【プロフィール】
四川飯店グループ 代表取締役社長 陳 建太郎 “四川料理の神様”陳建民を祖父に、“中華の鉄人”陳建一を父に持つ。2002年に赤坂・四川飯店に入社し、渋谷「szechwan restaurant陳」にて修行、四川省成都市の「菜根香」で本場の四川料理を学ぶ。帰国後はシンガポールに初の海外店舗を出店し、2015年に社長就任。TVや雑誌などでも活躍中。 |
日本食材で生まれた陳家の回鍋肉
——四川料理といえば、麻婆豆腐や回鍋肉。今やすっかり家庭の定番料理になっていますね。
「四川飯店」の味は、日本生まれの四川料理ですからね。
祖父が四川料理を始めた当時は食材も限られていて、日本にある野菜を使って作っていたんです。
例えば、本場の回鍋肉は豚肉と葉ニンニクと炒めたものなのですが、葉ニンニクがなかったので代わりにキャベツを使った。それが日本家庭でも親しまれるようになりました。
——えっ?!そうなんですか?回鍋肉って、豚肉とキャベツの味噌炒めだと思っていました。
ちなみに青椒肉絲も本来ピーマンは入っていません。祖父が美味しいピーマンを取り入れたことで、日本では細切り肉にピーマンとタケノコという構成になりました。
——手に入れやすい食材で、しかも美味しい。“陳家の味”は、四川と日本が融合した料理なんですね。そんな唯一無二の料理に使う食材には、どんなこだわりがありますか?
四川省には「百味百菜」という格言があります。
百の料理には百通りの風味があり、それぞれに違った特徴を持ち、様々な味を楽しめるという意味です。
つまり、中華料理はどこに行っても適応できる、食材を問わない料理なんです。
だからこそ、味や食感、その季節、その地域で美味しい食材を使うようにし、食材を生かす提供の仕方を考えています。
——食材で調理方法を変えることもあるんですか?
ありますよ。例えば回鍋肉なんかは、「味が濃いからどのキャベツを使っても同じでしょ?」と思われがちなんですが、全然違う!
旬のもので本当に美味しいものが入った時は、味や食感をダイレクトに感じられるように、肉と一緒に炒めずに、キャベツだけを高温でサッと炒めて、上に肉を乗せて提供しています。
——どの国でも対応できる中華料理だからこそ、その地を生かした料理が提供できるんですね。
四川飯店を継ぐ身として。こだわりの食材選び
——仕入先のこだわりはありますか?
昔は業者さんに野菜の注文リストを送って一括仕入れをしていたのですが、ここ10年くらいで生産者からも仕入れるようになりました。
——きっかけはあるんですか?
1つめのきっかけは、本場・四川に修行に行った際の師匠の言葉です。
料理の指導だけでなく、本当に色んな畑に連れて行ってくれました。美味しい野菜を作っている農家もあれば、当たり前のように大量の農薬を散布している農家もいて、師匠はそんな畑を見ながら「僕は食材にこだわって料理をしたいんだ」と話してくれたんです。私も四川飯店を継ぐ身として、この言葉に大きな影響を受けました。
2つめのきっかけは、シンガポールに初の海外店舗を出店した時です。
食料自給率が1割未満といわれるシンガポールは輸入頼りなんですが、ホテル内に出店したことで、どの国から何の食材を仕入れるかは、ホテルの仕入れ担当が担っていました。
そこで渡されたキャベツに驚愕して……。
「これ、サッカーボールですか?」ってくらい堅かったんです。もちろん美味しくない。
仕入れ担当は「安いから良いじゃないか」と譲らない。
何とか伝えようと、サッカーボールのキャベツと他のキャベツで調理をして食べ比べてもらい、味がこれだけ変わるんだと、食材の大切さを訴えました。
原価も大切だけど、やはり食材にこだわらないといけないと実感しましたね。
——食材にこだわった結果、どんな生産者さんとお取引していますか?
まずは能登のNOTO高農園さん。カブがとても美味しいので、あれこれせずに素材の旨味を感じられるよう漬物にしてスターター(前菜)で提供します。美味しいだけじゃなくて、野菜づくりに対する熱意も凄いんですよ。
東京・国分寺の小坂農園さんの野菜も美味しいです。土いじりが大好きな方で、色んな野菜を作っては提案してくれます。「建ちゃん、どういうのが食べたい?」と聞いてくれて、私も店の料理人を連れて定期的に畑に行きます。この前は、唐辛子の硬い皮をどうにかできないかという話になって、食感や味についてあれこれ話をしました。そうして、意見を反映できるようにと作ってみてくれるんです。取引先というより、パートーナーですね。
料理人仲間に紹介したくなる生産者とは
——料理人と生産者が繋がるきっかけとして、紹介があると思います。紹介したくなる生産者の方っていますか?
その土地への愛情、次世代に伝えたいという想い、農業を生業にしようという情熱そういう自分が大切にしているものを持っている人ですね。
加えて、紹介される立場としては、何か行動している生産者さんとは自然と繋がりができると感じます。
先日、宮城県で冬でも美味しいホワイトアスパラガスを栽培している生産者さんと会ったのですが、知り合いのシェフからの紹介でした。食べた感想について細かく聞く姿勢も素晴らしく、価格も提案してくれました。ふと、「あのシェフの店でホワイトアスパラガスを扱っていたけど、彼らのこと知らないかもしれない」と思って、私も別のシェフを紹介しました。情熱を持って行動する生産者には、たくさんの繋がりが生まれると思いましたね。
——美味しい食材を作って農業を生業にするんだ、という情熱を行動で示されているんですね。
農業を続けるためには、経営的な視点も大事だと思うんです。その点では、最近訪問した農業生産法人トップリバーさんは、若い集団ですが、経営視点を持ちながら生産していました。自分たちのためだけではなく、地域の活性化に繋げられるような活動をしている点にも共感しましたね。
——色んなジャンルの料理人と、色んな食材を作っている生産者が、お互いの想いを交わして交流できるようになるといいですね
私たちの世代の料理人は、和洋中関わらず仲が良いんですよ。こういう世代だからこそ、生産者の方と絆を深めて一緒に外食産業を盛り上げていきたいですね。
【取材協力】
赤坂 四川飯店
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