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共同体と向き合う〜組織や地域にまつわる課題を解決しよう〜【農家のお悩み解決!おすすめビジネス書#03】

共同体と向き合う〜組織や地域にまつわる課題を解決しよう〜【農家のお悩み解決!おすすめビジネス書#03】

「農業経営の裾野を広げる、業界外の知恵」という視点で、佐川友彦さんにお気に入りのビジネス書を紹介してもらう連載第3弾。今回のテーマは「組織」と「地域」です。私たちの身近な問題やトラブルの大半は、人間関係にあると言っても過言ではありません。皆さんも不毛な消耗を強いられ、本来果たすべきことに集中できなかった経験があるのではないでしょうか。そんなときに助けの手を差し伸べてくれる本を紹介します。

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組織や地域にまつわる問題と向き合ってみよう

個人・法人問わず、一人の力で農業を営むことはできません。農協の部会や自治体が音頭を取る生産者ネットワークなど、組織に属されている方がほとんどかと思います。自治会や集落の会合はもちろん、消防団やPTAのように地域の集まりも多いでしょう。このような人の集まりは「共同体」と言えます。共同体は本来、何かしらの共通目的のために、単独行動以上の成果を得るために協力し合うものです。

ところが、地方で農業に関わっていると、共同体にまつわるトラブルが嫌でも耳に入ってきます。意見調整できなかったり、メンバーの利害が対立したりすることは日常茶飯事で、感情のもつれが泥仕合になってしまうことも珍しくありません。無意味だとわかり切っていることを惰性や大人の事情で続けなければならないこともあります。1足す1が2より小さくなってしまっては本末転倒です。

「不完全な人間同士の集まりだから」と諦めてしまえば簡単ですが、不要なストレスを抱え続けるのはあまりにも不健康です。今回は、そんな共同体に属しながら、少しでも物事を前向きに進めるコーピングスキル(ストレスなどに対処する方法)について学びたいと思います。1冊目から「組織」について、2冊目からは「地域」について教えてもらいましょう。

「職場の問題地図~『で、どこから変える?』残業だらけ・休めない働き方」から学ぶ、あるあるな構造的問題の解決

  • 仕事の所要時間が見積もれない
  • 何をどこまでやればいいのかが曖昧
  • 仕事をしない人がいる
  • 誰が何をやっているのかわからない

あれ?うちの集まりのことかな?と思った方はいらっしゃいませんか。本書で紹介されている問題の一例です。タイトルは「職場の問題地図」ですが、職場に限らずあらゆる組織で起こる、普遍的な問題をとりあげています。

問題には必ず原因があり、さまざまな因子が複雑に連動して起こります。本書はそれらの因果関係をマップとして丁寧に図解しています。まさに問題地図。まず巻頭に付録されている1枚の地図、これだけで留飲が下がること間違いありません。あまりに的確かつ共感をそそる内容なので、首が痛くなるほどうなずけます。

本書は「仕事の5つの要素」として、「目的」「インプット」「成果物」「関係者」「効率」を挙げています。物事を思い通りに進めるには、これらが正しく設計・運用されている必要があります。社内調整でもこれほどの工夫と配慮が求められるなら、違う事業者同士で集まった場合はなおさらです。この5つの切り口で皆さんの所属する組織を見直してみましょう。改善できることが見つけられるはずです。

問題の背後には、独りよがりや不注意など、誰かの人間的なふるまいがあります。罪を憎んで人を憎まずではありませんが、人にフォーカスするだけでなく、仕組みで解決することが大切だと本書は説いています。問題の引き金になる人の動きを分析して、狙い通りの行動へ仕組みで誘導していきましょう。まずは身の回りの問題を題材に地図を作ってみて下さい。根本にある原因と、取るべきアクションが見えてきます。

職場の問題地図~「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方
著者:沢渡あまね
出版:技術評論社

「凡人のための地域再生入門」から学ぶ、ごっこで終わらない地域再生

本書は地域再生を題材にしたビジネス小説です。東京でサラリーマンをしていた主人公の瀬戸は、母親が実家の商店をたたむにあたって、物件の処分について頭を悩ませていました。地元で事業をしていた友人の佐田に相談したところ、店を売却せずに小さな商業施設として再生させることを勧められ、二人でビジネスを始めることにします。最初は右も左も分からなかったものの、佐田の的確な指導もあって、成功を収めつつ徐々に事業を拡大していきます。その過程でさまざまな駆け引きや、ときには失敗なども経験しながら、価値創造と地域再生の心得を学んでいく物語です。ネタバレが過ぎるとよくないので、この辺までにしておきましょう。続きは本を手にとってご覧ください。

著者の木下斉(きのした・ひとし)さんは、高校生の頃から商店街の再生プロジェクトで活躍されるなど、経験豊富な若き地域再生の第一人者です。フィクションとはいえ、ご自身の実体験や見聞きした実話などがふんだんに盛り込まれているので、非常にリアルです。途中のコラムや解説では実例も紹介されています。

憶測で不安をあおる人、いぶかしんで手を貸してくれない人、都合のいいように利用しようとする人、やっかみで妨害してくる人……地域を舞台にした話だけあって、皆さんの身の回りで見たことのありそうな人たちが登場します。本書は一貫して、本質を伴わない他人の介入は断固として遠ざけるよう警告しています。補助金のように一見おいしそうな話であってもです。真の地域振興とは、地道に事業と向き合って、価値を積み上げていくことによってのみ達成されます。いかに本物の同志を見極めるか、そうでない人とどう距離を置けばいいかも描かれていますので、参考にしてください。農業に地域貢献の要素を期待している、すべての人に読んでいただきたい本です。

主題からはそれますが、本書は商売の面白さや醍醐味を存分に味わえる内容になっています。思い通りにビジネスが進んでいくシーンは痛快そのものです。引っ込み思案な主人公瀬戸が、豪快な友人佐田に背中を押されながらリスクを負って勝負していく様は、私たちの潜在的な可能性を教えてくれます。なにを隠そう私自身、自分の事業でもっとスケール大きく挑戦しなければと奮わされました。

地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門
著者:木下 斉
出版:ダイヤモンド社

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