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どうなる? コメの先物取引 大阪堂島で本上場申請

齋藤 祐介

ライター:

どうなる? コメの先物取引 大阪堂島で本上場申請

日本の主食であるコメは、食料安全保障上の重要作物として産業構造の変化に対応するように、政策、技術など新しい取り組みの議論の対象となっています。今回はあまり触れられることのない、金融によるアプローチ「コメ先物取引」について説明します。

コメ先物取引は大阪堂島商品取引所(大阪市)で試験上場中ですが、2019年7月現在、本上場させる申請が進んでいます。本記事では、コメ先物取引の仕組みや歴史、メリットについて紹介をします。

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将来の取引を約束する「先物取引」という仕組み

大阪堂島商品取引所はコメ先物取引を2011年より試験上場しています。今年2019年に入り、試験ではなく、期限を設けない常設の本上場へ移行するために、農林水産省に認可を申請する方針です。本上場申請は2年前に続いて、2回目の申請になります。この申請に対して、農林水産省やJAグループ、農家、コメ卸などそれぞれで賛否の議論が行われています。

そもそも、先物取引とはなんでしょうか。簡単に言うと、「期日を定めた将来の売買について、前もって決めた価格での取引を約束すること」です。

具体例で言うと、1年後のコメ売買を現時点で決めた値段(例えば1000円)で行うことを約束することです。実際、1年後の実際のコメ価格が500円だろうが、1500円だろうが、事前に約束をした1000円で取引が行われるわけです。

先物取引をすることで、商品が値下がりした場合(500円になった場合)、買い手は実質的に損をすると感じられるかもしれません。また、値上がりした場合(1500円になった場合)は、売り手が損をする形になります。

しかし、先物取引によって、売り手は値下がりの損を避けられますし、買い手は値上がりの損を避けることができます。これが先物取引の最大のメリットです。価格があらかじめ決まることで、価格変動のリスクが抑制でき、長期的な経営計画を立てることができます。

このような先物取引は株式でも行われますが、それ以外にも商品先物取引という形で、大豆・トウモロコシといった主要穀物、金銀といった貴金属、原油・ガソリンといった石油商品などで行われています。

世界最古の先物取引を行う大阪堂島

蔵が建ち並ぶ安治川沿いの様子。この上流に堂島がある(「菱垣新綿番船川口出帆之図」大阪市立中央図書館蔵)

なぜ大阪堂島商品取引所が率先してコメ先物取引を試験上場しているのでしょうか。実は数百年前の事情が関係しています。

今是非が問われている「コメ先物取引」ですが、実は江戸時代にすでに行われていました。1730(享保15)年に江戸幕府から取引が認められ、その先物取引が行われていた市場が「天下の台所」大阪にある堂島米市場です。

この市場は、商人が多く米の値段が高くつきやすかった大阪で、大名達が米を売買する際に実物を運び保存する手間と費用を削減するために作った「米切手」(平たく言えばお米券)を発行したところから始まりました。その米切手をまだ収穫が終わっていない将来の収穫物に関しても売買を始めたことから、先物取引が始まりました。

戦時中の1939年に政府が廃止するまで存続しており、世界で最初の先物取引市場ともいわれる有名な市場でした。

そのため、同取引所はコメ先物取引の「復活」には格別の思いがあるのかもしれません。

コメ先物取引のメリット・デメリット

コメ先物取引の最大のメリットはなんといっても「価格が先に決まること」です。コメの先物取引なら最長1年後の価格を決められます。現在、コメ価格はJAグループの示す価格が指標とされていますが、その発表は秋の収穫直前にしか行われません。1年後の価格が先にわかれば、その価格にあわせて、作付け面積などの計画が立てられるというわけです。

現在増加している大規模農家は、この先物取引のメリットをより享受できるかと思われます。大規模農家は、総売上高が大きく、価格変動のインパクトが如実に利益に反映されます。家族以外の人材採用や資材購入など投資も多いため、価格予測の見誤りは経営破綻の危機を招きかねません。一部の作物の価格を、先物市場で安定させておくことで、経営計画にそった経営が可能になります。

一方で、コメ先物取引の懸念はなんでしょうか。投機マネーが流入することで「価格が異常に高騰すること」が心配されています。もともと価格を安定させるための仕組みである先物取引ですが、市場に異常な価格変動を作りだしてしまうことが起こり得ます。

この問題に対する一つの解決策は、先物市場での取引の絶対数を増やすことです。取引数が少ないと投機マネーが入ってきた時に全体に対するインパクトが大きく価格変動の要因になってしまいます。しかし、取引数を増やすことができれば投機マネーのインパクトが微々たるものとなり、価格も安定させることができます。

実際、本上場の一つの条件にも「十分な取引量が見込まれる」ことがあり、論点として議論されています。大豆やトウモロコシに比べて、日本のコメは少量多品種です。新潟コシヒカリはともかくとして他の品種の取引量を増やすには何か特別な施策が必要になるかもしれません。

以上、コメ先物取引について説明してきました。日本古来の先物取引、デメリットをうまく制御することで、コメ農家のメリットになるような使い方ができるといいですね。

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