「これ、食べられるのになんで捨てるんだろう?」
──どんな作物を育てているのでしょうか?
私の家があるのは栃木県ののどかな田園風景が広がるエリア。そこでキュウリとお米をやっています。キュウリはハウス栽培と露地栽培をしていて、露地栽培のほうはキュウリの後にインゲンを植えています。
──現在取り組まれている廃棄野菜について、問題意識を持ったのはいつのことなのでしょう。
大学生になった時だったと思います。高校生まではずっと実家にいたので、農業を中心にした世界しか知りませんでした。大学に入り一人暮らしをすると、それまで家にあるのが当たり前だった野菜がありがたいものだとわかってきました。それと同時に、それまで無視していいものだと思っていた廃棄野菜に違和感を持ったのです。「これ、食べられるのになんで捨てるんだろう?」って。
──すぐに何か行動に出たのですか?
大学を卒業した後は会社員になり、しばらくその問題は考えているだけという状態でした。農家を継ごうと決心して会社員を辞めて実家に帰った時に、いよいよこの問題を解決しようと乗り出しました。
──何から始めたのでしょう。
道の駅などに直売コーナーがあるじゃないですか。ああいったところをまわって、サイズや形が規定に満たないキュウリを扱ってもらえないか頼んでみました。でも、形が不揃いなことを理由に断られてしまいました。さらには、売り先を勝手に自分で探すな!という親との衝突もあり、なかなかことがうまく運びませんでした。昔ながらの農家では農協出荷が当たり前。売れ残りを回収するなどの手間がかかる直売は、家でも歓迎されなかったのです。
視点を変えて加工食品でリベンジ
──それでも諦めなかったんですね。
はい。ちょっと視点を変えてみようと思いついたのが加工食品でした。今の時代に合うように経営を方向転換させなければと考え、たくさんのイベントに足を運んでみて得た発想です。
──そこから、加工の方法を模索し始めた?
それが、私は運が良かったのです。イベントで偶然知り合った方の紹介でさらにイベントに参加し、そこで農家の食材を使ってカレーを作りたい方がいると紹介されました。それが、今一緒にピクルスを作っている「KITSUNE CURRY STAND」の宮田剛(みやた・つよし)さんです。
──加工は、パートナーを見つけたのですね。
そうなんです。はじめはカレーを作るのにお米を提供したのですが、キュウリの廃棄野菜の話をしたら、「それならピクルスがいい」ということになりトントン拍子に話が進みました。
コンセプトがあれば、ブレずに商品を作れる
──どういった手順で商品を作っていったのですか?
まずコンセプトを宮田さんと話し合いました。私たちの思いに共通していた「フードロスを少なくすること」をコンセプトにしました。
次に中に入れる野菜や味付けを宮田さん中心に作っていきました。コンセプトに合うよう、宮田さんの運営しているカレー屋さんで廃棄される野菜なども一緒に漬け込むことにしました。そして最後に足を使ったマーケティング調査です。
実際にマルシェや道の駅でピクルスを買い試食しました。そこで出た感想が、競合商品は全体的に酸っぱすぎるように感じられたことと、瓶詰めにするときの見映えが重要だということ。そこで、大きめの瓶に入れて見映えをよくし、さらに甘みやスパイスにこだわって作ろうということになりました。宮田さんのお店で廃棄されるレモングラス、コブミカンの葉っぱ、パクチーの根っこなどの香りの良い食材とスパイスを漬け込み甘口に仕上げることで、若い人や女性に好まれそうな味に仕上げました。
──はじめにコンセプトを決めておくことでブレずに進めていけたのですね。
そうですね。さらにそのコンセプトが二人とももともと持っていた問題意識だったのも強いと思います。
──収益についてはどう考えていますか?
テストマーケティングとPRを兼ねてクラウドファンディングにも取り組みました。さらに卸先にはカフェなどを考え現在開拓中です。でも、このピクルスでは最初は利益よりも、実績を重要視したいのです。
──というと?
ピクルスは利益を出す装置ではなく、廃棄野菜の現状を知ってもらったり、私たちの活動を知ってもらうきっかけにしようと思っているのです。これをきっかけに私の作る野菜やこの活動に興味を持ってもらえたらと思っています。
まずやってみること、全部自分でやろうとしないこと
──同じように農業を営んでいて加工品を作ろうとしている人に何かアドバイスはありますか?
私もまだまだなので、アドバイスというほどではないですが、まずやってみることです。私の場合は、まず参加してみたイベントで今回のコラボレーションの道が開けました。家で悩んでいても始まらないので、外に出てみることです。各地域の農政課や振興事務所にもシェフが招かれたりすることはありますが、そういったところに招かれている有名シェフとコラボレーションするよりも、意気投合する仲間を自分の足で見つけたほうがスピードが上がります。イベントやネットワーキングにはもちろん当たり外れがありますが、懲りずに行けばいい人に出会えるという実感があります。そして、自分ひとりでやろうとしないこと。私もひとりでこのピクルスを作るのは無理だっただろうなと思います。
──今後の展望を聞かせてください。
「顔が見える農家」になるのが私の夢です。私のところのキュウリを食べてみたい、と言ってもらいたいし、直接畑を見てみたいと言われたら喜んで案内できるような農家になりたいですね。また、農家だけにとどまらず、フードロスの課題を解決するため、現在敷地内にピクルスの加工所を作る計画を進めています。ピクルスを売り歩くキッチンカーを作ろうというアイデアもあり、さらに多くの廃棄野菜を救えるよう活動していくつもりです。
KITSUNE CURRY STAND
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小さなキュウリが廃棄野菜を救う!「農家とカレー屋が作ったピクルス」
※クラウドファンディングは終了しました。