ハラールとハラールフードを知ろう!
──まずはハラールの基礎知識から教えて下さい。
ハラールとは、アラビア語で「許されている」という意味になります。その逆でハラームは「禁じられている」という意味があります。この概念を持つのはイスラム教徒、アラビア語で「ムスリム」です。ムスリムは世界で16億人いるといわれていますので、訪日外国人を受け入れるうえで無視はできません。
──ハラールフードとはどのような食べ物でしょうか。
ムスリムの戒律によって、食べることが許された食べ物をいいます。野菜や果物類は、基本的に全てがハラールです。動物に関しては、牛やニワトリ、ヤギ、ヒツジは食べても良いものとされていますが、ハラールの作法にのっとったと畜や加工がされたものでなければいけません。
押さえておきたいのは、「食べてはいけないもの」です。
ナジス(不浄)と考えられている豚や犬のほか、ネズミのように感染症を媒介する恐れのある動物はハラーム(禁じられている)となります。また、アルコールも禁じられています。
──日本でハラール対応をしている店舗や、施設はありますか。
例えば大手スーパーでは、ハラールフード専門コーナーを設けている店舗があります。またホテルでも、ハラール認証を受けた食品を提供したり、キブラ(イスラム教の聖地であるメッカの方角)を示した矢印を客室に用意しているところがあります。料理を提供する際には食材そのものだけでなく、ナジスである豚肉を切った包丁や皿も「汚染されている」とみなされるのでムスリムは使用できません。そのため、紙皿も用意しています。外国人留学生が多い大学の学食では、ムスリムの留学生用に厨房(ちゅうぼう)を分けているところもあると聞いています。
ハラール認証の取得方法とメリット
──ハラール認証とは何でしょうか。
ご説明のとおり、ハラールは厳密で複雑です。しかし、製造工程や加工現場が見えないので、消費者にとって本当にハラールなのか分からないですよね。そこで、認証機関が製造や加工の工程をチェックして、基準をクリアした商品にハラール認証を与えています。
認証機関は、インドネシア、マレーシア、シンガポール、アラブ首長国連邦をはじめとして世界中の国に存在し、日本には民間のハラール認証団体が5~10団体あります。
認証されると、食品のパッケージに付けるハラール認証マークが付与されます。認証機関によってマークも異なりますので、どんなものがあるか知っておけばマークを見て判断することができます。
──ハラール認証はどうやって取得するのでしょう。
まずは、認証団体に相談しましょう。認証団体によってチェック項目は異なりますが、原材料に豚やアルコール由来の物がないか、工場の清掃に使うモップに豚の毛が含まれていないか、など多岐にわたったチェックが入ります。時には認証団体が抜き打ちでチェックに来る事もあるそうですよ。
──ハラール認証を受けると、どのようなメリットがありますか?
訪日するムスリムに手にとってもらうチャンスが増えます。
近年のLCC(格安航空会社)就航によって、インドネシアやマレーシアなどからのムスリムの訪日も増えています。こうした背景を受けて、観光庁が「訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン」として、ムスリム旅行者の受入環境の向上に力を入れ始めています。消費拡大が見込まれる市場で販路を広げられるかもしれません。
また、ご自身が認証を受けた機関が海外の認証機関から認められると、その国に輸出できるようになります。海外では和牛の価値が高い国もあるので、ハラール対応がなされた食肉は、高値で輸出できるチャンスもありそうです。
──日本の農家がハラール認証を受けるうえでの障壁があれば教えてください。
日本の多くの食肉処理場では採算性を考えて、1つのと畜場で牛と豚の両方を加工しています。ハラールでは豚が禁じられているので、この処理では認証を受けることができません。認証を得るためには、牛専用のと畜場をつくらなければならず、農家だけの取り組みには限界があります。また、ハラールの作法に従ったと畜では、メッカの方向をむいて祈りを捧げ処理を行います。さらに、こうした作業はムスリムによって行われることが求められますので、人手の確保も大きな課題です。
農協がハラール認証を取得 農家の先進事例
──日本の生産現場にフィットしたハラール対応はありますか?
例えば、茨城県のJA常陸(ひたち)では、ハラール認証を受けたアイスを生産しています。地域の特産品を生かして米と豆乳で作っているのですが、動物由来の原材料を使っていないのでハラールフードではないか、という話になって認証を受ける流れになりました。
また、よつ葉乳業では、十勝主管工場のチーズのほか、道内工場の脱脂粉乳、バター、生乳、乳製品などの生産ラインでもハラールに対応しています。
現実問題としてハラール対応が難しい生産現場は多いものの、JA常陸のアイスのように、意識して作っていなくともハラールの条件を満たしている事があります。そこで日本に住む人、訪れる人、誰もが安心して食べられるとアピールする為、ハラール認証を受けると商機を得られる可能性があります。また、例えば訪日外国人に人気の観光地などが、産地としてまとまってハラール対応をしたとなったら、良いPRになるのではないでしょうか。
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今回西原さんから話を聞いて、消費者が多様化する事で今後、ハラールに限らずいろんな食スタイルが増えていく事がわかりました。ムスリムのように宗教上の規制がある人たちだけではなく、特定の食品に対してアレルギーを持つ人や、ヴィーガンなど特定の食に対して制限を設けている人も、自分が食べようとしている物の原材料がわかれば安心です。今後、皆さんも、意識して食品表示をチェックしてみてはいかがでしょうか。