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アグリ・フードテックの海外事情〜生産編〜 投資拡大、植物工場・生産者向けITサービスは成熟感

齋藤 祐介

ライター:

アグリ・フードテックの海外事情〜生産編〜 投資拡大、植物工場・生産者向けITサービスは成熟感

新しいビジネスやテクノロジーの発展には大規模な投資が必要です。特に施設への投資が必要だったり、商習慣を変えるのに時間がかかる農業や食の領域には、IT企業に比べて大きな投資が必要になることも少なくありません。米国のアグリ・フードに特化したベンチャーキャピタル、AgFunderは2018年のアグリ・フード領域スタートアップの資金調達状況に関するレポートを発表しました。本記事では、投資概況に加えて、注目すべきトレンドを解説していきたいと思います。

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引き続き拡大が進むアグリ・フードテックへの投資

AgFunderが発表したレポートによると、2018年の世界のアグリ・フードテックスタートアップへの投資総額は169億米ドル(約1.9兆円)。昨年の118億米ドル(約1.3兆円)から43%も伸びており、同市場への期待感の高まりを感じることができます。

2018年度の日本企業による国内スタートアップへの投資額が、アグリ・フードに限らず全体で約3500億円であることを考えると、かなり大きな金額が投資されています。

下図はカテゴリーごとの投資額の分類です。

AgFunder アグリ・フードテック投資レポート2018の情報より筆者作成

この図を見るとフードデリバリーと食用品デリバリーの投資額が多いことがわかります。どちらもいわゆるフードデリバリーの領域で、先進国だけではなく、今後需要が急激に伸びると予測されている新興国のスタートアップへの投資が大きなものとなっています(こちらは別記事「アグリ・フードテックの海外事情〜流通編〜」で解説します)。

特に農業に関わる生産=川上の部分に関してより詳しく見ていきましょう。

成熟感が出てきた生産者向けITサービスと植物工場

当該レポートでは、川上と川下をベースに産業領域を分けています。いわゆる農業や食料生産に関わる川上の投資額は69億米ドル(約7600億円)と半数以下になるものの、昨年比44%増と継続的に成長している分野です。

特に農業スタートアップとしてイメージしやすいのは、生産者向けのITサービスや、植物工場ではないでしょうか。

生産者向けのITサービスとして、目立った調達をしている企業はアメリカのIndigo Agです。元々、種子に微生物処理を行うバイオテック事業を行っており、約2.5億米ドル(約275億円)の大型調達を行っています。調達後、農家向けに資材のマーケットプレイス(インターネット上で売買を行う場の提供)を開始しており、自社製品の販売だけではなく、自社製品で築いた販路を使った農業生産者向けのプラットフォーム構築を目指しているようです。

その他の農業向けITサービスでは、2018年は衛星やドローンからの画像データを活用した企業の資金調達が目立ちました(アメリカのPrecisionHawk、Ceres Imagingなど)。一方、Climate Corporation、FarmLogs(いずれもアメリカ)のような生産管理ツールのスタートアップの調達はもう落ち着いているという印象です。

植物工場領域では、小売店屋上での栽培を行うアメリカのGotham Green、ドイツのInfarm、フランスのAgricoolが2000万米ドル(約22億円)以上の大型調達を行っています。ただ、都市部での室内農業に取り組むPlenty(アメリカ)の調達もあった昨年に比べて全体としての投資額の伸びは小さくなっているようです。

農業ではない、未来の食料生産に期待が集まる

昨年に比べて印象的だったのは、既存の食料生産方法にこだわらない、新しい食料生産を行う企業の調達です。

世界的なタンパク質不足が注目されるなか、昆虫を活用するスタートアップは高い期待をされています。2018年に300万米ドル(約3億円)を調達したEntomo Farmsはコオロギを原料とした食品を販売するカナダのスタートアップです。 健康食品としてコオロギの粉末を販売するほか、飼料としての活用も推し進めています。また、フランスのInnovaFeedは4500万米ドル(約50億円)の大型調達をして、特に水産品の飼料として販売を進めています。

さらに、人工肉ベンチャーも目立ってきました。以前記事にしたアメリカのImpossible FoodsやBeyond Meatはそれぞれ1140万米ドル(約13億円)、500万米ドル(約6億円)の資金調達を実施しました。Beyond Meatは2019年5月1日、ナスダックに新規上場を果たし、人工肉の知名度は急激に上がっています。肉以外にも乳製品を人工的に製造するRipple Foods(アメリカ)が650万米ドル(約7億円)もの調達をしています。

微生物の活用も目立っています。4000万米ドル(約44億円)の大型調達をしたZymergenは大手メーカーを対象に遺伝子組み換え微生物を提供するアメリカの企業です。アグリ・フード領域では、遺伝子組み換え微生物は食品添加物や保存料の生産への貢献が期待できる他、生産面で農薬や肥料での応用が期待されています。前回の調達に続いてソフトバンク・ビジョン・ファンドがリード投資家を務め、期待の高さを感じさせます。ちなみに、2.7億米ドル(約297億円)調達した、微生物技術を持つGinkgo Bioworks(アメリカ)にもソフトバンクは投資しています。

スタートアップの調達状況を眺めることで、農業や食の未来を垣間見ることができる気がしています。クボタや味の素のように、日本の農業資材メーカーや食品メーカーで国際的に重要なポジションを築いている会社は少なくありません。農業や食の産業が再構築されようとしているなか、日本のスタートアップでも国際的に活躍する会社が出てくるかもしれません。
 

次はアグリ・フード市場の川下=流通関連のスタートアップの調達状況について解析していきます。

次の記事
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