巨額の資金投下が行われているデリバリービジネス
川下のカテゴリとして大きな割合を占めるのがデリバリービジネスです。2018年にアグリ・フード関連企業に投資された総額約169億米ドル(約1.9兆円)のうち、約半数の82億米ドル(約9000億円)をこのデリバリービジネスが占めます。
デリバリービジネスは大きく3つに分かれ、①個々の飲食店で作られた料理を消費者に宅配するフードデリバリーと、②スーパーに売っているような食料雑貨を宅配するグローサリー(グロサリー)デリバリー、③客席を持たずキッチンで作った料理を宅配のみで提供するオンラインレストランがあります。
フードデリバリーは、日本でも以前からネットを通じた出前サービス「出前館」などがあり、さらに近年はUber Eatsの影響もあり、一般的になってきました。
グローサリーデリバリーはまだ日本ではあまり見かけないサービスですが、米国など海外の先進国ではかなり注目される領域です。大手スタートアップのInstacartが、2017年に4億米ドル(約450億円)、2018年に6億米ドル(約650億円)を追加調達し、1万5000店舗の食料雑貨店の商品をデリバリーしています。彼らの巨大なライバルはAmazonです。Amazonは、2017年に米国でオーガニック食品を中心に取り扱うスーパーWhole Foodsを買収し、このグローサリーデリバリの市場でも存在感を強めています。
オンラインレストランもさまざまなサービスが生まれています。3.75億米ドル(約400億円)を調達したZume Pizzaは新しい形のユニークな宅配ピザ会社です。一般的な宅配ピザ会社が店舗でピザを焼いてそのあとバイクで宅配するのに対して、Zume Pizzaではピザの調理を、移動型トラックで行います。そうすることで、需要に合わせて調理拠点を臨機応変に再配置することができます。
また、Uberの元CEOが立ち上げた企業City Storage Systemsは、CloudKitchensというサービス名で、オンラインレストランを立ち上げたい料理人たちにキッチンだけをレンタルするサービスを提供しています。こちらの企業も1.5億米ドル(約160億円)の調達を実施しています。
急成長を期待される新興国のデリバリービジネス
デリバリービジネスが資金を集めているのは先進国だけではありません。人口増加と経済成長が進む新興国では外食・食料品需要が伸びることは明らか、その中でデリバリービジネスも成功するはずだ、という考えのもと、先行投資として巨額の資本が新興国のデリバリー企業に流れています。
フードデリバリーで、特に大きく資金調達をしたのはインドのSwiggyで10億米ドル(約1100億円)の資金を調達しています。また、ブラジルのiFoodも5億米ドル(約550億)の調達を行っています。
中国では、EC大手のJDグループのなかでグローサリーデリバリーに特化したDada-JD Daojia(達達-京東到家)が5億米ドル(約550億円)の調達をしています。さらに農産品に特化して、農家と飲食店を直接つなげるサービスも注目されています。Meicai(美菜)というサービスで、2018年内に運営企業は5.9億米ドル(約650億円)の調達をしています。
新しい飲食テクノロジー
デリバリー以外にも飲食関連で新しいビジネスは次々生まれています。
1.2億米ドル(約130億円)の調達を行った米国のToastは、飲食店向けのクラウド型POSを始めた情報管理システムを提供する企業です。2019年に入ってからも2.5億米ドルを調達し、販売力を強めています。
Amazon Goのような無人コンビニサービスを展開する企業も出てきました。中国のBingoBoxも無人コンビニを開発、提供する企業のひとつで、2018年に8000万米ドル(約90億円)の調達を実施しています。
また、通常の店舗でも、棚の在庫管理を任せることができるロボットが開発されています。2900万米ドル(約30億円)調達した米国Bossa Nova Roboticsが提供するロボットはスーパーの中を自律的に動き回り、店内の棚の状況を常にモニタリングします。商品の不足、ラベルの貼り間違いを検知して、スタッフに迅速に伝えるサービスで、大手スーパーのウォルマートなどに導入されているそうです。
以上、2018年に大型資金調達をしたアグリ・フードスタートアップを紹介してきました。どれだけ時代が進んでも人類に必要な食とそれを支える農業。これから、どのような新しい関連サービスが出てくるか楽しみです。