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仲間と続ける農業経営〜チームビルディングとマネジメント〜【農家のお悩み解決!おすすめビジネス書#04】

仲間と続ける農業経営〜チームビルディングとマネジメント〜【農家のお悩み解決!おすすめビジネス書#04】

「農業経営の裾野を広げる、業界外の知恵」という視点で、佐川友彦さんにお気に入りのビジネス書を紹介してもらう連載第4弾。今回のテーマは「組織開発」と「マネジメント」です。人手が足りない。優秀な人に定着してもらえない。家族経営中心で、雇用を「労働力確保」だけの視点で語りがちな農業界こそ、事業を存続させるために人材採用や組織開発、マネジメントを学ぶ必要があります。チームづくりの最新事例や、マネジメントの基礎理論から、円滑で持続的な運営管理のためのヒントを手に入れましょう。

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チーム作りに万策を尽くして、仲間と農業を続けよう

「農作業が好きなだけで、経営者になろうと思ったわけではない」「自分が人の上に立つことなんて考えていなかった」そんなことを思いながら、社員やパートさんを雇用されている農家さんは多いのではないでしょうか。私が知っている方々も、農作業そのもの、生産技術の追求、または農的ライフスタイルが好きなのであって、経営やマネジメントは好きではないし苦手だとおっしゃる方ばかりです。一人でマイペースに農業と向き合いたいところですが、繁忙期を乗り越えるためにも、規模を拡大するためにも、雇用の力は必要です。大規模化や法人化が推進されている潮流もあります。いまや農業でも、雇用を受け入れることは一般的な選択肢になりました。

一方、人手不足の問題は農業界にも突きつけられています。農業界の労働条件や労働環境の水準では、他産業と比べて相対的に不利だと言わざるを得ません。「農業をしたい」という人を探し当て、三顧の礼で招き入れ、できるだけ長く勤続してもらうよう今まで以上に努力する必要があります。さらに教育や業務管理など、あらゆる手段で従業員の能力を引き出すことが利益の最大化、もとい事業存続のために不可欠です。

もうおわかりかと思いますが、いま農業の現場に求められているのは、まさに皆さんの敬遠しがちな「組織開発」や「マネジメント」です。いずれも、企業経営の進歩と並行して、新しい手法やそれを裏づける理論が生み出されています。最新事例や他業界の知見からヒントを得ましょう。愛する農業を続けるために、組織やマネジメントと向き合い、親世代の農業経営観をアップデートしてください。

「THE TEAM 5つの法則」から学ぶチームビルディング

一人でも雇用を取り入れれば組織、すなわちチームになります。各人の努力や貢献が重要なのは言うまでもありませんが、チームプレーが全体のパフォーマンスと成果の鍵を握ります。相互作用が相乗効果を生むこともありますし、人間関係が足を引っ張ることもあります。皆さんの農園はどのようなチームを志向し、どのような工夫をされているでしょうか。個人的な価値観や思いつき頼みで、場当たり的な対応になってしまってはいないでしょうか。

組織変革を取り扱った本書は、ありがちな精神論や経験則ではなく、理論に基づいた「チームの法則」を体系的に解説しています。Aiming(目標設定)・Boarding(人員選定)・Communication(意思疎通)・Decision(意思決定)・Engagement(共感創造)というABCDEの5つの法則を読み進めるうちに、高いパフォーマンスで目標を達成するチームづくりについて学ぶことができます。

柔道団体戦型、サッカー型、駅伝型、野球型……本書ではチームを4タイプに類型化しています。それぞれどんな特徴か、興味が湧いてきませんか。チーム運営には、どこでも通用する絶対解があるわけではなく、タイプによって異なる最適解があるというわけです。まずは皆さんの組織がどのタイプに当てはまるか自己分析してみてください。タイプごとに適したコミュニケーションや意思決定の方策が提示されていますので、皆さんに合ったチーム運営が見えてくるはずです。

私は阿部梨園という個人経営の農家で、組織改革に数年取り組んできました。この経験から言えることは、「小規模なチームこそ、組織運営次第で飛躍的に生産性が高まる」ということです。組織の文化を変えるのも、共通認識を全員で同期するのも、実は規模が大きいほど難しく、小規模チームはその点で圧倒的に有利です。「農家は企業と違うから」と敬遠するのではなく、小規模の良さを生かす組織化こそ、中小規模農家に必要な生存戦略です。

本書で紹介されているようなチーム運営が実践されれば、従業員一人一人の個性が発揮された、素晴らしい農園になれるはずです。機械化や自動化、さらには無人化といった個性を不要にする農業の“工業的な”発展よりも、ロマンがあると思いませんか。

THE TEAM 5つの法則
著者:麻野 耕司
出版:幻冬舎

「無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論」から学ぶマネジメント

従業員を雇ったものの、生産技術を伝授する以外に何をしたらいいかわからない。教育らしいことはほとんど何もできていない。生産者さんの経営相談に乗っていると、そんな声をよく耳にします。教育が不可欠だとわかっていても、社内制度はおろか、知識も時間も予算もないという状況では、何から着手したらいいのでしょうか。私自身も阿部梨園へ加わったときに頭を悩ませた課題です。

限られた選択肢の中の一つは、昔から盛んに行われているOJT(On-the-Job Training)、つまり実務を行いながらの教育です。社員の能力アップと業績貢献を両立できるので合理的ですが、やみくもに仕事を押し付けるだけでは教育になりません。意図や目的が理解できない状況では、逆に従業員の生産性低下さえ起こり得ます。誰かの指揮下で働いたことのある方は、本書のタイトルのように「無理」や「無意味」と感じた経験もあるかと思います。業務を通して従業員の成長を演出するためにはマネジメントが必要で、そのための手法や理論をわかりやすく解説してくれているのが本書です。

最も多くのページを割いているのは、従業員への「機会の与え方と支援」です。易しすぎる目標と難しすぎる目標の間の、「できるかできないか、ギリギリの目標」設定が重要です。機会と権限の絶妙な与え方、適切なフォローの仕方を本書で学べば、従業員のモチベーションを高く保ちながら、最適な成長曲線を描くことができます。厳しすぎず甘すぎずプレッシャーを加減しながら、従業員の能力を適度にストレッチし続けてあげましょう。従業員の成長が事業を牽引してくれていると実感できるようになります。

また、本書はマネジメントに関する18の基礎理論から成り立っています。学術研究に裏付けられた原理原則は納得させられるばかりでなく、自ら応用的に考える際の助けにもなります。マネジメントの一冊目なら本書で間違いありません。

無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論
著者:海老原 嗣生(著)、守島 基博(解説)
出版:プレジデント社

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