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五輪で注目集まる 「ハラール神戸牛」精肉店を直撃!

五輪で注目集まる 「ハラール神戸牛」精肉店を直撃!

イスラム圏からの観光客が増え、2020年の東京オリンピックではさらに多くのイスラム教徒(ムスリム)が来日すると見込まれます。ムスリムが食べられるハラールフードの必要性が高まる中、神戸の精肉店「神戸元町 辰屋」では「ハラール神戸牛」を販売し、国内外から注目を集めています。お店を訪ね、ハラール神戸牛担当の李鍾昊(り・じょんほ)さんに詳しく伺いました。

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世界的ブランド牛「KOBE BEEF」がハラールに

ハラール神戸牛

店頭に立つ李さん。堪能な語学力を生かし、ハラール神戸牛の誕生から販売までを一貫して担当しているそう

──「神戸元町 辰屋」は神戸牛の専門店ですね。

当店は明治創業の精肉店で、日本の牛肉文化発祥地といわれる神戸で神戸牛を販売しています。現在は、店頭とインターネットでの小売販売と、飲食店への卸販売を行っています。

──今、外国人観光客に神戸牛が大人気のようです。先日も、神戸牛が食べられるレストランに長蛇の列ができていました。

神戸牛は2012年に初めてマカオに輸出され、その後も香港、シンガポール、アメリカ、ヨーロッパなどに輸出が拡大しています。それが各国のテレビで取り上げられるなどして、「KOBE BEEF(神戸ビーフ)」の名は世界的に知られるようになりました。海外の旅行会社のツアーでも、京都市内や姫路城を観光し、神戸で神戸牛を食べるコースが定番になっています。日本に来たら、寿司や天ぷらよりも神戸牛を食べたいと言う人もいるそうです。

ハラール神戸牛

──そこで、なぜ辰屋さんはハラールをはじめられたのでしょうか。

LCCの就航でイスラム圏からの訪日観光客が増えました。ただ、イスラム教には食に厳しい制限があり、食肉はイスラム法に従ってと畜されたハラール対応のものしか食べられません。

そんな中、兵庫県内で神戸ビーフを産出していると畜場が、ハラールと畜場の認可を受けて、「ハラール神戸牛」なるものが誕生することになりました。

長年にわたり神戸牛の素晴らしさを伝えてきた専門店として、これまで食べられなかったムスリムにぜひとも味わってもらいたいという思いで、2015年よりハラール神戸牛の販売を開始しました。

「ハラール神戸牛」のと畜・加工・生産者

ハラール神戸牛

お肉は真空パックで冷凍保存されています

──と畜・加工施設について教えてください。

ハラール神戸牛のと畜・加工は、神戸市にある牛専門の食肉処理センター「三田食肉公社」が行っています。2014年に宗教法人「イスラミックセンター・ジャパン」の監修の下で、ハラールと畜専用の設備を設けました。さらに2016年には輸出へ向けてUAE(アラブ首長国連邦)政府機関によるハラール認証を取得しました。UAEの査察の際には、私も担当者として同席しました。

──と畜は誰が行っているのでしょうか。

ハラール神戸牛の処理は、ムスリムの外国人が担当しています。食肉がハラールであるためには、ムスリムがイスラム法に従ってと畜しなければならないのです。

と畜だけでなく、加工プロセスや保管場所についてもハラールではないものと混ざることは厳禁で、当店でもハラール専用の冷凍庫を使用しています。

ハラール神戸牛

ハラール神戸牛には、ハラール認証シールが貼られています

──ハラール神戸牛の生産農家は?

ハラール神戸牛は、これまでのところ同一の牧場の牛を扱っています。UAEへの輸出許可を得るのに際して、使用しているエサの成分などについても全てチェックを受けています。イスラム教ではアルコールが禁じられていますが、特に海外では「和牛はビールを飲んで育てられる」という噂が有名で、ハラール神戸牛でもよくある質問です。しかし、ビールを飲ませるというのは和牛の中でも極めて少ない一部の例であり、その点についてもしっかりとチェックを受けています。

生産者、と畜・加工場、販売店、そして料理にいたるまで、すべてがハラール対応でないと、ハラール神戸牛ではなくなってしまいます。

輸出と国内消費、五輪へ向けた取り組み

ハラール神戸牛

飲食店「年中万菜録 月うさぎ」で提供されているハラール神戸牛のステーキ

──先ほど、ハラールではない神戸牛の輸出は2012年にはじまったと伺いました。ハラール神戸牛の輸出状況はどのようになっているのでしょうか。

UAE政府機関のハラール認証を受け、2016年からドバイへの輸出がスタートしました。年間600キロを超える輸出が行われ、年々輸出量は増えています。今後は他の国に輸出する計画も進んでいるようです。

──李さんもドバイへ行かれたのですか?

三田食肉公社の認証取得のため、ドバイへ同行しました。また、現地で商談会にも参加しました。驚いたのは、「神戸は知らないけど神戸ビーフは知っている」という人がいたことです。神戸と言う地名は知らないのに、食べ物の神戸ビーフは知っている。それほど海外では神戸ビーフの知名度が高いんです。

「ハラールの神戸ビーフがあるならぜひとも食べたい!」と皆さんにおっしゃっていただいて、ムスリムの富裕層から高級和牛が求められているのを実感しました。

──国内消費についても教えてください。

ハラール神戸牛の国内消費は、お肉の販売と飲食店での提供があります。最初は販売のみでしたが、シンガポールの旅行会社から「神戸でハラール神戸牛を食べるプランが作りたい」と要望があり、それをきっかけに神戸市の飲食店で取り扱いを開始していただきました。現在(2019年6月時点)、当店のハラール神戸牛が食べられる飲食店は10店舗あります。

神戸市の飲食店「年中万菜録 月うさぎ」ではハラール神戸牛のフルコースを提供しており、当初は私もホールに立って接客を行いました。顧客層は20~50代と比較的若い人が多く、家族連れやカップル、お一人さまもいます。ハラール神戸牛のコース提供時には、アルコール成分を含まない調味料を使う、非ハラールと調理器具を分ける、専用食器を使うなど、ポリシーを定め、あらかじめ開示することでお客さまにご納得いただいております。

ハラール神戸牛

ハラール専用の鍋とフライパン

──来年には東京オリンピックの開催も迫っています。オリンピックに向けて行っていることは。

2020年の東京オリンピック、さらに2025年には大阪万博もありますので、ハラール神戸牛を召し上がっていただける飲食店を今後も増やしていく予定です。

ハラール対応はコストと手間がかかりますが、旅の記念に神戸牛を楽しんでもらえたら私としてもうれしいですね。観光旅行に限らず、ムスリムとのビジネス接待でご利用いただくケースも少しずつ増えてきています。飲食店と協力しながら、ハラール神戸牛をしっかり日本に定着させていきたいです。

神戸元町 辰屋

画像提供:神戸元町 辰屋

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