『パディウォッチ』で水位・水温をセンサリング
生産現場の課題解決に、ITベンチャー『ベジタリア』が開発
稲作農家にとって、水田の見回りは手間のかかる農作業の一つ。さらに、複数の圃場がそれぞれ離れていれば、何時間もかかることでしょう。
この課題解決のために、農業ITベンチャーであるベジタリア株式会社が開発したのが『パディウォッチ(PaddyWatch)』です。
『パディウォッチ』は、水田に設置した機器から水位と水温を自動測定。数値はリアルタイムで、スマートフォンやタブレット端末、パソコンからセンサリングできます。これにより、いつでもどこでも大事な水田の状態をチェックし、不要な見回りによる手間や時間を減らせます。
手軽なレンタル導入と操作性
『パディウォッチ』の魅力は、手軽さにあると言えるでしょう。
使用にあたっては、計測用の機器を水田に設置し、あとはデータを受信したいスマートフォンなどに専用アプリをダウンロード。設置は、市販のポールと結束バンドで行い、乾電池で動作するため電源を用意する必要もありません。アプリ上でのデータは直感的に見やすいグラフなど、一定期間の水位・水温が一目で分かります。
さらに、『パディウォッチ』は、建築物のリースや緑化事業を展開する大和リース株式会社が全国の農業者などに向けてレンタルを行っています。これにより、いっそう導入しやすいだけでなく、農閑期には同社が機器を保管もしてくれるため、利用しやすいシステムとなっています。
参照:水温管理の頼もしい相棒。手間いらずの水管理システム〈パディウォッチ〉
広がる使用シーン
『パディウォッチ』は、大阪府『農の成長化産業推進事業』(2017年度)でのスマート農業支援としてモニター農家が約70台を使用するなど、利用機会が広がっています。
こうした広がりの中で、『パディウォッチ』に注目した企業の一つが、米の卸販売で業界ナンバー1(※)を誇る株式会社神明でした。
※ (参考出典等)
「神明が業界ナンバー1企業」神明HP 企業理念
米の安定供給へ、神明が『パディウォッチ』を選んだ理由
米の卸販売、神明が抱く危機感
神明は1950年に前身である神戸精米株式会社の設立以来、米の卸販売企業として国内外の食生活に貢献してきました。
「米を安定的に供給していくことが当社の使命」と語るのは事業創造室長の橋本賢(はしもと・さとし)さん。
「しかし近年、米の生産量は減っています。農業を守るためにも、生産者が何に困り、何を必要とし、当社はどんなサービスを提供していくべきかを、3年ほど前から生産者に直接、ヒアリングしました」
東北地域や新潟県、千葉県など。どの地域の生産者も共通して困っていたことは、売上が圃場面積の拡大に比例しないという課題でした。
「離農者が増えると、継続する生産者に圃場が集まる。すると、離れた圃場を管理する必要が出てきます。人を雇えば管理できるかもしれませんが人件費がかさむ。面積に比例した売上アップには、省力で広い面積をこなせる効率的な生産のために、最新技術に頼る必要があると考えました」
コストパフォーマンスに優れたセンサリング機器として
こうした考えから、2017年に同社は、スマート農業機器を調べ始めました。米穀事業本部の農産部、渡邊哲也(わたなべ・てつや)さんは当時、2つの視点で機器を探していました。
「1つ目は、水稲の状態を“見える化”できること。収量の底上げを考えたときに、水稲の状態を見ることが第一と考えたからです。2つ目は、植物を育てる要素である、水・土・光という視点です」これらにマッチした機器が『パディウォッチ』でした。
「さらにパディウォッチはコストパフォーマンスにも優れていましたから」と渡邊さん。導入コストが収益を上回ってしまえば本末転倒。これも大事なポイントでした。
プロ農家による使用感やワンポイント
同年、神明は2県7農家(計約7.5ha、2品種)に『パディウォッチ』18台を試験導入してもらうことに。
初めは同社も試験の段階。農家も効果に対しては半信半疑。「正直なところ、農家さんも当初は抵抗感があったようです」と渡邊さん。「機器を通じて、送られてくるデータだけに頼らず、それまでと同じように、見回りにも行っていました。パディウォッチ利用が2年目となる今シーズンは、見回りを減らすことができるデータ管理を行いたいです」
また、実証試験では、水口ごとに機器を差してデータを取りました。大きな圃場では、水の入り具合が水口ごとに異なることもあるためです。
水温・水位の計測位置を微調整できるのも、その手軽さがあるからこそ。「やはり、プロの農家さんは見るところが違うと、教えられました」と渡邊さんは話します。
20倍の規模で実証試験を加速、全国約150haへ導入
さらに、同社はドローンでも稲の状態を見るなど、水稲の状況とデータを確認。データの安定性と正確性に、手ごたえを感じました。「水位が確認しづらい夏にも、ちゃんと水田の様子が分かり、データが取れていました」機器自体も雨風や台風、直射日光、化学薬品にも耐えられる頑丈さを持ちます。
大和リース株式会社ロボット推進室 室長の久徳聡(きゅうとく・さとし)さんは、「昨年、当社からレンタルした機器のうち、不具合は1件でした」。その1件も、乾電池の入れ方を逆さにしたためで、機器の故障ではなかったそうです。
こうした背景から、神明は2019年、実証試験の規模拡大を決定。
実証試験のエリアは計150haに拡大。需要が多い「コシヒカリ」や同社独自の品種なども『パディウォッチ』で追うなど、より実用的な活用を見据えています。
効率的な農業で、農家の売上拡大の糸口に
事業創造室リーダーの橋元洋志(はしもと・ひろし)さんは「パディウォッチは、離農に歯止めをかける武器の一つになると思います」と話します。「導入するだけで離農に歯止めがかかるわけではないと思いますが、圃場面積が広がっても省力化できれば、収益を上げていける可能性があるのではないでしょうか」
渡邊さんも「水位・水温データの活用により、収量や食味を上げられるようにするなどの可能性も秘めていますよね」と続けます。
卸販売事業に加え、外食チェーンなどの販売先を持つ神明。『パディウォッチ』は、生産者と消費者をつなぐ同社の一気通貫したビジネスモデルを、さらに効率的に進めていくパートナーです。
米を知り尽くす同社が選んだ『パディウォッチ』を、ぜひご自身の圃場にも活用してはいかがでしょうか。
<取材協力>
株式会社神明
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