本当の地酒を造る 地元の酒米と水にこだわり滋賀地酒を世界へ
公開日:2019年03月03日
最終更新日:
ヤッホー‼ 世界で唯一のコンビ揃ってきき酒師の漫才師「にほんしゅ」です! 最近では特に米作りからの酒造りを大切にする地酒蔵に惹かれます。全国の酒蔵を巡る中で感じるのは「テロワール」という考え方の広まりです。今回は、地元の米と水で醸された酒で土地を表現する「テロワール」で個性を出す酒蔵に突撃インタビュー! 戦国時代から続く滋賀県長浜市の冨田酒造の若き杜氏が、地元にこだわって酒造りに挑む姿に迫りました。
冨田酒造の歴史
宿場町として大いに栄えた北国街道沿いに佇む冨田酒造
今回の舞台は創業470年以上、戦国時代からの歴史ある冨田酒造。あの「賤ケ岳(しずがたけ)の戦い」のあった、滋賀県長浜市に蔵を構えています。
冬は非常に強く冷え込む琵琶湖の北側「湖北(こほく)」と呼ばれる地域で米作りを強く意識した酒造りが、国内外から注目を集めています。そのキーマンは15代目蔵元兼製造責任者の冨田泰伸(とみた・やすのぶ)さん。
ワイルドなルックスと愛嬌のある笑顔が素敵な若き杜氏に、酒造りへの思いのすべてを聞きました。
冨田酒造15代目蔵元兼製造責任者の冨田泰伸さん
あさやん
北井
すみません、冨田さん。今日はよろしくお願いします!
冨田さん
北井
まずは冨田酒造さんの歴史や、蔵がある長浜市木之本町のことを教えていただけますか?
長浜市木之本町は旧北国(ほっこく)街道沿いで歴史ある家屋が今も並んでます。京都、名古屋への分岐点となった街で、宿場町としてすごく栄えたんですよ。その宿泊するお客さんたちに飲んでいただくようにお酒づくりも盛んだった土地柄で、以前には町内に酒蔵が5軒もありました(現在は冨田酒造を入れて2軒)。
冨田さん
あさやん
へー! すごく栄えていたんですね!
じゃあそろそろ試飲の方を。
北井
で、代表的な銘柄の「七本鎗(しちほんやり)」もこの土地の歴史にちなんでるんですよね?
そうなんですよ。信長亡き後の跡目争いの戦「賤ヶ岳の戦い」がこの土地であったんです。結局、羽柴秀吉が柴田勝家に勝利するんですが、秀吉側の家臣の中でも特に勇猛果敢な働きで武功を挙げた加藤清正や福島正則など7人の若武者が「賤ヶ岳の七本槍(※1)」と称えられたことにちなんでるんですよ。
冨田さん
※1 参考:賤ケ岳の七本鎗(冨田酒造公式ホームページより)
銘柄の由来になった「賤ヶ岳の七本鎗」の武将たちの名前が入った灯篭
北井
いいですねー! 歴史好きなんでワクワクします! 戦いの前夜に飲むと縁起が良さそうです!
あさやん
北井
あさやん
この扁額(へんがく)の「七本鎗」の字もかっこいいですよね!
芸術家であり美食家でもある北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)さんが「七本鎗」を愛飲してくださっていて、そのご縁で書いていただいたんですよ!
冨田さん
あさやん
くら寿司のCMに出てる方ですね。字もすごくうまいんですね。
北井
滋賀の農業
北井
滋賀県は昔から稲作が非常に盛んで、自分たちの食べる分以上に取れるので県外へ販売するぐらいなんです。農業するための水が豊富ですから。やっぱりあいつには感謝ですね(笑)。
冨田さん
あさやん
北井
琵琶湖のことですね(笑)。逆水(ぎゃくすい)といって琵琶湖の水をくみ上げて稲作に使うので、稲作においての水不足の心配はほぼないんですよ。あと滋賀のお米の特徴でいうと「環境こだわり米」(※2)っていう基準があって、農薬や化学肥料を通常の半分以下にすると補助金が出るんですよ。これも琵琶湖の水を守るためですね。滋賀の生活用水や農業用水は琵琶湖に流れこみますから。
冨田さん
※2 滋賀のおいしいコレクション:滋賀県農政水産部 食のブランド推進課
北井
「滋賀の農業は琵琶湖なしに語れない!」といった感じですね!
あと、気候的には雪もよく降る地域なので冬はよく冷えるんです。水ある、米ある、冬冷える。日本酒造りにはすごく適しているんですよ。水も米も滋賀産で酒造りができる土壌があるというか。滋賀は本当の「地酒」を造っていくことにおいてめっちゃいい県なんですよ!
冨田さん
あさやん
北井
冨田さんが滋賀で“テロワール”を目指すまで
北井
そんな恵まれた滋賀県ですが、テロワールを目指すきっかけを教えていただけますか?
2002年、27歳のときに蔵へ戻ったんですけど、そのときは世の中は焼酎ブーム、その前は赤ワインブーム。日本酒は居酒屋のメニューで探すことが難しいくらいでした。
冨田さん
あさやん
北井
言われんでも諦めてないから!美味しいお酒造ってはるから!
(笑)。20代前半の会社員時代もアルコールには関係する仕事をしていたんですよ。その中でワインの営業の仕事をしていたときにワインアドバイザーの勉強をして、ワインの考え方に共感を覚えていきました。そこで、会社員を辞めて蔵へ戻る前にもっと広い視野から日本酒を見よう!と、世界中のワイナリーやウイスキーの蒸溜所などを見て回り、日本酒以外の酒造りやその土地の空気に触れて勉強しました。
冨田さん
あさやん
北井
(笑)。世界中のお酒の生産者さんと話して感じたことは「地域を表現する」ことが大切なんだということです。
冨田さん
北井
ワインの世界でいう「テロワール」の大切さですね。その土地ならではの原料、土壌、風土、人の気質とか。日本酒の世界ではそういう意識はほとんど無かったと思います。地酒と言いながら、地元の酒米でないというのは世界的に魅力を訴えにくいんです。
冨田さん
北井
原料がダイナミックに移動するのも日本酒の魅力ですが、ワインの世界を知る人には理解しにくいんですね。
もうお酒は大量生産・大量消費の時代ではなくなっているし、日本だけでなく世界の人にも滋賀地酒「七本鎗」をこれから認知してもらって愛してもらうには「滋賀の土地を表現」することが大切だと強く思ったんです。
冨田さん
地元滋賀産の酒米にこだわる
蔵のお土産売り場には冨田酒造が使う滋賀県の酒米がずらり!
北井
滋賀産の酒米での酒造りについて教えていただけますか?
2002年に蔵に戻ってから地元の農家さんたちの仲間を増やしていって酒米を作ってもらってますね。滋賀県で栽培できる酒米、山田錦・玉栄(たまさかえ)・吟吹雪(ぎんふぶき)・渡船(わたりぶね)の4品種のみでお酒を造ってます。現在では8軒の農家さんと組んでやっているんですが、元々みんな酒米作りはやってなかったんですよ。
冨田さん
あさやん
もともと酒米を作っていなかった農家さんに品目を変えてもらったんですか!
お金をつんで動いてもらったんですか?
言い方あるやろ! そりゃ適正な報酬は必要やろうけど。
北井
そうですね! 地元の知り合いだった、無農薬にこだわりがあるような農家さんたちと少しずつ話す機会が増えて、信頼関係が出来ていきました。未来へ向けて一緒に酒米づくりをやっていけると思った農家さんにだけ米作りをお願いしています。現在お酒の仕込みに使う8割のお米が契約農家さんたちの米になりました。
冨田さん
北井
自分でお米を作る酒蔵さんもいますが、冨田さんはそう思わなかったんですか?
実は、蔵へ戻ってすぐは僕自身が農業をやっていこうと思っていたんです。でも、いい農家さんと出会って、米作りのプロの農家さんに米作り自体は任せたいと思うようになりました。地元の農家さんたちとタッグを組んで「七本鎗」の酒米を作っていってもらうことで収入も増やしていって欲しいですし「七本鎗」が世界でも飲まれることで誇りに思ってもらえたら嬉しいですね! エリアブランディングを大切にしたいです!
冨田さん
滋賀で米作りに向き合う篤農家さんとのタッグで「七本鎗」は醸される
あさやん
素晴らしいですね! 「七本鎗」の酒米作り! 僕もやらせてください! 頑張ります!
北井
逆にテロワールを語る上での苦労やリスクってありますか?
同じ地域だけでやってると自然災害にすごく左右されますね。そこはすごくリスクはあるんですけど心中するぐらいの気持ちでいます。2018年9月の台風では滋賀のお米はかなりやられて収量はけっこう落ちましたね。
冨田さん
北井
台風の影響もあって、今年の玉栄や山田錦は少し柔らかくて水を吸収しすぎるんですよ。そうすると意図してない味が出すぎる重たい感じの味になっていくので、今年はすごく仕込みには神経を使ってますね。
冨田さん
北井
ありがとうございます。ちょっと蔵も見ていってください。
冨田さん
あさやん
個性ある「本当の地酒」づくりへ
築3年の新しい蔵も、日本らしさを大切に趣きある木造にこだわった
あさやん
北井
うちのお酒に使う仕込み水は奥伊吹山系の伏流水で、中軟水なんですよ。
そして酒米の田んぼに使う水は同じ奥伊吹山系の水もありますが、それ以外は琵琶湖の水をポンプアップして川の上流へ戻します。それを田んぼの用水路へ流して使用するんです。
琵琶湖を経由しますが、元をたどれば同じ奥伊吹山系の水なので、基本的には米を育てるお水も仕込みに使うお水も同じ水、と考えています。
琵琶湖があってこその「逆水」というやり方です。
冨田さん
北井
そうですね、一番古い蔵は江戸末期の建物です。今は3年前に増設した新しい蔵でメインで製造してますね。
冨田さん
北井
この新しい蔵も木造蔵なんですね! 最近だと木造にこだわらない酒蔵さんも増えてきたと思いますが、なぜ新しい蔵まで木造なんですか?
そうですね、あえて近代的な建物にはせずに木造で日本らしさを演出したかったんですよ。海外から日本文化や日本酒に憧れて来られたお客さんに日本らしさを楽しんでいただきたいし、海外でも日本酒が造られるようになってきた現代、価格競争で負けたとしても大本山としての価値では負けてはいけない!という日本酒の蔵元としての想いです。
冨田さん
あさやん
いいですね!
ではそろそろ試飲タイムといったところでしょうか。
北井
冨田さん
あさやん
北井
しぼりたてのお酒やにごり酒といった冬の季節ものを含めて12種類ご用意しました。
冨田さん
北井
じゅ、12種類!? めっちゃ嬉しいです!
じゃあどれからいただこうかな。
あさやん
北井
冨田さん
あさやん
それぞれもちろん少しずつ味わいは違うんですが、「七本鎗のお酒だなぁ」という共通項が味にありますよね。
北井
あさやん
優しい口当たりからしっかりふくらむ旨味、しかし後味はすっきりキレる。お米の酒ならではの素朴な旨味を存分に感じられる上に重たい味というわけではなく、洗練された味わいに感じます。和服が似合う落ち着いた美人さんのようなイメージ…。燗酒もおススメのお酒のタイプですよね。
北井
テイスティングコメントめっちゃええやないか!
まさにそんなお酒!
ありがとうございます! 嬉しいですねー! うちのお酒は香りも味も派手さは無いのでブームになるタイプの味ではないんですが、いつの時代もブームに流されず、脇を固めていけるような堅実な味わいをずっと造っていきたいですね。
冨田さん
あさやん
素晴らしい!
世界に誇れる、世界で戦える「七本鎗」になるために地元の水や米にこだわり、農家の仲間を情熱で巻き込んでいるのは、全ては世界に誇れる「本当の地酒」を造り、滋賀の魅力を伝えていくためなんですね!
まさに勇猛果敢な若武者「賤ヶ岳の七本槍」のように勇猛果敢に日本酒「七本鎗」も世界で戦っている!
滋賀テロワール「七本鎗」万歳!
冨田さん
北井
最後あさやんがうまいことまとめるんかい!
冨田さん、ありがとうございました!
滋賀の別名「湖国」とかけた、熟成シリーズ琥珀色になるように刻を重ねるという「琥刻(ここく)」は冨田酒造さんから感じる滋味深さや滋賀テロワールのロマンが存分に感じられる日本酒
冨田酒造有限会社
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