【プロフィール】
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総料理長 中宇祢 満也(なかうね・みちや) 浦和ロイヤルパインズホテルで19年間勤務し、2018年よりホテル インターコンチネンタル 東京ベイに総料理長として就任。2001年フランス料理の世界大会「第35回ピエール・テタンジェ国際料理賞コンクール」にて世界3位を受賞。時代の潮流に合わせた素材や技法を取り入れ、お客様の大切なシーンを最高のおもてなしで演出できるよう指揮をとる。出身地である高知県の観光特使としても活躍中。 |
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宴会調理 料理長 吉本 憲司(よしもと・けんじ) 2001年に同ホテルに入社。洋食調理を担当。南仏ニースのミシュラン一つ星レストランや、南仏マントンのミシュラン二つ星レストランで修行を積み、帰国後はホテル内のレストランの料理長を歴任。2016年には「第50回ル・テタンジェ国際料理賞コンクール・インターナショナル(パリ)」で第3位を受賞。2018年9月より宴会調理料理長に就任。 |
食のトレンドは“ヘルシー”
——お二人とも、若手シェフの登竜門ともいわれるル・テタンジェ国際料理賞コンクール(※)の受賞者ですね。お互いのことは以前から知っていましたか?
※「ピエール・テタンジェ国際料理賞コンクール」は2007年より「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」に名称変更
中宇祢:顔も名前も知っていましたよ。コンクールの受賞も含めて活躍ぶりは耳に入っていました。
吉本:私も勿論知っていました。中宇祢さんが受賞された2001年は、ちょうど私が入社した年だったので強く記憶に残っています。憧れというか、雲の上の人です。

以前から知っていたという吉本さん(写真左)と中宇祢さん(写真右)
——世界を舞台に活躍されていて、最近感じている料理トレンドはありますか?
吉本:ヘルシー志向になってきていますね。当ホテルは、以前から「ヘルシー・ビューティ・フレッシュ」というコンセプトで料理を提供しているのですが、ここ6~7年でヘルシーの部分が強くなり、同じコンセプトの中でも料理の提供の仕方を変えてきています。
素材重視で手をかけ過ぎず、個性を生かすような味付けになってきています。
——コンセプトは守りながらも、時代の潮流を捉えて工夫されているのですね。
中宇祢さんは、前職のホテルと比較して料理の違いを感じることはありますか?
中宇祢:基本的には変わりませんが、客層が違う点は意識しています。
前職のホテルでは、レストランを利用されるお客様はほぼ県内のリピーターでした。しかし当ホテルではリピーターはそれほど多くありません。
また、お台場近くのベイエリアに位置しているため、観光で来られる家族連れの利用も目立ちます。
前職ではリピーターを飽きさせないよう、毎月メニューを変えて、写真撮りもし直して、ダイレクトメールをお届けしていました。
今は「どうやって来て頂くか」を考え、一度来て頂いたお客様の心を掴んで「もう一度来きたい」と思わせることが大切になります。
そうなると、吉本が言っていた「良い素材を生かした料理」というのは本当に重要になります。
——トレンドを考えても、お客様の印象に残るという点でも、食材選びはとても重要になってくるのですね。“良い素材”の定義はありますか?
吉本:旬のものですね。その季節ごとに、自然に穫れるものが一番良いと思います。
中宇祢:そう。だから、「その季節にある食材でどう作るか」を考えています。
思わず広めたくなる食材とは
——食材はどのように選んでいるのですか?
中宇祢:基本的に仕入れ担当が行いますが、料理人が食材をリクエストすることもあります。
また、時折シェフが集まる会などがあり、そこに来た生産者と知り合って、直接仕入れるケースもあります。様々ですね。
——仕入れたいと思う食材はどういうものですか?
吉本:一つ一つを大切に作っている食材ですね。味に個性があるんです。
その個性を際立たせるために、シンプルな味付けに仕上げたくなりますし、そういった美味しい野菜をお皿におくだけで料理がまとまるんです。

厳選野菜を使ったシーフードのマリネ べトラーブのジュレとヨーグルトのムースを添えて
中宇祢:生産者の顔や産地が見える食材は魅力的ですね。
何故こういう味に仕上がるのか、栽培過程を説明してもらうと納得するし、一生懸命育てている姿を見ると、良い料理に仕上げたいと思う。情が入りますよね。
私は出身地の高知県の観光特使をしているのですが、本当に美味しくて安価なトマトを作っている生産者がいて、思わず都内の有名ホテルのシェフに紹介しました。
そのホテルは今でも定期的に仕入れています。良い食材は、仕入れたいだけでなく、広めていきたいと思いますね。
——相手の顔が見えるのは、お互いにとって良いことですよね。
中宇祢:顔が見えるとコミュニケーションが生まれますからね。
前職に在籍していた際に、埼玉県の農家やシェフ、種苗会社が協力をして、「シェフが本当に欲しい野菜」を栽培する「さいたまヨーロッパ野菜研究会」という組織に関わっていました。
シェフが作って欲しい野菜をリクエストして、出来た野菜をシェフが料理するんです。
そこでの生産者とコミュニケーションは、とても有意義でしたね。

さいたまヨーロッパ野菜研究会で栽培された野菜を手にする中宇祢さん
——どんなやり取りをしていましたか?
中宇祢:野菜の味についてはもちろんですが、食材の使い方をアドバイスしたこともありました。
野菜がたくさん穫れた時、農家さんは余ったものを使ってドレッシングやジャムを作って売る方が多いんです。しかし、加工品にした瞬間、市場で加工品メーカーと競うことになります。余ったもので作って勝てるわけがない。
それよりも、皮を剥いたりカットして冷凍しておいてくれると、シェフは欲しい時に買えて有難い。
せっかくの野菜を捨てたり、売れない加工品を作らずに済むんです。
——それは貴重なアドバイスですね。お互いの視点から、有益な情報を共有していける関係性が素敵です。
シェフが生産者に求めること
——この連載でのお決まりの質問なのですが、今欲しい食材はありますか?
中宇祢:品種についてはもう無いかな。珍しいものでも、遠方まで探しに行けばあります。
——……で、では、生産者に求めることはありますか?
吉本:私達フランス料理人は、美味しい料理や調理技術を取得するためにフランスに修業に行き、本場のシェフから作り方を盗みに行きます。
生産者さんも、意欲があれば上手く作っている生産者の所へ学びに行ったり、シェフと話して学び取っていくものだと思います。
——なかなか厳しいですね(笑)
中宇祢:強いて言うなら、提案してくれることでしょうか。
以前、ある魚屋から「フランス料理にはどんな魚を入れたらいいですか?」と聞かれたので、「まずはフランス料理を食べに行ってみては?」と答えたんです。
すると後日、「この料理に自分の魚が合うと思うから使って欲しい」と、色々食べて勉強して、魚を持ってきてくれました。
持ってきた魚がトビウオなんですけどね。フランス料理だからってタイやヒラメばかりじゃなく、新鮮なトビウオを使うのもいいなと思って、作ってみました。
こういう提案はシェフをやる気にさせますし、何か言ってくれると、こちらも返せます。
お互い次に繋がりますよ。
——コミュニケーションを取って行動することが大切なのですね。
【取材協力・写真提供】
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ
さいたまヨーロッパ野菜研究会
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