次にくるのはアジア野菜!?
ある日、私がパクチーを出荷しているタイ料理屋さんの店長に、タイから取り寄せたという大量の種子を手渡された。
タネ袋には、見たこともない形のナスや葉物野菜の写真があり、「なんじゃこりゃ!」の嵐。アジアには、私の知らないアジア野菜がいっぱいあるみたいだ。
こんなものをつくっている人は周りにはいない。うちでつくれるかも定かではない。だが、これはチャンス。誰もつくっていないからこそ、一人勝ちできる。儲かる。そして何より、知らない野菜をつくるのは農家として、燃える。
そうは言っても、タネ袋はタイ語で全然読めない。アジア野菜のことをもっと知りたい!
そこで今回は、もともとタイに住んでおり、現在は神奈川県の市民農園でいろんなタイ野菜を育てている三浦孝人(みうら・たかと)さんにアドバイスをもらいつつ、アジア野菜の栽培に挑戦してみた。
ポスト空心菜? パック・カナーの栽培レポート
炒め物にすると絶品
タイ料理屋さんで食べたパック・カナー(カイラン菜)の炒め物、そのおいしさに感動して、私も栽培を始めた。
アブラナ科で、菜花のように、伸びてきたトウの花茎を食べる。カリッコリッとした小気味のいい食感と、ほのかな苦味が特徴で、強めに炒めてもシナっとならず、筋というものがない。他にない野菜だ。
タイの炒め物には欠かせない野菜で、豚肉と炒め、ニンニクとトウガラシを利かせた濃いめの味付けにする。「空心菜よりおいしい」とは、先のタイ料理店の店長の言葉だが、私もそう思う。ぜひこれから広まってほしい野菜だ。
ポスト空心菜!?
栽培はとっても簡単で、収穫までが早い。発芽率が高いので直播(ちょくはん)でも難なく育つが、種子代もそこそこするのでセルトレイで育苗したほうが財布に優しい。3月下旬にタネをまくと、5月中旬頃からトウ立ちが始まり、収穫できる。しかも、厳寒期以外はほぼ通年播種(はしゅ)でき、葉物野菜がつくりにくい夏場にうってつけ。空心菜は収穫が遅れるとすぐ硬くなってしまうが、パック・カナーにはそれがない。
ただ、「高級野菜」というだけあって、収量はイマイチ。最初に出たトウを収穫するとわき芽が出てくるが、短いままに花がついてしまう。10センチ間隔の密植にして一度きりの収穫にしたほうが、いいものがとれる、と思う。
難易度高! タイ料理好きが探し求めるパクチー・ファラン
強烈なパクチーの香り
日本で「パクチー」といえば一般的にコリアンダー(香菜)のことを指すが、タイでは魚料理によく使われるハーブ「ディル」のことを「パクチー・ラーオ」と呼ぶほか、「パクチー・ファラン」もある。同じパクチーとはいえども、どれもコリアンダーとは似て非なるもの。ファランの場合、セリ科なのはコリアンダーと一緒だが、花壇苗でよく見かけるエリンジウム(マツカサアザミ)の仲間だ。
ファランはコリアンダーよりも香りが数倍強く強烈。数株あるだけで家中がパクチーの香りで満たされる。タイでは生の葉っぱを細かく刻んでサラダに混ぜたり、東北部ではスープに入れて煮込んで香りづけに使うそうだが、日本では普通の食材店にはまず置いていない。コアなタイ料理ファンが探し求めている食材だ。
発芽するまで気長に待つ
ファランは発芽させるのが難しい。私も2年間失敗し続けているし、周りの人に聞いても「一つも芽が出なかった」と言うし、三浦さんもほとんど成功したことがないそうだ。
三浦さんのお宅にあったタイ語の家庭菜園本を見せてもらうと「5〜6月頃に播種する」とある。その頃のタイは、雨期に入って、涼しくなる時期(平均気温28度前後)だそうで、「もしかしたら、保湿を十分にしないといけないかもしれませんね」と三浦さんが言う。
その話を参考にして、バーミキュライトに播種して寒冷紗(かんれいしゃ)で保湿し、無加温ハウス内を最高気温30度に保ったところ、20日後の5月22日に見事発芽。
パクチーと比べて発芽には随分時間がかかるようだ。これまでは発芽するまでが遅いので「失敗した」と見限って、捨ててしまっていた。
食用花やカボチャのツルも ~その他の万能野菜~
ワンランク上のエディブルフラワーにいかが? アンチャン(蝶豆)
「エディブルフラワーにどうですか? キレイですよ。アサガオのように行灯(あんどん)仕立てにしてもいいですしね」と三浦さん。
つる性のマメ科の植物で、濃い紫の可愛い花が咲く。別名はバタフライピーといい、花が蝶のような形をしている。タイではこの花を摘んで、乾燥させてお茶にしたり、染料や着色剤として利用したりしているそうだ。
茎もタネも丸ごと食べられる! ファクトーン
「直売所なら、ヨート・ファクトーンもいいと思いますよ」と、三浦さん、やたら推す。その正体は、なんと、カボチャ(ファクトーン)のツル(ヨート)。新芽の軟らかい部分を、オイスターソースなどで炒めたり、スープにも入れたりするそうだ。タイでは果実の部分だけでなく、茎もツルも花もタネも、全部丸ごと食べる。
アジア野菜そのものだけではなく、アジアの食べ方を提案することでも稼げそうだ!
写真協力:カオニャオヒルズ