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生食用とは違う!スイーツに合う食材とは【本当に求めている食材#12 帝国ホテル 望月 完次郎】

連載企画:本当に求めている食材

生食用とは違う!スイーツに合う食材とは【本当に求めている食材#12 帝国ホテル 望月 完次郎】

理想の料理を作るために、日々食材を探す一流の料理人やバイヤーたち。そんな一流の目を持った人が求めている食材とは何でしょうか。12回目は帝国ホテルのパティシエ・望月完次郎氏。日本の迎賓館として数多くの要人を迎え入れてきた帝国ホテルが考える食材選びとは——。スイーツならではの視点についても話を聞きました。

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【プロフィール】

エグゼクティブペストリーシェフ 望月 完次郎(もちづき・かんじろう)
1978年「帝国ホテル」入社。90年にアメリカに留学し、翌年、デラウエア州のホテル・デュポンにて技術指導を務める。帰国後、ペストリー課シェフになり、シェフパティシエとして帝国ホテルのデザートを手掛け、現在は次世代を担う若手の育成に尽力している。ワールド・ペストリー・チーム・チャンピオンシップ アメリカ大会アメ細工部門優勝(2002年)、国家勲章である現代の名工(2010年)など多くの受賞歴を持つ。

パティシエが食材を見るポイント

——パティシエと料理人とは異なる点が多いと思いますが、一番の違いは何でしょうか。

パティシエには“良い塩梅”が無いことでしょうか。
料理人は、調味料を加えるなど調整してベストな味にしますが、スイーツでそれをやると大変なことになります(笑)。きっちり計量して温度管理をしながら、レシピ通りに作るというのはパティシエ特有だと思います。

よく料理人との違いを短距離走と長距離走で例えるのですが、料理人は下準備を全て整えたうえで、お客様が来た時に一気に作り、温かいものは温かく、冷たいものは冷たいうちに出す瞬発力が求められる短距離走者だと思います。

パティシエはコツコツ型の長距離走者。スイーツのベースとなるクリームやスポンジから作って、それを使ってチョコレートやフルーツを盛り付けながら積み上げ式で完成させ、ショーケースに並べます。

——調理過程が全く違うのですね。食材選びもスイーツ特有の視点がありそうです。

基本的に砂糖や生クリームなど甘いものと合わせるのがスイーツの特徴です。
例えば生食用にフルーツを買おうと思った時、多くの人は水分が多くて瑞々しく、甘いものを選ぶと思います。
しかしスイーツの場合は、甘いものと合わせるので素材の甘さはさほど重要視していません。
それよりも、甘さを足しても味がぼけないよう酸味があること、果物そのものの香りがあること、そして煮詰めたりしても果実を感じられるような、しっかりとした果肉があることがポイントです。

——生食用で売ることを前提として作っている果樹農家さんは、知らないかもしれませんね。

生食用とは違う!パティシエが求める食材

——食材を農家から直接仕入れることはありますか?

たくさんのお客様に毎日同じ品質のものを提供するうえで、安定して提供してもらえることは重要です。
基本的にはホテルとして調達しますが、私が見学にいった農家とご縁があって、ホテルが仕入れ始めることもあります。

例えば、「モンブラン」の栗のペーストは、和菓子を扱う知り合いから「おいしい和栗がある」と紹介されて現地見学に連れていってもらったのがきっかけでした。

収穫された栗を厳しい検品で選別し、蒸し器にかけ、柔らかくなった栗を人の手でスプーンで丁寧に一つずつくり抜き、砂糖と混ぜ合わせてまた火にかける——。
そんな手間暇かけて作られる工程にも驚きましたが、栗のペーストを食べさせてもらってまた驚きました。栗の味、香りがしっかりして、とてもおいしかったのです。

それからは「和栗のモンブラン」としてずっとお付き合いしています。もう12年になりますね。

和栗をたくさん味わってもらいたいと思い、中にもぎっしり栗を挟んでいます。
また、本場のモンブランは下にカリカリのメレンゲを敷くことが多いですが、美味しいスポンジ生地も味わっていただきたかったので、メレンゲのかわりにスポンジを敷いています。

——フランス菓子を作るうえで、従来はフランス産のフルーツを使っていたところが、国産を採用しつつあるのでしょうか。

昔はパティシエも海外食材に憧れを抱いて使っていた部分がありました。国産フルーツも限られていましたしね。
それが、日本の農家でも色々なフルーツを作るようになり、その品質が上がってきて、“日本人がアレンジした洋菓子”に進化を遂げています。

私はアジアの料理学校で講師をしているのですが、教える際は「ジャパニーズ・フレンチ・ペストリー」として紹介しています。海外の人は日本のフルーツもお菓子も大好きなのでとても喜ばれますよ。
日本の農家で質の高いフルーツを作ってくれるようになったからこそ、私たちパティシエも日本風にアレンジした洋菓子として誇りを持って紹介できます。

——望月さんが求めているフルーツとは、何でしょうか。

味が濃くて個性のあるものです。

以前、佐渡で珍しい黒イチジクを栽培する農家を訪ねたのですが、実がぎゅっと締まっていて味の濃いイチジクでした。生で食べると他のイチジクの方がジューシーだと感じるのですが、火を入れると、とてもおいしくなります。その農家は栽培にもこだわりを持っていて、収穫前にイチジクにモーツァルトの曲を聴かせると仰っていました。味に影響しているかは定かではありませんが、愛情を持って作っている姿がうかがえましたね。
こうした希少価値のある味が濃いものがあったら飛びついてしまいますね!

——形や大きさはいかがですか?

フルーツの種類や使い方にもよりますが、例えばストロベリーのムースのようにしっかり色を出したい時は、外側が多い方が色がよく出るので小さい粒をたくさん使って潰します。ブルーべリーの場合は、ワイルドブルーベリーのような小粒で生食には向かない方が実は加工するとおいしいです。

農家では生食用で売るために、甘味がありジューシーで粒の大きいものを作っていることが多いですよね。
パティシエは焼いたり潰したりと調理する際に合うフルーツを求めているので、生食用とは選び方が少し違いますね。

——生食用以外の視点もあると、農家さんは栽培したフルーツを加工にも生かせるかもしれない。色んな可能性も広がりそうですね。

日本が誇る本当のおいしさの追求

——望月さんは米国留学なども経て、国内外の多くの生産者を見ていると思います。これからの日本の農家に期待することを教えてください。

日本の農家は凄い、と常々思っています。海外の農家も見てきましたが、ここまで手間暇かけて果樹を育てている農家は日本の特長です。技術力と日本人の丁寧な気質があるからこそ、国産のフルーツがここまでおいしく進化しているのだと思います。

パティシエもそのフルーツを使っておいしいスイーツを作ろうと努力してきました。お客様もそれに応えるように、温かくも厳しい目で私たちを育ててくれたと思います。

ところが最近は、写真映えや見た目が重視されがちになり、珍しいものや流行っているものが注目され、全体的に本当のおいしさを追求する姿勢が変わってきているのではと危機感を抱いています。

アジアの若いパティシエを指導していると、決して食材に恵まれている環境ではないのに「もっと上手くなりたい」「世界でトップを取りたい」という気持ちが強くて圧倒されます。

これから次世代を担っていく日本の農家が、パティシエと一緒になってハングリー精神を持って、新しい日本のスイーツを作り上げていって欲しいですね。

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帝国ホテル 東京 ホテルショップ「ガルガンチュワ」


7月から販売する”ザ・スイーツ”「タルト・オ・ペッシュ」
ジューシーな清水白桃を1/2個使用したタルト。爽やかな味わいのフロマージュムースをタルトにのせ、清水白桃をバラに見立てて飾っている。
販売期間:7/1(月)~8/31(土)
料  金:1,650円(税込)

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