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匠の技をITで見える化、伝承へ ブドウ栽培お助けアプリを農家が開発

匠の技をITで見える化、伝承へ ブドウ栽培お助けアプリを農家が開発

フルーツ王国、山梨県。その北部に位置する韮崎市は、日照時間が長く、降水量が少ない気候を生かして、ブドウが栽培されています。ブドウ作りの匠と呼ばれるベテラン農家もいますが、その技を伝承することが難しく、さらに高齢化も進んでいるため、いかにしてブドウの産地を維持していくかが大きな課題です。危機感を抱いた同市上ノ山地区の農家が、ブドウ農家の技を「数値化&見える化」させる取り組みを始めました。その取り組み事例の一つ、日本農業新聞の「営農技術アイデア大賞2018」を受賞したスマートフォンアプリ「葡萄(ぶどう)粒チェック」の開発秘話をご紹介します。

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ブドウ農家の経験と勘を後世に残したい

フルーツ王国と呼ばれる山梨県には、ブドウや桃などの果樹栽培で「名人」と呼ばれる熟練農家がいます。韮崎市でブドウを生産する株式会社クピド・ファームが取り組んでいるのは、熟練農家の「経験と勘」を目に見えるカタチに落とし込むために数値化すること。ドローンやスマートフォン、AIなどを駆使し、新規就農者でも品質の高いブドウを栽培できる方法を探して試行錯誤を続けています。2019年3月には、日本農業新聞の「営農技術アイデア大賞2018」を受賞しました。対象となった技術は、スマートフォンでブドウの房を撮影し、摘粒時に適切な粒数を判定できるアプリケーションです。摘粒とは、ブドウの粒を間引きする作業のこと。シャインマスカットやピオーネなどの生食用ブドウの房から、ハサミを使っていらない粒を切り落とし、35粒程度までに揃えています。35粒程度にすることでブドウの房の形状が美しい逆三角形になり、粒のハリや色も良くなるからです。もともとブドウの粒は100粒程度あり、何もしなくても粒が落ちて35粒程度になるのですが、人が完成形をイメージしながら摘粒作業をしないと、ところどころに粒が残った歯抜け状態になってしまいます。

ブドウの房

ブドウの房は膨大な数になるので手作業で摘粒するのは大変

多い時には、一日園全体で合計数千房以上にもなる摘粒作業では、一房ごとの粒を数える時間はありません。
「最初に35粒の房をつくり、そのかたちを覚えて作業するのですが、人間だからどうしても夕方くらいになると疲れて数がずれてしまうんですね。とくに新規就農者は『切りすぎてはいけない』という気持ちが働いて、粒を残しすぎる傾向がありました。そうなると、粒の色やハリが良くならないんですよ。そうならないよう、摘粒をサポートできる仕組みをつくりたいと思ったことが、スマートフォンアプリの開発のきっかけです」とクピド・ファーム代表の岩下忠士(いわした・ただし)さんは話します。

ブドウの摘粒をサポートするスマホアプリをつくる

スマートフォンは農園で持ち歩くことができますし、内蔵カメラの性能は年々向上しています。スマートフォンのカメラで撮影した画像を、アプリケーションで解析し、粒数をカウントするようにできないだろうかと考えた岩下さんたちは、都内のソフトウェア会社と協力して開発することになりました。完成までには苦労も多かったそうです。
「摘粒の時期は5月末から6月の2週間ほど。それ以降は粒が大きくなりすぎて実証実験ができません。さすがにそれでは開発が進まないということで、関係者でアイデアを出し合い、摘粒時のブドウの模型をつくりました。これにより1年中、実証実験ができるようになったのです」と岩下さんは振り返ります。
ほかにも課題はいくつもありました。当初は、ブドウの房を360度ぐるりと撮影することを想定していましたが、カメラの向きを変えると周りの房まで映り込んでしまいます。それでは画像の解析が正確にできません。結局、この問題はブドウの表面だけ撮影して、裏面は表面の粒の数や形状をもとに、特殊な数式がプログラミングされたアプリケーションに計算させることによって算出することにしました。誤差はありますが、それでも±2粒以内におさまるように調整されています。また、ブドウ畑は天気や時間によって日の当たり方が違うため、画像データにバラツキが出てしまうこともあります。ほかの房の映り込みを防ぐことと、撮影条件をそろえることを目的に、携帯可能な撮影ボックスも作りました。

ブドウの粒

スマートフォンアプリでブドウの粒を数える岩下さん

アプリ開発をきっかけに就農希望者や農業体験希望者も集まりだす

アプリケーションの開発には当然、お金がかかります。そのため、JA梨北に協力を要請し、地域のブドウ農家を盛りあげるための取り組みとして一般社団法人農林水産業みらい基金のプロジェクトに応募。助成対象事業に選ばれたことで、開発費用の問題も解決しました。足掛け2年の開発期間を経て、スマートフォンによる摘粒サポートアプリケーション「葡萄粒チェック」は2018年6月にApp Storeからリリースされました。撮影用のボックスはJA梨北から5400円(税込み)で販売しています。

アプリと撮影ボックス

スマートフォンアプリと並行して撮影ボックスも独自開発

IoTやAIを活用してブドウ栽培をおこなう岩下さんたちの取り組みに惹(ひ)かれ、就農希望者が少しずつクピド・ファームに訪れるようになりました。しかし、まだまだ担い手は足りていません。新規就農の一歩手前の取り組みとして、他地域から農業に関心を持っている人たちを集めておこなうブドウの栽培体験も始まりました。体験者のなかから一人でも二人でも農業に興味がある人が見つかれば、この地域にとって大きな意味のあることです。スマートフォンアプリやドローンを使った取り組みは、農業体験希望者の興味を引くきっかけになっています。

農業体験

都内から農業体験希望者がブドウ農園に集まるように

クピド・ファームのある韮崎市上ノ山地域のブドウ園オーナーの平均年齢は70歳台。後継者探しは、待ったなしです。ブドウ産地の未来を守るために、クピド・ファームは今日も挑戦を続けます。

外山さん
クピドファーム

▼ダウンロード無料 アプリケーション「葡萄粒チェック」(iOS)
https://itunes.apple.com/jp/app/%E8%91%A1%E8%90%84%E7%B2%92/id1372426911?mt=8

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