酒造りは米作りと人づくりから【きき酒師の漫才師が泉橋酒造にツッコミ!Vol.3】
公開日:2019年01月13日
最終更新日:
ヤッホー‼ 世界で唯一のコンビ揃ってきき酒師の漫才師「にほんしゅ」です! 大好きな日本酒にまつわる活動や漫才をするうちに、日本酒の原料「酒米」への興味が膨らみ、田んぼへの愛情まで湧いてきた僕たち。こうなったら「酒米作りをする蔵元」さんに話を聞きに行くしかない!というわけで、20年以上前から首都圏の住宅地近くに広大な自社田を持ち、様々な酒米を育てる「泉橋酒造」を3回にわたって直撃! ラストとなる3回目は「仕込み編」。今年収穫された酒米での仕込みの模様を徹底インタビュー!
酒米収穫後の冬の田んぼで行う「冬期湛水」とは
12月初旬の寒さも本格化した日、今回もやってきました! 20年以上前から自社田で様々な酒米を育てる「泉橋酒造」です。新宿から急行電車で50分ほどの海老名駅から少し離れた住宅地に酒蔵と一面の田んぼ。秋の収穫を終え、今年の役目を果たした田んぼを背景に泉橋酒造の社長、橋場友一(はしば・ゆういち)さんがダンディかつ爽やかな笑顔でお出迎え。インタビューのスタートは収穫後の冬の田んぼにしていることの話題から。
蔵の目の前に広がる田んぼの「冬期湛水」について解説する橋場社長
あさやん
橋場
前回までの取材で今年の酷暑や多くの台風にも負けず海老名での酒米は無事収穫されたことはわかったんですが、次の田植えを迎えるまでの冬場は田んぼにどんなことをしてるんですか?
北井
今日はあいにく雨が降って田んぼもたっぷりの水が溜まっちゃってますけども。
まったく、自然には勝てないですね。
あさやん
橋場
そうなんですか! 確かに水が多すぎるなと思いました。
これは何をしているんですか?
北井
橋場
これは「冬期湛水(とうきたんすい)」というんです。
なるほど。
冬には炭水化物をたっぷり摂って栄養をつける、といったところですか?
あさやん
橋場
「たんすい」の字が違いますね(笑)。
「冬期湛水」は冬の田んぼに水をたっぷり張ることですね。
北井
橋場
冬期湛水をやることで冬の間に田んぼの土が発酵して自然の肥料を与えるような感じですね。ヌルヌルした土になるんですよ。しかもヌルヌルと柔らかい土だから除草しやすいコンディションになるのも嬉しいポイントですね。
なるほど。無農薬の田んぼにも良さそうな手法ですね!
北井
たっぷりと水を湛えた泉橋酒造の田んぼ
「冬期湛水をした田んぼの酒米はどんな酒米になるの?」という読者の声が聞こえてきます。
あさやん
北井
北井
橋場
冬期湛水をして、肥料を与えず無農薬で育てた酒米で仕込むとお酒の味が軽くなるんですよ。
へー! 軽い味になるんですか! それは意外。これだけ自然の力で酒米を育てると逆に素朴で濃い味のお酒ができるのかなと思ってました。
北井
橋場
たんぱく質が少ないお米に仕上がるため、お酒の味わいにもアミノ酸が少なく淡麗な味わいになる傾向にあるんですよ。もちろんただ軽いだけじゃなくて、その中に滋味深い味わいはあると思います。
あさやん
北井
収穫後の米は全て目視する! 自社で精米することの重要性
橋場
今日はお酒の仕込みの取材ですよね? 製造を見てもらうとしたらやっぱりうちは精米所からですね。
天井まで届く巨大な精米機が稼働中
立派な精米機ですね! これを買うには橋場さん、なかなかへそくり貯めこみましたね!
あさやん
北井
北井
橋場
そうですね。へそくりで買える金額じゃないですね(笑)。
精米機ってすごく値段も高いですし、自社で持ってない酒蔵さんの方が多いですよね?
北井
橋場
そうなんですよ。うちもなかなか購入に踏み切れずにいたんですけどね。米作りを始めて10年くらい経った2006年に、全量純米酒蔵(※)へ完全にシフトするときに購入しました。それまでは米は作っても精米は業者に依頼してたんですよ。
※ 製造する日本酒が米と米麹のみを原料とする「純米酒」のみの酒蔵のことで、全国でも珍しい。
やっぱり精米機を買うのは大変なんですよね。僕に一言相談してくれても良かったのに。
あさやん
あさやんに何ができんねん! ちょっと黙っといてくれる?
北井
橋場
でも自社の精米機は買って本当によかったです! 小さい蔵(品質にこだわる少量生産の蔵)ほど精米機を買った方が良い、と思います。
自社で精米機を持つことはそんなに良いことなんですね! 具体的にどのあたりが良かったですか?
北井
橋場
あさやん
北井
橋場さんすみません、「玄米の目視」がなぜ重要なんですか?
北井
橋場
玄米の成分分析はもちろん精米する前に機械でもやるんですが、その前に目視することが大切。分析前にある程度玄米の状態がわかるんですよ。「なんとなく心白少ないよね」とか、「なんか胴割れ多いよね」とか。で、それを何年もやってると酒米の見た目である程度「これは純米酒に使おう、これは大吟醸に使おう」とかも決められますからね。
玄米の目視でのチェック。白いお皿に置くと被害粒(病害・虫害などで損傷したお米)やお米の色がよく分かり、黒い皿だと玄米胴割れや心白があるかなどが分かる
凄いですね。機械での分析と肌感覚、どちらも使うことが大切なんですね。
北井
橋場
そうなんですよ。玄米の出来があまり良くなくて米が砕けやすいと精米時間が短くなるんですね。そのあたりのデータも農家さんに渡すんですよ。
なるほど。「米を見ているぞ!」と農家さんにも伝わるんですね! 通信簿みたいでちょっと緊張しますよね(笑)。
北井
橋場
ということで、なぜ自社精米機を持った方がいいかわかりましたね?
あさやん
橋場
それは別にいいんです(笑)。
自社精米をやると農家からいい玄米が届くようになる、ということですね!
魚の良し悪しが分かる目を持ってるお寿司屋さんにいい魚が卸されるような感じですね!
あさやん
北井
麹蓋を使っての麹づくりにこだわるワケ
橋場
よかったら蔵の方も少し見て行って下さい。麹つくったりしてますから。
泉橋酒造では全量が手間暇かかる製法である麹蓋を使っての麹造り
ありがとうございます! せっかくですから麹造りをしている蔵人さんにお話聞いてみたいですね。
作業中すみません。全量麹蓋を使った麹造りは大変ですよね?
北井
蔵人さん
そうですね、実際かなり手間はかかるんですけど小分けにすることで管理がしやすいんですよ。
温度と湿度の管理が大切なのでこのやり方がうちには合ってると思います。
あさやん
蔵人さん
あと、麹をつくりながらですね、「この麹づくりに使ってる米は〇〇さんの何番の田んぼの山田錦だからちょっとこうしよう」とかを考えるんですよ。
夏に一緒に米作りをやっている農家さんたちのお米なので顔まで浮かぶんです(笑)。米の細かな出来や農家さんの顔まで見えているから小回りの効いた対応をしたくて、そのためには大変だけど麹蓋でやるんです。そしてその結果を農家さんにフィードバックして年々良くなるように取り組んでいます。
なるほど、素晴らしいですね! 蔵人さんのこういった姿勢や言葉から「酒造りは米作りから」の泉橋イズムが蔵人さんにも浸透しきっているのが分かります。お米を大切に使おう!というのが伝わってくるなぁ。
北井
OK‼ 泉橋酒造バンザイ! もう言うことなし!
それでは失礼します。
あさやん
北井
「製法」と「お米」どちらも語れることで世界に通用する「いづみ橋」へ
バリバリ仕込み中の蔵の見学までさせていただいてありがとうございました!
米作り、精米、それを大切にするため手間暇のかかる製法での仕込み、その年の結果を農家さんにもフィードバックする、という一連の流れを知ることができて「泉橋イズム」を強く感じました。
北井
あさやん
北井
橋場
そう感じてもらえたのは良かったです! ただ、まだまだ道半ばですよ。酒米作りは毎年頑張っています。しかし「だからそのお米で造るとお酒の味はどうなるの?」ということを語り切れないのが現状であり、課題ですね。それを語れるようになるには今やっていることの継続しかないのかなと思っています。
うちの蔵人はみんな酒米づくりも酒造りも全部やる栽培醸造部に所属してるので本当に彼らの考えや行動次第かなと思っています。酒米作り、自社精米、リーダーの杜氏さんがいなくなってからの社員だけでの酒造りなど、色々と変化があり続けた20数年ですから課題は色々と出てくるんですけど、それを蔵のみんなでクリアし続けることでしか正解には近づけないのかなと。去年あたりから製造計画から若い蔵人に任せてチャレンジしてもらってます。
あさやん
北井
確かにめちゃくちゃ響きます。力を合わせて継続していくことが大切なんですね。
北井
橋場
そう思います。酒造りは「一麹、二酛(もと)、三つくり」という格言がありますよね。
はい、日本酒の製造において大切とされる3つの工程ですね。
北井
橋場
その手前に「酒造りは米作りから」を大切にする蔵でありたい、と思っています。
OK‼ 素晴らしい! それを僕たちもすごく体感できましたよ!
穏やかで広い視野を持っている橋場社長から色々とお話を伺って強く感じたのは「酒造りは米作りから」というよりも「酒造りは米作りと人づくりから」ということです!
蔵人さんもすごくいい顔されてお米の収穫やお酒の仕込みをされてました!
この橋場さんの思いや米作りの継続の先に日本酒ならではの本質的な魅力があると思います。
皆さんもぜひ「いづみ橋」を飲んでみてください。
あさやん
橋場
北井
泉橋酒造の蔵人さんたち。皆さん一人ひとりに酒造りへの愛を感じた
泉橋酒造株式会社
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