自分の色を付ければ、農業はもっと面白い “桃の宝石”を磨き上げる匠のメッセージ
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生産者の試み
山梨

自分の色を付ければ、農業はもっと面白い “桃の宝石”を磨き上げる匠のメッセージ

自分の色を付ければ、農業はもっと面白い “桃の宝石”を磨き上げる匠のメッセージ
最終更新日:2019年07月01日

フルーツの大産地・山梨県で、贈答用など高品質な桃を栽培して50年の「やまなし内藤農園」(山梨市)。生果や加工品が海外でも人気を集め、収穫期限定で営業する農園カフェは県内外からの訪問客で行列ができる盛況ぶり。二代目園主の内藤裕一(ないとう・ゆういち)さんから、こだわりの栽培方法や、輸出や農業の担い手不足解消という時代のキーワードへの思いを聞きました。

ポイントは、適期での木の“お手伝い”

内藤農園では、白桃や黄桃など例年16種類を、250アールの畑で栽培しています。減農薬・有機肥料で土壌を作り、木の上で完熟させてから収穫するなど、こだわりの農法で育まれた大玉で甘い桃たち。農園のオリジナルブランド「ジュエリーピーチ®」として県内外で、そして海外でも人気を得ています。

――「ジュエリーピーチ」とは?栽培のこだわりも教えてください。
ジュエリーピーチとは、やまなし内藤農園独自の栽培方法から生まれたオリジナルの桃です。色が濃いことも特徴の一つなのですが、赤く色づいた桃が夏の太陽に当たってキラキラ輝く姿は、とても奇麗なんですよ。山梨県は宝石の産地なんですが、私たちは‟大地の職人”というつもりで農業をしていますので、「宝石のように磨き上げて作る」という思いも掛けて名付けました。

作り方のポイントは、ベストタイミングを見失わず「適期」に作業を行うことです。
春には、桃が前年に蓄えた体内のエネルギーを使って花を咲かせます。養分をかなり使うので、枝数が多すぎると、養分が散ってしまう。無駄なエネルギー消費を防ぐために、一番いい時期に余分な枝を取り木の骨格を作る「剪定」をしてあげないといけないんですね。

桃は生命力が強い植物で、一本の木に約2万5千個もの花が咲き、受粉すると全てが結実します。当農園では大きく甘く育てるために、全体の2%になるまで花や果実を落とします。その結果、枝一本にひとつも実が残らないこともあります。いうならば、2%の候補生のために、すごく厳しい‟選考会”をするわけです。

残した物にエネルギーを集中させたいので、剪定や実を間引く「摘果」もできるだけ早く、かつ適した時期に行います。

6月末から始まる収穫もタイミングが重要。気温にかなり左右されます。午前中に畑を見回ったときにはまだ熟れていなかった実が、午後には落ちそうになっていたり。春の受粉作業も朝から待ち構えて、晴れて気温が15℃以上になったら、さぁいくぞ!と一気にやるんです。

春に行う受粉作業の様子。先端の羽毛部分に花粉を付けた道具を使って、丁寧に作業します。「ミツバチになった気分で作業をします」と内藤さん

自然相手の仕事なので、自分たちの都合通りにはなかなかいかないですね。桃の木の都合に合わせて、こちらが‟お手伝い”するしかなくて。一番都合のいい時にサポートをしてあげると、いい物ができるんです。

お客さんとの会話を栽培に反映

がっしりとした手のひらが印象的な内藤さん。造園業時代から剪定ばさみを多用してきた影響だといいます

――農園を継ぐ前は、庭師として働かれていたそうですね。
はい、桃以外の植物の扱い方も勉強したくて、造園業へ修業に出ました。

造園業では木の根っこを切って移植することが多いのですが、根をどこまで残せば植えた後もよく成長するかを考えて切ります。切り過ぎてはダメだし、残しすぎると移動させるときに、養分を吸収してくれるヒゲのように細かい根が切れてしまいます。また、蒸散作用による水分不足で木に負担を掛けないように、移植する時は適量の枝葉を落としてあげた方がいい、というようなことを勉強しました。
植物の道理は同じなので、桃の栽培にもかなり生かせていると感じます。

――現在は、ほぼ全量を直売したり、加工品の製造や農園カフェの運営など多角的な経営に挑戦されています。
私が後を継いで8年目くらいまでは、生産量の100%をJAに出荷していました。そのうちに、「私たちの農業はどのレベルにあるのか」「お客様にはどのように評価されているのか」が分からなくなって。

例えばですが、桃の硬さの好みって本当に人それぞれなんですよね。私たち生産者は、収穫して間もない桃を食べるので、小さい頃から親しんでいるのはしっかりした硬い桃。なので、おいしい桃といえば硬い桃なんです。直売を始めてすぐの頃、「よし、これだけ硬い桃なら満足してもらえるぞ」と自信満々で出荷したにもかかわらず、お客さんから「硬過ぎる」とクレームが届いたり。自分たちとは逆の好みを持つ人が多いということを、知らなかったんですね。

ある時から、インターネットでの直売に挑戦することになりました。そうすると、お客さんからいろいろなことを教えてもらえるんですよ。「おいしかった」という感想から、「味が載っていない」というクレーム、硬さのリクエストまで。

周囲の様子を理解せずに、自分たちにとって「いい物」だけを作っていると求められる物ではなくなってしまいます。お客さんから意見をもらい栽培に反映させる、ということを繰り返していき、今ではほぼ100%を直売しています。

試食小屋から発展した農園カフェを始めてからは、お客さんの顔を見ながら対話できるようになりました。お話を聞いていると、どうも産地から遠い所に住む人は柔らかい桃を好む傾向があるようです。

――2014年からは、生果やネクター(100%ジュース)を香港へ輸出されています。
初めは、現地スーパーの店頭でPRしても、見向きもしてもらえず叩きのめされるような日々でした。それが、年々お客さんの反応が良くなってきて。街にお洒落なカフェが増え、健康志向が高まるなど、食文化が少しずつ変わってきた影響かなと思います。

特に現地の若い人は、和牛にブラッシングまでして愛情を掛けるような、日本独特の「物を作り上げる」技術の尊さを理解してくれている気がします。今では多くの人に「おいしい」と言ってもらえるようになり、いまも現地の高級スーパーに常設で商品を並べてもらっています。国内取引が主なので輸出にまわす量が不足しているのが現実ですが、畑に通ってくれたり、「いい物をもっと広めたいから、数カ月桃の世話をさせてほしい」と言ってくれるインポーターさんもいます。

香港に送っている生果は月に400箱、ピーチネクターは3000本くらい。輸出って、すごくもうかると思われがちなのですが、国内取引と変わりありません。これからも海外取引にチャレンジして、色々な国の方に日本のおいしい桃や加工品を紹介できればと思います。

――輸出を始める時には、完熟桃を傷ませずに届けるため、宅配便の送付テストを重ねたそうですね。

やりましたね。最初はとにかく勝手が分からないので、納得がいくまで自分の目で確かめたかった。当初は傷付いて黒くなってしまったりと、あまり良い結果にならなかったです。いろいろな状況を想定して何度も送り、傷みやすい場所を特定して梱包資材を工夫したり、香港にある運送会社の事務所や集配センターを見学して扱われ方を把握したり。

今ではお客様からのクレームはほとんどなくなりましたが、業者さんが落としてしまうなどの不慮の事故はありますよね。その場合は、着払いで送ってもらってこちらで全て交換します。ただし、交換したって最初の印象は二度と変えられないもの。僕らは贈答品だけでなく、送り主の「思い」を届けるお手伝いをしているので、受け取り手がびっくりして喜ぶ顔を想像しながら、スタッフ皆で心を込めて桃を箱詰めしています。

「自分の色」を付ければ、農業はもっと面白い

――今、内藤さんが力を入れていることは何ですか?
今までは、自分が生産した物を知ってもらうことに力を入れていましたが、輸出をするようになってからは、「オールジャパンで戦わないと」と思うようになりました。「日本産」に良いイメージを持ってもらっているのだから、ブームに乗って儲けようとするあまり質の悪い物まで出して値崩れを起こさせるようではだめで、良い日本産品でマーケットを固めていくことが肝心。ちゃんとした物を作るには、ちゃんとした作り手が必要。なので最近は、後継者を育てて次の時代にバトンを渡さなくては、と強く感じています。

この辺りでも、全国と同様に担い手の高齢化が進んでいます。今私は50歳ですが、自分の父親世代が最も多い。現在農業を支えてくれている彼らも、いずれは農業ができなくなっていく。農地が空き、一度土地が荒れ果ててしまうと、元に戻すのはとても大変です。

やまなし内藤農園では、農業大学校に通う就農希望者を受け入れることと、若い世代に技術を伝えやすくするために気温など圃場の状態や季節ごとの作業内容をデータ化し、保存することに力を入れています。誰もが理解できるようにデータに基づいてロジカルに、そしてかみ砕いて伝えないと、担い手不足は上手に解消できないと思います。良い技術をできるだけ多く、次の世代に伝えていきたいですね。

農園のスタッフは20~30代が多いですが、カフェでお客様と交流したり、プロモーションで海外へ行ったりといろいろな経験をしてもらっています。情報化社会だからこそ、若い人には実際に自分の目で見て感じてもらいたいです。

――内藤さんが考える、農業の魅力とは?
第一次産業なので、どんな形にも変化させられるところ。いろいろな産業と絡められるし、海外も見据えれば可能性はもっと広がります。

僕らもネット販売やカフェを始める前は、農産物を作ってトラックに積んで出荷しに行って、また畑に戻って出荷して……ということの繰り返しで、人には会わないし見るものは伝票だけ、というような生活でした。でも、今はこうやってお客様と話をすることで、自分たちの立ち位置を理解しながら、様々なことに挑戦できるようになりました。

若い人なら、私たち世代では思い付かないようなことを上手くやっていくはず。見せ方も伝え方も上手いですしね。これから新しく農業を始める人も、いつかは「自分の色が付いた農業」を創り上げたらもっと面白いと思うんです。その色を付けられるようになるまでは、自分たちがお手伝いをするので、形をしっかりと作れるようになってから色を塗ってみればいい。なので、まずは自分が目指す農業の像を持ってほしいですね。

農業を魅力的な仕事にしないと、若い人たちも入ってきてくれないので、私たちも「未来に続く農業」というのはどういうものだろう、と自問自答しながら追い求めていきたいですね。

やまなし内藤農園

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