マスコミ取材も来る! 中部農林高校とは
沖縄県は高温多湿で海洋の影響を強く受ける亜熱帯海洋性気候である事から、本土には見られない沖縄の伝統的農産物(島野菜)が28種類(沖縄県農林水産部調べ)もあるそうです。しかしながら農家の高齢化や、若い世代を中心とした伝統料理離れといった原因により、沖縄伝統野菜の文化は廃れつつあります。
そんな中、中部農林高校で農畜産物の加工・品質管理などを学ぶ食品科学科の生徒たちは「企業や行政と連携した沖縄伝統島野菜の継承活動」や「食や農業の大切さを伝える食農教育」をする事で、地域農家の課題解決を図っています。その一環として、沖縄で古くから親しまれているグアバの茶葉を粉砕したパウダーを使った商品開発は、全国の農業科や総合学科の生徒11万人で構成される「日本学校農業クラブ連盟」の九州大会で優秀賞を獲得しました。また、クワンソウの普及活動は多くのマスコミに取り上げられ、沖縄伝統野菜のPRに一役買ったのだとか。これらの2つの取り組みについて詳しく紹介します。
グアバのクセを逆手にとった商品開発
古くから沖縄県の人々に親しまれてきたグアバは、別名を「バンジロウ」と言います。果実がおいしいだけではなく、葉の成分が糖の吸収を穏やかにする働きを持つということで健康食品やお茶に加工され、沖縄県うるま市の特用作物(食用以外の特定の用途にあてる農作物)に認定されています。そんな中、農事組合法人グァバ生産組合から中部農林高校に「グアバ茶葉パウダーを使ってお茶以外の加工品を開発し、新たな販路を確立できないか?」と、相談が持ち掛けられました。
そこで生徒たちは、幅広い年代に気軽に食べてもらえて、グアバ茶葉の風味を生かせるパウンドケーキの試作を始めたそうです。パウンドケーキの開発途中の課題として、グアバ茶葉のアク成分を抑え、えぐみをなくす必要がありました。この課題は、カルシウムの多い黒糖を加えることで改善されたそうです。また、グアバ茶葉パウダーを使った加工品の販路を確立するという課題については、中部農林高校の近所にあり生徒にもなじみ深い「和洋菓子と総菜の店ふくや」と提携する事で、継続的に製造・販売が可能になりました。
その後「グァバのクセがクセになる!? ばんじろうのおやつ」と命名されたパウンドケーキの販売が始まり、1カ月の販売個数は510個となりました。完成した「ばんじろうのおやつ」をこのペースで1年間販売できたと仮定すると、茶葉の利用量は8000グラム前後になる事から、「お茶以外の茶葉の利用方法」を確立し、新たな販路を築くという課題を解決できた、と生徒たちは語ってくれました。
その結果、沖縄県うるま市の島袋市長から「高校生が作ったとは思えないほど、商品の完成度が高い」と評価されたそうです。今後はお土産としての改良や、地元マルシェでの販売を進め、うるま市と言えば「ばんじろう」と言ってもらえるよう活動を継続していきたい、と生徒たちは意気込んでいました。
地域PRに一役買ったクワンソウ普及プロジェクト
クワンソウはユリ科の多年生植物で、沖縄の方言で「ニーブイグサ」と呼ばれています。「ニーブイ」とは「眠り」を意味し、昔から安眠をもたらす 「クスイムン(薬になるもの)」として親しまれてきました。このクワンソウはお年寄りには知られているものの、中部農林高校の生徒の95%はクワンソウの事を知らなかったそうです。
そこで「地域の若い世代によるクワンソウの普及拡大」を課題とし、2017年度に花の鮮やかなオレンジ色を生かしたドレッシングを開発しました。さらに2018年度は、年中収穫できるクワンソウの「葉の魅力を引き出す」ドレッシングの開発にも取り組んだそうです。
そこで課題となったのが、保存性。2017年度の花を使ったドレッシングはノンオイルタイプで要冷蔵であった事から、2018年度版は将来的にお土産として流通させる事も視野に入れ、常温で保存できるオイルタイプにしたそうです。オイルタイプにする事で保存性が高まっただけではなく、葉の鮮やかな緑色を保ち、脂溶性ビタミンの吸収を助ける相乗効果が生まれ新たな「クヮンソウかけるドレッシング」が完成しました。
校内の給食でドレッシングをかけたサラダを提供したところ「こんなにおいしい島野菜があるとは知らなかった」「くせがなく食べやすい!」といった感想があり、クワンソウを知らない生徒たちに、食を通して魅力を伝えることができたようです。
「クヮンソウかけるドレッシング」は、生徒たちが日々の実習で栽培・製造した農産物を販売する場「中農市(ちゅうのういち)」で人気を博したそうです。また、この取り組みは新聞やラジオなどのマスコミに取り上げられ、多くの人にクワンソウの魅力を発信する事ができた、と生徒たちは語ってくれました。
目指せ! 農業の新・3K~中部農林高校の目標とは
これらの課題解決に取り組んだ生徒たちの、将来の目標は新・3K。「かっこいい、感動がある、稼げる」農業を目指していくことだそうです。古くから伝わる沖縄伝統野菜という文化と地元農業に若者が積極的に関わっていくことで、うるま市の農業がさらに進化していく将来が見える気がしました。