して、10倍以上に誇張させます。バーミキュライトは、穴がたくさん空いていることから、適度な排水性と保水性を持ったバランスの良い土壌改良材です。
メリット
通気性が良く、肥料や水分を適度に保持し、不要な水を排水してくれます。断熱性、保温性に優れていることから、年間を通して農作物が育ちやすい環境を整えるのに最適です。
バーミキュライトは、鉱物ですが軽く、土の10分の1程度という比較的軽い素材です。持ち運びに優れています。作られるときに高温で処理されているため、無菌状態です。病害の防止にも役立ちます。
デメリット
バーミキュライトは軽い素材のため、農作物の成長とともに根が倒れてしまうことがあります。
土と混ぜて適度な重さにしておくことが重要です。
こんな場合におすすめ
種まきや挿し木など、状態が不安定な時期にバーミキュライトを使うと安心して育てられます。
水耕栽培では、土の代わりに使われており、補助用土としてさまざまな植物の成長に役立つでしょう。
7. 草木灰
特徴
草木灰とは、日本で昔から使われている土壌改良材のひとつです。藁や枝を燃やした後に残る灰を草木灰と言い、アルカリ性が特徴です。
日本では、昔から野焼きを行い、草木灰が作られてきましたが、昨今は廃棄物の処理及び清掃に関する法律が定められ、誰でも簡単に作れるわけではありません。
どんな植物を用いるかによってアルカリ性が強いか、ケイ酸が多くなるなど成分が変わってきます。
メリット
酸性土壌をアルカリ性に変えてくれるのがメリットです。即効性があり、石炭と異なり土壌が硬くなってしまうこともありません。
作物の葉に灰をかけると、虫除けとしても使えます。
デメリット
塗布する量を適量にしないと、アルカリ性にかたよってしまい、マグネシウムやカルシウムの吸収を阻害する原因となります。窒素の成分が含まれていないため、草木灰だけを肥料とするには不十分です。
水溶性のため即効性はありますが、溶け出しやすく雨で流れてしまうこともあります。
化学肥料と同時に使うと化学反応により有害ガスが発生し、肥料の効果も下がってしまうため注意が必要です。
こんな場合におすすめ
土壌の酸度を中和させ、カリウム、リン酸を補いたいときに有効です。有機肥料のため、花や農作物の追肥に使えます。じゃがいもの種イモの断面に草木灰を塗ると、切り口からの腐食を防げるため、じゃがいもを育てる際にも最適です。
監修:農研機構 中央農業研究センター 大谷 卓