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水稲育苗のメリットとは? 苗の種類や育苗方法、失敗しやすいポイントを解説

水稲育苗のメリットとは? 苗の種類や育苗方法、失敗しやすいポイントを解説

水稲の栽培方法は、種子を直接水田にまく「直播(ちょくはん)栽培」と苗を水田に植え付ける「移植栽培」に分けられます。日本では水田面積の98%が移植栽培です。移植栽培では育苗(苗を育てること)を行いますが、「苗半作(なえはんさく)」という言葉があるように苗づくりは田植え後の稲の生育や収量を左右する重要な作業です。

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育苗の意義

水稲の育苗

直播栽培は苗づくりの手間が省けますが、播種(はしゅ)後の苗立ちまでは気温や降雨等の影響を受けやすく、また雑草も増えやすくなります。これに対して育苗を行うことで ①春先の気象条件の変動が大きい時期に、ビニールハウスなど環境を制御できる条件で抵抗力の弱い幼植物を生育できる ②代かき後に発生する雑草よりも生育が進んだ苗を植え付けるため雑草を制御しやすい ③生育が早まるので出穂の遅れを回避できる などのメリットがあります。

育苗の手順・資材

育苗の手順・資材

①塩水選・種子消毒

淡黄緑色の徒長苗となり、もみに菌糸がみられる「ばか苗病」や、幼苗時に苗腐敗症となり湾曲して発芽し変色、出穂期以降にもみに発生する「もみ枯細菌病」等の病害は種子を介して感染が広がりますので、塩水選による罹病(りびょう)種子の除去や温湯(おんとう)処理や殺菌剤処理による種子消毒は必須の工程です。

②浸種・催芽

発芽をそろえるためには十分な浸種期間が必要です。10℃で7~10日間、15℃の場合は5~7日間が目安となります。10℃未満の水温になると発芽不良を生じる場合がありますので、低温が懸念される場合は、浸種場所に注意して下さい。浸種後は催芽器などで25~30℃に加温して催芽します。ハト胸状態(芽がわずかに見える程度)から1ミリ程度の発芽を確認したら、催芽(さいが)完了となります。

③育苗箱・培土の準備

苗箱

苗箱

育苗箱は田植え機にあわせて規格化されています。育苗箱に詰める床土に市販の培土を利用する場合は、pHや養分が調整されていますが、自分で調整する場合は、窒素、リン酸、カリを箱当たり1グラム(育苗期間の長い寒冷地ではこの2倍程度)、pH5が目安となります。また、殺菌剤は床土に混和するか播種時に施用します。播種後の覆土(ふくど)には肥料成分を含まないものを選定します。

④播種~緑化・硬化

育苗器から取り出した出芽苗

育苗器から取り出した出芽苗

一般的には、播種、覆土を行った苗箱を育苗器で32℃に2日間程度加温して出芽(芽の長さ1センチ程度)させます。

緑化開始

出芽した苗を並べシートをかける準備中(緑化開始)

気温がある程度高い条件では、ビニールハウス内などで出芽させることも可能です。出芽後の苗箱を育苗場所に設置して、シルバーポリ(銀色の遮光フィルム)や不織布などを上にかけ、弱い光を当てながら芽を伸ばすことを「緑化」といいます。

緑化終了

緑化終了時の苗箱(硬化開始時)

緑化終了

緑化終了時の苗(硬化開始時)

緑色の葉が伸び始めて草丈が3~4センチ程度になったら、覆っていたシートを取って苗を外気の環境に慣れさせる「硬化」を行います。

⑤育苗中の管理

ビニールハウス内での育苗風景

ビニールハウス内での育苗風景

育苗期間は春先になるので、一般的に寒暖の差が大きい時期となります。このため、晴天時は換気をして30℃以上にならないように、夜間の冷え込みが懸念されるときはハウスを閉じるとともに、夜間に苗の上に保温用の被覆シートをかけるなど、気象条件に留意した管理が重要です。また、一日数回は苗箱の水分条件を確認して、適宜水やりを行いますが、晴天で風が吹く日などは乾燥が早いので注意が必要です。水を浅く張った苗床で育苗する「プール育苗」では、水が豊富にあるので乾燥の危険性は少なくなりますが、苗が徒長になりやすく肥料成分が抜けやすいので、温度条件や追肥について留意する必要があります。

プール育苗

浅く水を張った苗床(プール育苗)

苗の種類と育苗条件

中苗と稚苗

中苗(左:4.0齢)と稚苗(右:2.1齢)の模式図(葉齢は不完全葉を含まず)

苗は乳苗、稚苗、中苗、成苗に大別され、種類により苗箱当たりの播種量、育苗期間が変わります(※表1)。植付に最も一般的なのは稚苗で、この時の苗箱播種量は箱当たり150〜200グラム、育苗期間は15〜25日程度となります。若い苗ほど、必要な苗箱数を減らすことができ、育苗期間を短縮できるので、省力・低コスト化に向いています。また、葉齢の進んだ苗ほど移植から出穂までの期間が長く必要なので、東北、北海道の寒冷な地域で中苗や成苗を用いる傾向があります。

※表1 苗の種類と特徴

苗の種類と特徴

※注 葉齢は葉の枚数。本表では葉身のない不完全葉を含んでいません。播種量は乾籾での重量です。

変わりつつある育苗技術

中苗と稚苗

通常の播種量(稚苗用で1箱あたり約150グラム)

①高密度播種育苗

苗箱あたりの播種量を稚苗の場合の2倍近い250~300グラムにすると同時に田植え機の「苗かきとり量」を小さくすることで、育苗箱当たりの植え付け面積を倍増させる低コスト化技術です。播種量が多いので、育苗期間も短縮(14~20日程度)されます。本技術に対応してかきとり方式を改良した田植え機が発売されています。

②苗箱全量施肥栽培

肥料成分をゆっくり溶出させる緩効性の肥料を床土と一緒に育苗箱に詰めて、苗と肥料を一緒に植え付けることで元肥や追肥施用を省略する技術です。通常の肥料では、肥料焼けや苗の徒長となる傾向がありますが、専用肥料が市販化されており、これを用いることで省力栽培が可能となります。稲が効率的に肥料養分を吸収するため、肥料の節約にもなります。

失敗しやすいポイントと対策

育苗条件の異なる苗

育苗条件の異なる同一品種の苗。播種日が同じでも長さが大きく異なる。

①出芽不良で苗がそろわない……

品種にもよりますが、収穫からの期間が短い、あるいは種子が低温で保管されていた場合、発芽に好適な条件となっても斉一に発芽しないことがあります。これは種子の「休眠」によるものです。利用する種子は事前に発芽試験を行って発芽率をチェックしましょう。

②苗が短すぎる……

苗の長さは移植後の生育に影響します。苗が短すぎると移植後に水没して生育不良や欠株の原因になります。育苗期間の気温が低いと苗の成長が遅くなるので、このような場合には、緑化時に保温をしっかり行うことや緑化の期間を長めにするなどの対策が重要になります。また、苗の伸長性は品種によって差がありますので品種に応じた条件設定が必要となります。

③緑化と硬化のタイミングは?

急激な温度や光の変化は生物にとって大きなストレスとなります。育苗では、緑化開始時(出芽期から苗床に苗箱を広げるとき)と硬化開始時(苗を被覆したシートを除去するとき)に、顕著な低温、高温、強光の条件になると、苗の白化、生育不良、枯死などの原因となります。低温の早朝や、晴天で高温の昼間などは避けましょう。

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