【プロフィール】
営業 大出孝二(おおで・こうじ) 昭和50年生まれ。平成16年に築地横治に入社し、大型ホテルなど数多くのレストランを担当している。ご縁とコミュニケーションを大事に日々産地とレストランを繋いでいる。 |
時代と共に変わる仲卸の役割
——築地横治さんは、どのようなお取引先に、どんな野菜を卸しているのですか?
大型ホテルやミシュランの星を持つレストラン、そこから独立されたレストランなど、大小様々なレストランと200件程お付き合いがあります。私はそのうち25件くらいを担当しています。豊洲市場にある品物は何でも扱えるので、取引先のレストランが求めるものを仕入れて、確実に納品することが仕事です。
——仲卸業者は、どうやって野菜を仕入れているんですか?
仕入れ方法は大きく4つあります。
①競り(せり) ②青果卸売会社から買う ③仲買(なかがい) ④直接農家から仕入れる
①競り(せり)
最も高額な金額を提示した者が買えるシステムです。
その時の需要と供給のバランス、競りに出ている品質を見て、瞬時に入札を行う能力がないと競りには勝てません。野菜であれば、松茸のような季節の稀少なものが出ると、競りも盛り上がります。
②青果卸売会社から買う
豊洲市場には全仲卸業者に青果物を販売できる唯一の卸会社「東京シティ青果」が入っています。業界では仲卸業者と区別するために、「大卸(おおおろし)」「荷受(にうけ)」とも言われていますね。
市場に入荷されるものの全てが競りに出されるわけではないので、競りに出ていないものは東京シティ青果さんが値段をつけて、私たちが買います。ちなみに、競りをしているのも東京シティ青果の社員です。
③仲買(なかがい)
仲卸業者から購入することです。自分の店にあるものでは足りない時に使いますが、自分の店の商品だけで納品できることなんてほとんどありません。築地横治は、豊洲市場の店舗はもちろん、太田市場や京都、名古屋、大阪とも協力できるネットワークを持っていて、足りない時は全国から仕入れできるような体制を整えています。
この仲買ネットワークをどれだけ多く持っているかが、その店が最終的に持つアイテム数といっても過言ではなく、他店との差別化にもなります。
④直接農家から仕入れる
豊洲市場での取り扱いが無い、または少ない商品だけど、取引先が求めている場合に直接農家さんのところに行って、取引させてもらえるように交渉します。農家さんの所にぱっと行って引き受けてもらえるものではないので、営業担当によっては常に農家を開拓して取引先を拡大させている人もいます。
仲卸の役割は取引先に欠品せず、安定供給することが第一なのです。自分の店の商品だけで仕事をする、という考えがないんです。あらゆる手段をつかって仕入れをし、納品できるように調整しています。
——一方で、これだけ市場に商品があると売りさばけない商品もありそうですが…その場合はどうしているんですか?
競りでさばけなかった場合は、東京シティ青果さんが競りの後に価格を調整して市場内の店舗に売って周ります。全員が競りに参加をしているわけではないので。足りないように、且つ余らないように全体を調整するのも卸売市場の役割かもしれませんね。
——卸売市場や仲卸業者の役割が変わってきたと感じることはありますか?
役割は確実に変わってきています。いつからと言われると肌感覚なんですが…ミシュランガイドが出た頃くらいからでしょうか。“おいしい”の基準ができて、その中に素材の良さもあった。そこでシェフが産地直結の野菜を使い始めて、レストランが農家を開拓するようになりました。その辺りから「良い野菜は仲卸からじゃないと手に入らない」という時代ではなくなりましたね。
一方で、産地直結型の場合は予測できない天候の影響もあるので数量が読めません。仲卸の強みは、どんな時でも全国のネットワークを使って安定供給すること。その上で、取引先のニーズを把握して提案することで、産地直結の取引との差別化をはかるように変わっています。
仲卸から見た「これから売れる野菜」
——取引先のシェフからは、産地や形、大きさについてどんな要望がきますか?
具体的な要望って無いんですよ。産地を指定されるのは婚礼で新郎新婦の出身地の名産を使いたいから、という場面くらいです。
一流のシェフは日々アンテナを立てているし、色んな方に影響を受けて好みも変わるし、トレンドもあります。「夏だからこの野菜」「この野菜だからこの産地」という決まりもなく、むしろスタンダードなもの以外の新しい提案を求めているんじゃないでしょうか。
そんなシェフのイメージを日頃の会話を通じて掴んで提案するところが、仲卸の腕のみせどころです。そのためには、自分自身も決めつけて提案しないように気を付けています。
——最近、取引が多いトレンド野菜はありますか?
マイクロ野菜と海外の珍しい野菜です。
マイクロ野菜は、この連載で中村屋の二宮総料理長をはじめ数々の一流シェフが言っているとおりですが、海外の珍しい野菜に関しては、若い日本人シェフの要望が多いです。かつては輸入に頼ってきたのですが、最近は外国に修業に行くシェフが多く、現地で野菜の味を知って、帰国後も同じものを使いたいという要望が増えましたね。
チャンスだと感じる点は珍しい野菜を育てるうえで、日本のどの地域と相性が良いかまだ分かっていないことです。
シェフの好みも様々で、例えばトレビスなんかだと、苦みやえぐみが強い現地に近い方が好きだというシェフと、日本人好みの口当たりが良くて癖がない味が好きなシェフがいます。
要望が多様で確立されていない分、色んな地域で色々と作ってみた農家が勝つと思いますよ。
実際、意欲的な農家さんは私たち仲卸に「こういう野菜を作ってみようと思っているが、売れそうか?」と聞いてこられる方もいます。珍しい野菜を作ってレストランに提案して反響が良かったり、レストランの売上が上がるという好循環も見受けられます。
人気レストランと取引するために必要なこと
——人気のレストランと取引するために必要なことはありますか?
シェフの価値観を知ることですね。一般消費者の目線とは明らかに違います。
農家の方は収穫した野菜を家庭で調理して食べますが、同じ野菜をレストランでどう調理して提供しているのか、取引していても知らない農家さんが意外と多いです。
もし、これから取引したいと思っているレストランがあったら、まず食べに行ってみて欲しいですね。
——提案の仕方やスタンスはいかがでしょうか。
今年提案してだめでも翌年採用されることもあるんです。それはシェフのトレンドもあるし、提案した時期の問題もあります。一度採用されなくても、長い目でみて提案することが大事かなと思います。
そして何といっても関係性です。農家さん、仲卸業者、レストランとの信頼関係がすごく大事。
仲卸と農家さんとの交渉のなかで、価格が折り合わずお取引できないこともあります。その場合、私とは取引できなくても仲卸業者でニーズが合いそうな仲間がいれば紹介しますし、レストランに直接紹介することもあります。
私の利益にはなりませんが、目先のことだけ考えていては続かない仕事です。お互いにとって最良なかたちを模索する―。それが一番大切なことだと思います。
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