「男飯塾」って何?

「料理が不得手でも男飯塾なら肩ひじ張らずに楽しめる」というナチュラリズムファームの大皿さん(右)
男飯塾の目的とは
男飯塾は、地域の農業を引っ張る数名の農家によって発案されました。その中の一人が、神戸市内で有機農業を営むナチュラリズムファームの大皿一寿(おおさら・かずとし)さんです。脱サラして農業をはじめたものの、農作業に追われて自宅で料理をする機会がなく、就農当初から「プロに野菜料理を教えてほしい」という希望があったそう。
さらにファーマーズマーケット出店などで対面販売が増え、直接お客さんに野菜の話をする必要性が高まり「自分の野菜を自分で料理して食べる経験をもっと積まないと」と考えるように。そこで、以前から取り引きがあった神戸の居酒屋「いたぎ家」店主の板木平さんに相談し、講師を依頼。今年はじめに男飯塾が発足しました。

講師の板木平さん(右)が、ジャガイモの芽の取り方から指導してくれます
男飯塾の目的は、よくある料理教室とは違います。講師の板木平さんは次のように力説します。「農家さんが自分の経験に基づいて、“よりおいしい野菜の食べ方”をお客さんに提案できるようになれば、売り上げはもっと上がるはずなんです」。男飯塾が目指すのは、ただ単に料理の腕を上げることではありません。料理体験によって販売力を強化することが目的です。
開催場所や参加費など
男飯塾の開催場所はファームスタンドというお店。神戸市内でほぼ毎週土曜日に開催されている神戸ファーマーズマーケットが、その常設店として昨年オープンさせた地域密着型の人気ショップです。店内のキッチンスペースを参加者が囲み、立食パーティー形式で飲んだり食べたりしながら料理をします。何とアルコールもOK! 筆者が訪ねた日は、皆さんビールを楽しんでいました。
参加費は1人2000円で、農家や市内の農業に携わる男性、計7~8人が参加。参加者の募集は大皿さんがFacebookを通じて行っているそうです。
通常の料理教室と違う3つのポイント
男飯塾は、一般的な料理教室とどこが違うのでしょうか。ポイントが3つあります。
1.「さじ」も「だし」も使わない
料理に苦手意識を持つ男性でも楽しめるように、男飯塾では面倒くさいことはしません。この日のレシピは、「男のポテサラ」「野菜のバター蒸し」「いろいろ野菜天ぷら」の3種類でした。「だし」は一切使わず、計量スプーンや計量カップは一度も登場しません。
2.「加熱」で野菜をおいしくする
そして基本的に「生野菜は使わない」のが板木平さんのこだわりです。
「野菜って生がいちばんおいしいって皆思ってるでしょ。しかも農家さんから新鮮な野菜を買うなら、なおさら生で食べるのが良いってなっちゃう。でも、全然そんなことないんです。野菜ってちょっと加熱するだけで甘みが増して、絶対おいしくなる。蒸すだけ、揚げるだけで、トマトはよりジューシーになるし、根菜類は甘くなる。そういうのを農家さんにも体験してもらって、販売の際の“あとひと押し”に生かしてもらいたいんですよね」と板木平さんは言います。
3. お客さんに説明しやすい簡単さ
生野菜は確かにおいしいけれど、商売としては壁になることもあります。「ちょっと加熱するだけ」の提案で、その日に売れる野菜が5袋でも増えてくれたらいいというのが板木平さんのねらいです。
「このトマト蒸すとおいしいんです、このニンジンはスライスして揚げると甘くなるんですっていう一言が、農家さんの口から出てほしいですね」。このような会話術は、簡単なようで難しいもの。実体験がないと、説得力もないかもしれません。
農家の声 ~販売にどう生かしているか~

天ぷら用のニンジンをスライスするキャルファーム神戸の千葉さん(左)。2回目の参加だそう
加熱用トマトの売れ残り改善へ
では、男飯塾での料理体験は、実際の対面販売でどのように生かされているのでしょうか。参加した農家の皆さんに聞いてみました。
トマト農家・キャルファーム神戸の千葉涼(ちば・りょう)さんは次のように話します。「マルシェでは生食用のトマトは売れるのですが、加熱用のトマトが売れないのが悩みなんです。でも、今日ミニトマトの天ぷらをはじめて食べて、おいしくて驚きました。蒸し野菜は作り方も簡単ですし、自信をもってお客さんにオススメできます。男飯塾でふだんと違った料理を食べると、よりいろんな食べ方を提案できるようになります」

板木平さん流の「蒸し野菜」は、蒸し器を使いません。ひたひたの水に旬の野菜を入れ、少量のみりん、しょうゆ、バターで味付けしました
買い手の立場に立ったパッキング
ナチュラリズムファームの大皿さんは、実際に自分で料理をすると、買い手の立場になって売り方を考えられると言います。「加熱する時に火の通りを均一にするためにも、ジャガイモやトマトはできるだけ大きさを揃えてパッキングした方が良いと改めて理解しました」。
また、男性の農家は女性に比べるとコミュニケーションが希薄になりがちなため、料理の経験値を上げるだけでなく、地域の農家同士が親睦を深める場としても男飯塾が貴重な場になっていると教えてくれました。
農作業の活力にも!
森の農園の森野和彦(もりの・かずひこ)さんは、男飯塾に参加すると次の日の農作業に力が入るのだそうです。「今日はうちのニンジンを皆さんと食べて、何度もおいしいと言ってもらえて、また頑張ろうと思いましたね。農家はお客さんから苦情が入ることもあるし、落ち込む日も多いんです。楽しく飲んで食べて、苦労して育てた野菜を褒めていただいて。男飯塾が活力になっています」

ニンジンの天ぷらを揚げる、森の農園の森野さん。見学に来ていた森野さんのお子さんも、パクパクと天ぷらを食べていました
男飯塾は今後も2~3カ月ごとに開催される予定で、その時々の旬野菜の食べ方がレクチャーされます。「もっと野菜を売る方法を考えないと。農家さんにビジネスチャンスを逃してほしくない」と板木平さんは言葉を強めます。
対面販売を行う農家にとって、料理のプロに野菜の扱い方を相談できるのは心強いようです。あらゆる地域で、このような取り組みが広がってもいいのではないでしょうか。

料理が終わるとファームスタンドのスタッフも集まり、地域の農業について話し合う時間を過ごしました